第65話 サイレント、振り返ろうとする
これまでのあらすじ
院長先生、天使長官カナエルに抱き着いて、アーティファクトのペンダントを拝借する。
院長先生、天使長官カナエルを無傷で気絶させようするが失敗して、ひん死にさせる。
「何か知らんが、天使長官がやられたぞ」「敵襲か? それとも内部分裂か!!」「とにかく戦闘準備だ、天使長官を守れ!!」
天使たちがてんやわんやしている間に、ボクは完全に気配を消して、ゆっくりとカーテンの後ろに隠れた。
天使たちの話を聞く限り、どうやら、院長先生が天使長官カナエルにホーリィを放ったのを目撃した天使はいなさそうだ。
「みんな落ち着け!! たとえ、ここにいる全員がよってたかって攻撃魔法をかけたところで、1秒で回復してみせる天使長官様だぞ。当たった数はたったの一発。まずは、天使長官の回復を待って状況を尋ねようじゃないか」
1人の天使が、冷静にみんなに指示を出す。
あれ?
この声どこかで聞いたことある声だぞ。
ボクはカーテンを動かして、そっと覗いてみた。
あ、指示を出している天使って、昼間見かけた門番天使の先輩のほうじゃないか。
「確かにそうだ」「まずは回復を待ってからにしよう」「そうだな」
先輩門番天使の呼びかけに、うなずく天使たち。
「サイレント、今のうちに、このタワーから全員で逃げるのよ」
「そうですね……って、アリアはどこにいるんですか?」
「そういえば、さっきから姿が見あたらないのよ」
ボクはカーテンから顔をのぞかせ、辺りを見渡すが、アリアは見つからない。
一秒でもはやく逃げ出したいという時に、どこに行っているんだ、アリアは?
この場で大声を出して、目立つわけにもいかないし……
「アリアをおいていくってわけにはいきませんか?」
「こんなところに取り残したら、アリアちゃん捕まっちゃうのよ」
……ですよね。
「3秒は待ったのに、天使長官は全然回復しないじゃないか?」「どうなっているんだ?」「まさか、魔力切れをおこしているんじゃないか?」
「魔力切れの可能性が高い。魔力があるものは全員回復魔法を!!」
「「「承知! ヒール!!」」」
天使たちは天使長官に回復魔法をかける。
「回復しない……だと……」「どうしてだ?」「もしかして、特殊攻撃?」
「はっ、そうだ。後輩のユニコーンも特殊攻撃を受けたせいで、回復していなかった……ということは、つまりこの中に、天使長官に攻撃した堕天使がいる可能性が高い!!」
先輩門番天使が断言する。
「「「なんだって!!」」」
全天使は驚く。
まずい、まずいよ、これは。
だって、このまま堕天使探しをされたら、すぐに院長先生が捕まっちゃうもん。
「探せ!! 堕天使を!! この中にいるはずだ!!」
ひー、気配を消して隠れているとはいえ、このままじゃ見つかっちゃうよ。
「院長先生、どうするんですか?」
院長先生にだけきこえる声で話すボク。
「今、どうするか考えているのよ」
院長先生は、ボクの背中でこたえる。
院長先生だけに任せておけない。
ボクも何か策を考えないと!!
「あれ? 師匠、どこデスか? 師匠の魔力が天使長官を倒している間に、アリア、落ちていたダガーを拾って来たデス!!」
アリアは魔族の気配を消しながらも、大声でボクを探し始めた。
「おい、『師匠』とやらが天使長官を倒したらしぞ」「そいつが堕天使ということか?」「見つけ次第ぶっ飛ばしてやる」
ざわざわしだす天使たち。
やめてくれ、アリア。
魔力を提供したのはボクだけど、実際に魔法で天使長官を倒したのは院長先生で、ボクじゃない。
これじゃあ、ボクが天使長官を倒したと勘違いされるじゃないか。
ボクは無実だと言いたいけど、声を出せば、天使たちにボクたちの存在に気づかれるというジレンマ。
ううっ、じれったい。
「あれ? 師匠、さっきはこのあたりにいたデスよね?」
アリアはきょろきょろしながら、ボクを探し続ける。
神タワーにいるすべての天使がアリアの動向をじっと見ている。
このままじゃ、いずれボクの居場所見つけられて、全員にボコられる。
「分かったのよ。良い策がうかんだのよ」
ボクの耳元でささやく院長先生。
「さすがは院長先生!! それで、ボクは何をすればいいんですか?」
ボクも天使に気づかれないように小さな声でささやく。
「私の考えた長セリフを全部丸々覚えるのよ」
「無理です」
即答するボク。
だって、ボク、バカだもの。
「それなら、私がサイレントの代わりに話すから、私を天使たちの目につかないように、背中の後ろに隠しつつ、口パクをして、私のセリフにあった行動をとるだけでいいのよ!!」
「分かりました!!」
それくらいなら何とかできそうだ。
「それじゃあ、カーテンから出て、話すのよ!!」
「分かりました!!」
ボクは院長先生に言われた通り、カーテンから出た。
「ふははは、愚かな天使どもめ! まだ、私を見つけられないのよ?」
院長先生は、ボクの声を真似しながら、セリフを大声で言うと、全員がボクの方に注目しはじめる。
「愚かな天使だと?」「ふざけるな」「誰だ天使を愚弄する輩は?」
天使たちからのブーイング。
「師匠!!」
ボクに気づいたアリアは大声をあげて、ボクに駆け寄ってきた。
「師匠ということは、あれが天使長官を攻撃した輩」「見たことのない顔だ」「名を名乗れ!!」
「私の名は、義賊パルーン。変装名人で正体不明とささやかれていたけど、実は、堕天使だったのよ!!」
ボクは口パクしながら腰に両手をあて、ポーズをとる。
ポーズをとった後、ばさっと音がしたので振り向くと、そこには確かに、黒い翼が出ていた。
「本当に院長先生は堕天使だったのか」
ボクがつぶやく。
「サイレント、前をみるのよ。みんな不審に思っているのよ」
「あ、すみません」
ボクは院長先生に促されるまま前を見た。
「パルーンの正体が堕天使で、天使長官に攻撃したということか」「やはり天界にパルーンが潜入していたのか!!」「覚えたぞ、お前の顔。絶対に忘れないからな」
え? 天使たちがボクの顔を覚えた?
それは困る。
これじゃあ、パルーンの正体はボクで、ボクが天使長官に攻撃したみたいじゃないか……
「あ、違うんです。ボクが堕天使なんじゃなくて、後ろに背負っているのが堕天使である院長先生なんです」
ボクは後ろを振り返り、院長先生を天使たちに見せつけようとした。
「転移なのよ!!」
ボクとアリアと院長先生は神タワーから出て、門のところに移動していた。
忙しい人のためのまとめ
天使たち、天使長官への攻撃は堕天使の攻撃だと気づく。
サイレント、すべてをパルーンのせいにして、神タワーを脱出する。