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第63話 サイレント、肩を強くつかまれる

これまでのあらすじ

 サイレント、神の作った杖で天使たちをヴァンパイア・あげはの支配から解放する。

 ヴァンパイア・あげは、天界の乗っ取りを諦めない。




 ヴァンパイア・あげはは、倒れている天使に噛みつこうとする。


「だから、させないってば」

 ボクは持っていた神の作った杖でまた肩を叩いた。


「絶対に諦めないし」


 こんなにも不利な状況だというのに、ヴァンパイア・あげはの眼はまったく死んでいなかった。

 むしろ、やる気に満ち溢れている。


 きっと、ボク並に頭が悪いに違いない。

 まあ、スライムよりも弱いSランクの魔物だから仕方ないか。


 でも、いい加減に、天界の乗っ取りは諦めてもらわないといけないぞ。

 さて、どうしたものか……


「あなたは大きな勘違いしているデス!!」

 ボクが考えあぐねていると、アリアがヴァンパイア・あげはの顔に人差し指をさした。


「は? 勘違いなんかしてないし」


「いいえ、勘違いしているデス。あなたは魔王の好きな肌は健康的な肌が好きだと言っていたデスね?」

 アリアは指さしていた手を腰に当てて確認をとる。

「そうだし」

 うなずくヴァンパイア・あげは。


「アリアの調べによると、魔王が好きな健康的な肌とは、日光で痛めつけていない肌の白い魔物のことなんデス」

「は?」

 ヴァンパイア・あげはは、アリアの話を聞いて硬直する。


「デスから、魔王は肌が焼けた魔物が好きじゃないのデス」

「ちょっと待って、アリア。それじゃあ、このヴァンパイア・あげはは、無駄な努力をしていたってこと?」


 硬直しているヴァンパイア・あげはの代わりにボクは尋ねた。


「そういうことデス。魔王のこともまったく知らないで寵愛を受けようなんて片腹痛いデス」

「そんなのウソだし」

 頭を抱え、首を振りながら、アリアの話を信じようとしないヴァンパイア・あげは。


「アリアはウソをつけないんデス」

「そう言って、うちをダマすつもりだし」


「ダマすつもりなんか毛頭ないデス。心当たりはないデスか?」

「そんなのないし。うちが肌を焼いて健康的になってから、うちの魅力に気づいた魔王様は急にそっけない態度になったくらいだし」


「それは、逆デス。魔王が好きなのは透き通るように白い肌デスから、焼かれた肌を見て、ひいていたんデス。だから急にそっけない態度になったんデス」

 アリアは言い切る。


「そんなはずないし」


「いいえ、アリアの情報は確かデス。つまり、あなたは魔王に好かれたいのにも関わらず、誤った情報を信じたせいで、自分の肌を焼くという苦行をしていた挙句に、魔王に嫌われることをしていたんデス」


 アリアはもう一度、ヴァンパイア・あげはの顔にぴしっと人差し指をさした。


「そんなのって、ないし」


 この世の終わりだとでもいうように、がくっとひざから崩れ落ちて、絶望するヴァンパイア・あげは。


 それはそうだよ。

 好きな人に好かれようとした苦行が逆効果だって、ムゴすぎるもん。


 立ち直れないほど落ち込むヴァンパイア・あげはにアリアはぽんと肩を叩いた。

 きっと、魔族同士で励ますつもりだろう。


「まだ、勘違いしていることがあるデスよ」


 励ますんじゃなくて、傷に塩を塗る気だった。


 しかも、満面の笑みで。

 アリア、恐ろしい子だ。


「は? まだあるし?」


 小刻みに震えながら、首を横に振るヴァンパイア・あげは。


 もうやめてあげて。

 ヴァンパイア・あげはのライフはないんだから。


「あるデス。あなたは天界を乗っ取るつもりだったみたいデスが、無断の独断行動だったのではないデスか?」


 もちろん、ボクの心のツッコミが届くわけもなく、アリアはにっこりしながら淡々と質問する。


「そうだし。うちがいちはやく天界を乗っ取れば、魔王様が喜ぶと思ったんだし」


「そこが勘違いしているんデス。物事には順番があるんデスから」

「順番? 何のことだし?」


「魔王は人間界を支配したことを天界に宣言した後に、天界を支配する計画だったんデス。それなのに、魔王の宣言前にあなたが天界を支配したら順番が逆になるデス」


「そんなの逆になったって関係ないって、フランケンシュタインが言っていたし」


「いいえ、魔王にとって順番はとても重要なんデス。もしも、あなたが無断で天界を支配したと報告すれば、魔王は決してあなたには振り向かないどころか、つかえない魔族だとさげすむデス」


