第67話 サイレント、アリアにウソをつく
これまでのあらすじ
院長先生、天界から出るための転移魔法を邪魔される。
サイレント一行、天界の端から脱出しようとする。
今思えば、アリアが心配そうに、ボクの顔を見ていたのは、怖かったからじゃない。
アリアは神バリアのせいで天界から出られないことを不安に思っていたからだ。
何が『言いたいことは分かっている』だよ。
ボクはアリアの何一つ分かっていなかった。
くそっ。
「空動!!」
院長先生は空を飛び、ボクは空動を何度も繰り返し、アリアの元へと向かう。
「師匠、院長先生、アリアのことは気にせず、逃げてくださいデス!!」
ボクが天界の中に入ろうとすると、アリアはボクを押して天界に入れないようにしてきた。
「そんなことできるわけがない」
アリアは魔族だ。
天界に魔族が天界に不法入島したと知られれば、最悪の場合、死刑になってしまうかもしれない。
「師匠、ダメデス。もう天使たちが来ているデス!!」
「アリア、バリアを出したままにするんだ!! ボクがこんなバリア、壊してやる!!」
「デスが、師匠、このバリアは難しいと思うデス」
「いいから、言ったとおりにするんだ。言ったでしょ、ボクに任せてって!!」
語気を強めるボク。
「分かったデス」
アリアが手を出すと、神バリアが作動し、透明なガラスのようなものが現れた。
「院長先生、ボクの魔力のすべてを使っていいので、ホーリィを使って、このバリアを壊してください」
「やってはみるけど、堕天使の私の魔法で神バリアが壊れるかどうかは分からないのよ。何せ神様が作ったものだから」
「でも、やってみる価値はありますよね? お願いします!!」
「分かったのよ」
院長先生は飛びながら、ボクの背中に触り、ボクの魔力を吸い取りながら、魔力を練り上げる。
「ホーリィ」
院長先生は、バリアに向かって超特大のホーリィを放つと、どかーん、と爆発し、あたりはモクモクと煙が出た。
「よし、これならいける!!」
煙がおさまるのを待つボク。
「ダメだったのよ、サイレント」
「ダメって、ひびくらいはできたんじゃないですか?」
「傷一つついていないデス」
ボクは『なんだって!?』……と驚きを口に出しそうになって、その言葉をひっこめた。
「おそらく、院長先生の攻撃は通らないと思っていたんだ。想定通りだよ、アリア。大丈夫、まだ手はあるから」
ボクはしたり顔を作って、「うん、うん」とうなずいた後、にっこりと笑って見せた。
多分、うまく笑えたはずだ。
「そうだったんデスね」
目の色を輝かせるアリア。
本当にアリアは素直なんだから。
「今度はボクの攻撃、いくよ!!」
ボクは思いっきりバリアを掌底で叩いた。
バチン。
鈍い音がする。
「いってー!!」
「やっぱり、師匠でも無理デス」
「違うんだ、アリア。これは神バリアが出ているとき、ボクでも触れるかどうかを確認したんだ」
「そうだったんデスね」
今度もまた目を輝かせるアリア。
「今度は本番。思いっきり殴ってこのバリアを壊すから、アリアはバリアの破片が目に入らないように気をつけて」
「分かったデス」
「とりゃ!!」
ボクは殴る。
だが、神バリアは壊れない。
「あれ? おかしいな? 神バリアが壊れないなんて。あ、分かった。1回だけのパンチだったからいけなかったんだ。何発も殴らないと。おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃー!!」
何発も殴るが、やっぱり神バリアは壊れない。
「サイレント、神バリアは神様が作り出したバリアなのよ。いくらサイレントでも壊れないのよ!! 私たちだけでも逃げるのよ!!」
院長先生が諦めろとばかりにボクをバリアから引きはがそうとする。
「イヤです!! ボクは絶対にあきらめない。おりゃ。おりゃ、おりゃ、おりゃ、おりゃ!!」
「おい、あれ見ろよ、神バリアを壊そうとしているぜ。徒労で終わるのに」「そうだ、神が作ったものを壊せるわけないだろう、徒労だ、徒労」「あはは、神バリアを壊そうなんて、頭イカれているぜ」
アリアを捕まえに来ている天使たちもボクの姿を見て、あざ笑い始めた。
「師匠、もうやめるデス。師匠の拳から血が出ているデス」
「ボクはあきらめないんだ、絶対に!!」
「ダメデス。もう、天使がそこまで来ているデス。このままだと、師匠たちまで捕まってしまうデス。師匠、アリアのために、ここまでしていただき、ありがとうございましたデス。あ、そうだ、ダガーを返すデス」
アリアはボクに向かって、ダガーを手渡してくる。
「そうだ、思い出した!! このダガーがあれば、この神バリアが壊せるんだった。思い出させてくれてありがとう、アリア」
「そうだったんデスね!!」
ボクのウソなんかつゆ知らず、アリアはただ目を輝かせながらボクを信じて見続けてくる。
ボクはもう泣きそうだった。
院長先生のすごい威力のホーリィでもダメだったのに、ボクが神バリアを壊せるわけがない。
バカなボクでもうすうす気づいていた。
ボクでも分かることなら、アリアならなおさらだ。
それなのに、アリアはボクの言うことを信じて、純粋な瞳でこちらを見続けてくる。
師匠が壊せると言ったんだから、絶対に壊せるんだ……と。
アリアの師匠として、絶対にその信頼にこたえて見せる!!
「おい、聞いたか? 神バリアをダガーで壊すだとよ」「へー、そんなのができるなら、見てみたもんだな」「面白そうだ、見学してやろうぜ。どうせ、ここまで追いつけば、いつだって全員一網打尽にできるんだからな」「ひひーん」
ボクたちに追いついてきた天使たちが、どうせ神バリアは壊せずに諦めるだろうと、見学をし始める。
ボクはじんじんと痛む拳に鞭を打ち、ありったけの力でダガーを握りしめ、思いっきり神バリアめがけて振り下ろした。
神バリアに当たると同時に、パキン……と割れる音。
「あーあ、ダガーの方が壊れちゃったか」「最初から無理だったんだよ」「どれ、そろそろ、捕まえますか」「ひひーん」
天使たちがボクたちを捕まえようと動きだしてすぐに足を止めた。
「割れていたのは神バリアだと」「さっきの割れる音は、神バリアが割れたというのか?」「ありえない」「ひひーん」
その場にいた全員が目を丸くする。
「はぁはぁ、やってやったぞ!!」
「さすが、師匠デス!! アリア、信じていたデス!!」
アリアはボクに抱き着いてきた。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、神バリアを壊そうとするが天使たちに笑われる。
サイレント、神バリアをダガーで壊し、天使たちの度肝を抜く。