第58話 サイレント、勝利を確信する!?
これまでのあらすじ
ヴァンパイア・あげは、アリアに命令してサイレントを追い詰める。
アリア、ヴァンパイア・あげはの奴隷になっていなかったので、あげはに攻撃する。
「左側からボクとアリア、同時に攻撃しよう!! ヴァンパイア・あげはの右目が潰れているから攻撃しやすいはずだ」
ヴァンパイア・あげはに気配察知の能力があったとしても、右目なしでは戦いづらくなるはずだ。
「師匠もアリアも同じ方向から攻撃すると、かえってヴァンパイア・あげはは戦いやすいはずデス。それなら、左右両側から挟み撃ちの方がいいデス!! そうすれば、ヴァンパイア・あげはは視界をかなり確保しないといけなくなるデスから」
なるほど、さすがはアリア、良い作戦だ。
「よし、それなら、ボクは右から、アリアは左から回り込もう!!」
「分かったデス!!」
ボクはダガーで、アリアは大鎌で同時に斬りかかる。
「遅いし!!」
ヴァンパイア・あげははボクとアリアの同時攻撃をなんなく躱してみせた。
「視界が見えないら有利に戦えるだろう……なんて思っているんなら、うちのことなめすぎだし。うち、両目が潰れても、真っ暗闇でも戦えるし」
「なんだって!?」
くそっ、またもや形勢逆転か。
どうする?
「ひとまず距離をとろう、アリア」
「いえ、師匠、このまま攻撃を続けるデス!!」
「何か策があるの?」
「大きな声では言えないデスが、あるデス」
大きな声で作戦があることを叫んでいるけど、それは大丈夫なんだろうか?
「よし、わかった。このまま攻撃を続けよう!!」
ボクは、ダガーをかまえなおした。
「させないし。全方位ウィンド・ブレード!!」
ヴァンパイア・あげはが、魔法で竜巻を呼び出したので、ボクとアリアと院長先生は吹っ飛ばされてしまった。
「院長先生、危ない。空動!!」
ただでさえ気絶しかかっている院長先生にこれ以上のダメージを与えちゃダメだ。
ボクは空動を使って、壁にぶつかる直前で、何とか院長先生を救出する。
ふー、院長先生は助けたぞ。
「ぐはっ」
ボクがほっとしていると、アリアの呻く声。
ボクがうめき声のあった方を見ると、アリアは壁にもたれながら人形のように座っていた。
おそらく、壁に背中を強打し、そのまま床に落ちたのだろう。
「大丈夫、アリア?」
ボクは院長先生を静かに床に寝かせた後、アリアの方へと急いだ。
「致命傷は避けたデスが、すぐには戦えそうにないデス」
「そうか、それなら後はボクに任せて、少し休んでいるといい」
ボクは格好良く見えるように、背中越しでアリアにサムズアップする。
「すみませんデス」
「いいってことよ」
どうせ相手はSランクの弱い魔物なんだから。
「せめて、先ほど思いついた作戦を伝えるデス」
小声で話してくるアリア。
「あ、それ、聞きたかった」
小声で話すアリアの言葉を聞き逃さないために、ボクはアリアに駆け寄る。
「ヴァンパイアには致命的な弱点があるデス」
「それは何だい?」
「にんにくと日の光デス」
あ、分かったぞ、アリアの作戦が。
「なるほど、今から、にんにくを育てようというんだね?」
ちょっと大変かもしれないけど、すぐににんにくの苗を植えれば、何日か後にはにんにくができるだろう。
「違うデス、そっちじゃないデス、師匠」
「それはそうだよね。にんにくを育てるなんて非効率的だもんね。にんにくを買ってくればいいんだよね」
うん、分かってたよ。
にんにくを植えて育てるのは大変だけど、市場に行けば、今日中に買ってこれるもんね。
買ってきたにんにくをヴァンパイア・あげはにぶつければ倒せるって寸法だね。
「そうでもないデス。もうすぐ夜明けが来るデス。夜明けが来れば当然太陽が出てくるデス」
「なるほど、太陽の光を浴びさせようというわけか!!」
その手があったか。
にんにくばかりにこだわりすぎて、そっちは考えつかなかった。
さすが、アリア。
「師匠は、太陽が完全に出るまで、時間を稼ぐデス。おしゃべりでも戦いでもなんでもいいデスから」
「分かったよ」
とにかく時間を稼げば、ボクの勝ち。
さすがはSランクの魔物だ。
なんて簡単な勝利条件だろう。
「何をこそこそと話をしているし?」
ゆっくりとこちらに近づきながら訊いてくるヴァンパイア・あげは。
その右目はケガをする前に戻っていた。
なんて回復力なんだ。
本当にスライムよりも弱いのか?
いや、それよりも、今は時間稼ぎだ。
「ふふふ、君を完全攻略する作戦会議だよ」
「どんな作戦だし?」
「それは、その……」
ボクは言い淀みながら、窓の外とヴァンパイア・あげはの顔を交互に見る。
だんだんと空が白み始めてきた。
「どうしたし? 目が左右に泳いでいるし」
まずい、ボクが太陽を気にしていることがバレたら、カーテンを閉められてしまうかもしれない。
カーテンじゃなくても、何らかの方法で窓をふさがれたら、せっかくの作戦が台無しだ。
ここはなんとかヴァンパイア・あげはに作戦がバレないようにごまかさないと。
「君からの攻撃が、右から来るか、それとも、左からくるのか考えていたところなんだよ。右と思わせて左、いやいや、左と思わせて右。複雑に考えるな、1か0か、イエスかノーか、男か女か……ってね」
ボクは顔に流れる冷や汗を感じながらそう答えた。
「……ってゆーか、最後の方、何言っているか全然意味が分かんないし」
「作戦は暗号化するものだ。だから、意味がわかんなくていいんだよ」
そもそも時間を稼ぐための、でたらめなんだから。
ヴァンパイア・あげはが、今しているように、意味不明と言いながら、立ち止まりさえしてくれれば。
「それなら、貴方の血液を飲んで奴隷にしてあげるし」
ヴァンパイア・あげはは中央突破で突進をしてくる。
「なんで、攻撃してくるの?」
それを避けるボク。
「意味わかんないことを言って、時間稼ぎしようとしているからだし」
あ、時間稼ぎしているのがバレてた。
「そんなことないよ?」
「そんなことあるし!!」
そういいながら攻撃し続けてくるヴァンパイア・あげは。
ボクはヴァンパイア・あげはの攻撃をかわし続ける。
「いい加減、噛まれるといいし」
「それは断るよ。奴隷になりたくないもん」
ボクはもう一度ちらっと窓の外を見た。
よし、太陽がすべて出きったぞ!!
「ボクは長く苦しい戦いに勝ったんだ!!」
忙しい人のためのまとめ
アリア、サイレントにヴァンパイアは太陽の光に弱いことを伝える。
サイレント、太陽が出るまで時間を稼ぐ。