「そんな……うぇーん、うぇーん」


 地面に顔を伏せ、泣き崩れるヴァンパイア・あげは。

 どうやら、天界を乗っ取ろうという気は失せてしまったみたいだ。


「うぇーん、フランケンシュタインが、うちにウソをついていたし……あいつだけは絶対に許さないし。あと、うちを杖でぶった冒険者サイレント」


 そうだよね、ウソをつかれたら、絶対に許せないよね、分かるよ、その気持ち…………って、今、さらっとボクを追加したよね?


 なんでボクまで恨まれなくちゃいけないんだ。

 確かに、杖でぶったのは確かだから、何も言えないけど。


「話は聞かせてもらったのよ! 泣かないでも大丈夫なのよ!! だって、まだ、ヴァンパイア・あげはは天界を支配していないのよ!!」


 急に話に割って入ってきたのは院長先生だった。

 はぁ、また面倒なことになりそうだ。


「確かにそうだし」


 泣き顔のまま、顔を上げるヴァンパイア・あげは。


「天界を支配しようとしたことは、内緒にしてあげるのよ、ねえ、天使長官・カナエル?」

 院長先生は天使長官・カナエルをじっと見つめた。


 いやいや、天使長官が、そんな簡単に不問にするわけがない。


「…………分かったっす」

 ……って、了承するんかい!!


「マジだし?」


「マジなのよ。これで、あなたが天界を無断で乗っ取ろうとしたことは、魔王にはバレないのよ」


「あなた、超いい人だし」

 いつのまにか、ヴァンパイア・あげはは笑っていた。


「私をいい人だと認めてくれてありがとうなのよ。とてもいい気分なので、もっと良いことをさせてもらってもいいのよ?」


 笑ったかのように目じりを細めながら、提案をする院長先生。

 ボク、知ってる。


 この眼は悪いことを考えている院長先生の眼だ。

 絶対にもっと良いことなんかじゃない。


「良いことって、なんだし?」

 純粋なまなざしで聞き返すヴァンパイア・あげは。


「あなたの褐色の肌は、長い期間日に焼かなければ、元の白い肌に戻るはずなのよ?」

「おそらくそうだし」


「それなら、天界の暗い牢屋に何十年も入っていれば、自然と白い肌に戻って、魔王ももう一度振り向いてくれるはずなのよ!!」

「そうだし、その通りだし」


 眼を輝かせながら、うなずくヴァンパイア・あげは。


「今なら、無料で何十年も牢屋に入れてあげるのよ。ね、天使長官・カナエル?」

 院長先生は天使長官・カナエルにウィンクをしながら同意を求めた。


「分かったっす。今回だけ特別っす」

「本当だし?」


「天使長官の名誉に誓うっす!!」

「ありがとうだし。天使長官もいい天使だし!!」


「そうと決まれば、牢屋に入るのは……いや、善は急げなのよ。すぐにヴァンパイア・あげはを部下に牢屋へ送らせるのよ」

「分かったっす」


 天使長官・カナエルは手をぱちんと鳴らす。


「話は聞いていたであります。連行するであります」

 ぴしっと敬礼をする門番天使。


「ん? それって、ただ単に、ヴァンパイア・あげはを牢屋送りにするってだけデスよね……」

 アリアが言おうとしたので、ボクはアリアの口を手でふさぐ。


「何を言っているんだ、アリア。こういう時は、静かにヴァンパイア・あげはを見送るのが礼儀ってもんだよ!!」


 ヴァンパイア・あげはは門番天使に連行されていった。


「これで一件落着だね!!」


 ボクは、門番天使に転移されるヴァンパイア・あげはを見送ってから、アリアに言う。


「一件落着? 神の作った杖の魔力を無断で全部使っておいて、何を言っているっすか?」

 ボクは背後から右肩をすごい力でつかまれながら、尋ねられた。


忙しい人のためのまとめ

 アリア、ヴァンパイア・あげはの心をばきんばきんに折る。

 院長先生、ヴァンパイア・あげはを言葉巧みに牢屋へと誘導する。


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