第62話 サイレント、天界の英雄になる!?
これまでのあらすじ
院長先生、ヴァンパイア・あげはに人質にされる。
サイレント、神の杖と院長先生の交換取引を提案する。
ボクがどうして院長先生が怒っているか分からないでいると、急に神の作った杖が光り出した。
「なんで神が作った杖が光っているんだ?」
ボクはマジック・バック以外の魔法は使えないはずなのに。
まさか、魔法が使えないボクが神の作った杖を持ったから、杖が暴発したのか?
まずい、アリアを巻き込んでしまうかもしれないぞ。
ボクはアリアを腕から降ろすと、杖を投げ捨てようと、振りかぶった。
振りかぶった瞬間、パタパタと倒れていく天使たち。
まるで、ボクが杖を振りかぶったから倒れたみたいだ。
意味が分からない。
誰か状況を説明して。
思考と共に、体も硬直する。
気が付けば、ボクと院長先生とアリアと天使長カナエルとヴァンパイア・あげはだけになっていた。
「何をさぼっているし? はやく起きて、あいつらを捕まえるし!!」
倒れている門番天使を足蹴にするヴァンパイア・あげは。
「あれ? ここはどこでありますか? 確か、門番をしていた記憶はあるでありますが……」
足蹴にされた門番天使は、混乱をしながらあたりを見回す。
「はやくあいつらを捕まえるし!!」
起きた門番天使に命令するヴァンパイア・あげは。
「まずい、逃げるよ、みんな!!」
ボクは反射的に叫んだ。
「大丈夫なのよ、サイレント」
「大丈夫なはずないでしょ。気絶していた門番天使が起きたんですよ? 追いかけられちゃいますよ」
「でも、実際に追いかけられていないのよ」
あ、確かに。
何で追いかけてこないんだ?
ボクは起こされた門番天使の方を見る。
そこには、頭を押さえながら、ぼーっと立つ門番天使の姿があった。
「何を突っ立っているし? はやく追いかけるし!!」
またも門番天使に命令をするヴァンパイア・あげは。
「あなた、誰でありますか? どうして、あなたの言うことを聞かないといけないでありますか?」
門番兵士はヴァンパイア・あげはの命令を聞かなかった。
「は? うちの奴隷なんだから、疑問なんか持たずに、うちの言うことを黙って聞いていればいいし!!」
「無駄なのよ」
院長先生が話に割って入る。
「無駄ってどういうことだし?」
「サイレントが神の作った杖に、天使たちに追いかけられるなんて無理だからなんとかして……って願ったから、天使たちはあなたの奴隷から解放されて正気に戻ったのよ!!」
もしかして、ボク、やっちゃった?
「なんてことをしてくれたし!!」
ボクをにらみつけてくるヴァンパイア・あげは。
気迫だけでボクを殺してきそうな勢いだ。
「これは不幸な事故というか、なんというか……」
「不幸な事故なんかじゃないデス。何を弱気になっているデスか、師匠。あいつは、天使たちを奴隷にして、天界を乗っ取ろうとしていたんデスよ」
あ、そうか。
ボクがこの神の杖で願わなかったら、天界は魔族の手中に落ちていたのだ。
「アリアの言う通りだ。ボクは魔族から天界を救った英雄になったんだ!」
「ふざけるなし!! うちの天界乗っ取り計画が台無しだし。あ、そうだし。一からやりなおせばいいんだし」
言いながら、ヴァンパイア・あげはは混乱している天使を噛もうとする。
「させないよ!!」
ボクは瞬動を使って、あげはに近づくと、ヴァンパイア・あげはの肩に思いっきり持っていた杖を振り下ろした。
ボクの一撃で、ヴァンパイア・あげはは、肩を押さえながら、後ずさる。
「これは一体、何が起こっているでありますか?」
目の前でボクとヴァンパイア・あげはが戦っている姿を見て、門番天使は眉をひそめた。
そうだよね。
混乱するよね。
「魔族が襲来してるっす。そこにいる白いワイシャツとミニスカ女に絶対に噛まれちゃいけないし、他の天使を噛ませてもいけないっす!!」
「はっ、承知したであります、天使長官殿!!」
敬礼をする門番天使。
どうやら、状況を理解したようだ。
「ふっ、どうやら決着はついたみたいだね。慎重に天使たちを起こして、天使長官に説明してもらえば、捕まるのは君だよ、ヴァンパイア・あげは!!」
ボクは格好をつけて指をさす。
「うぇーん、うぇーん、うぇーん!! 魔王様、うち、失敗しちゃったし!!」
肩を押さえながら、急に子どものように泣き喚くヴァンパイア・あげは。
「それなら、ほら、天使たちが起きる前に魔界へ帰るんだ」
「そういうわけにはいかないし。ここで天界を乗っ取れずに、おめおめと魔界に帰ったら、
うちの魔王様への愛が疑われるし。絶対に諦めないし!!」
赤い目できっとにらんでくるヴァンパイア・あげは。
「魔王様への愛だって!?」
「そうだし。ウチ、魔王様のことが、世界で一番大好きっていうか、超好きっていうか、結婚したいっていうか……」
ヴァンパイアのあげはは、今度はもじもじしだす。
「結婚? 笑わせないでほしいデス」
「は? 笑わせているつもりなんかないし」
「そもそも、一夫一妻制の魔界で、魔王は妻子持ちで、愛妻家じゃないデスか!!」
「え? そうなの?」
魔王って、奥さんと子どもがいるの?
初めて聞いたんだけど。
「本当だし? そんなの初耳だし」
ボクと同様にびっくりするヴァンパイア・あげは。
そっか、君も初耳だったんだね。
仕方ないよ、君はスライムよりも弱いSランクの魔物なんだ。
きっと、魔王が結婚していることは上層部しかしらないトップ・シークレットなんだろう。
「基本、アリアはウソをつけないんだよ」
敵のボクの言葉を信じるかどうかは分からないけど、一応フォローしておく。
「たとえ魔王様が結婚していたとしても、ウチの魔王様への愛があれば、魔界の法律なんかどうとでもなるし」
そっか、愛さえあれば、魔界の法律はどうとでもなるのか。
人間界とは大違いだな。
「愛で魔界の法律がかわったら、毎日のように法律がかわって、魔界は大混乱デス。愛で法律がかわるわけないデス!!」
ですよね。
うん、なんとなくそうなんじゃないかな……とは思っていたんだよ。
「そんなことないし。うちは日の光が弱点だったけど、魔王様が健康的な肌が好きだというから、弱点を克服して愛の力で日焼けしたし。それに加えて、うちが天界を乗っ取れば、うちの頑張りを認めてくれて、魔王様はうちだけを愛してくれるはずだし」
ヴァンパイア・あげはは、自分の意見を必死に主張した。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、神の作った杖で天使たちをヴァンパイア・あげはの支配から解放する。
ヴァンパイア・あげは、天界の乗っ取りを諦めない。