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第56話 サイレント、不敵に笑う

これまでのあらすじ

 サイレント、勝つ方法も分からないのに、ヴァンパイア・あげはに勝利宣言をする。

 アリア、ヴァンパイア・あげはに噛まれる。





「苦しそうだけど、大丈夫? アリア」

 ボクがアリアに尋ねると、アリアはがくりと倒れる。


「大丈夫じゃないし」

 こたえたのはヴァンパイア・あげはだった。


「アリアに何が起こっているんだ?」

「それがウチにものを尋ねる態度だし?」


 ヴァンパイア・あげはは、ボクのことをぎんっとにらみつけてくる。


「ぜひ教えてください」

 ボクはすぐさま頭を下げてしまった。


 うう、こういう時、パシリ根性が植え付けられていて、すぐさま体が反応してしまうのが悔しい。


「そんなに知りたいなら、特別に教えてあげるし。今、アリアは、うちの唾液によって、ヴァンパイアの体に変わってきていて、体が熱くなっているし」


「何だって!? アリア、熱があるの?」

 ボクはアリアのおでこを触ってみた。


「熱い!!」

 まるで風邪をひいているみたいだ。


「うう……うう……」

 アリアは倒れながら悶え始めた。


「ほらほら、抵抗すると、もっともっと体が熱くなって苦しいっしょ? 抵抗せずに、奴隷になると宣言すれば、楽になれるし」


「あ……ど……奴隷になんかならないデス」

 必死に抵抗するアリア。


「きゃはは、強がりだし。うちの唾液がきかなかったのは、唯一、魔王様くらいだし」

「アリア、聞いたか? 魔王レベルならきかないんだって。アリアはいずれ魔王を倒すくらい強くなるんでしょ? それなら、これくらいの攻撃に負けちゃダメだ!! がんばれ、がんばれ!!」


「はぁ、はぁ、そうデスね…………」

 息を荒くしながらなんとかうなずくアリア。


「きゃはは、無駄な抵抗だし。魔王様レベルの高貴な血統で、魔王様レベルの精神力が高くなければ、苦しみが長引くだけだし」


「アリアは……魔王を倒すんデス。絶対に奴隷にならないデス」

「いいぞ、アリア、そのいきだ!!」


 魔族なんかの言いなりになっちゃダメだ。


「茶番劇だし。抵抗しようが、そのうち、うちの奴隷になるし」

「そうはさせない!!」


 アリアの奴隷にならないという願いをかなえてあげれば、魔王と同じくらいの能力があるんだという自信がつくだろう。


 このままアリアを応援し続ける以外に、何かボクにできることはないのか?

 ……あ、そうだ。


「アリアがお前の奴隷になる前に、お前を倒せばいいんだ!!」


 相手は速い移動ができて、噛みついた相手を奴隷にできるとはいえ、スライムよりも弱いSランク。


 お前なんか、アリアが抵抗している間に、ボクが倒してやる!!


「きゃははは、面白い冗談。うちを倒すとか、マジで言ってるし?」

 大口を開けて笑うヴァンパイア・あげは。


「大マジだよ。瞬動」

 ボクはダガーを構え、一気に距離を詰める。


「きゃははは。残念。ウィンド・ブレード」


 距離を詰めるが、ボクに向かってウィンド・ブレードを唱えたので、ボクがギリギリでそれをかわすと、上空へと飛ばされてしまった。


 先ほどと同じパターン。

 まったく、学習しないな、ボクは。


「うちの風魔法を攻略しないと、接近戦には持ち込めないし」


 くそっ、その通りだ。


 それなら、ダガーを投げるか?

 いや、ダガーを投げたところでウィンド・ブレードで飛ばされるのがオチだ。


 何か他に接近する方法を考えないと。


 その前に、このままの体勢で床に落ちたら、背中を強く打ち付けて大ダメージだ。

 ボクは空中で体を翻し、床に着地するのを待つ。


「そんなに接近戦をしたいなら、ウチが近づいてあげるし」

 着地を待っている間、背後から声がしたので、ボクは空中に飛ばされたまま、首だけで振り返る。


 そこには黒い羽を広げ、八重歯を出し、舌なめずりをするヴァンパイア・あげはの姿。


「……って、飛べるんかい!!」

「もちろんだし」


 ボクの首に顔だけを近づけてくるヴァンパイア・あげは。

 すでに、首筋にはヴァンパイア・あげはの八重歯が当たる感覚があった。


 まずい、まずい、まずい。


 逃げないと。


 まだ、床につかないのか?

 ボクは必死に脚を動かす。


「あーはっはっはっ、空中で足をばたつかせても、移動できるわけないし」

 そんなの言われなくてもわかっているよ。


 それでも、今、この場から逃げようとしなければ、君に噛まれて、ボクは奴隷になって、ジ・エンドじゃないか。


 そんな人生はイヤだ。


「それじゃあ、貴方の血液、いただくし」

 ヴァンパイア。あげはの八重歯がボクの首の皮にどんどんと食い込んでくる。


「イ・ヤ・だ!!」

 ボクは大声でわめきながら、思い切り空気を蹴った。


 その瞬間、まるで地面を蹴ったような感触があったかと思ったら、ボクはまるで空を飛んだかのように高速で移動していた。


「どういうことだし? 空中にいたのに、どうやって高速移動したし?」

 驚くヴァンパイア・あげは。


「ふっふっふっ」

 ボクは振り返りながら、不敵に笑ってみせた。


 どうやって移動したかだって?

 こっちが訊きたいよ!

 バカなボクが分かるわけないじゃないか!!


「実はボク、空気を蹴って、空中を動き回れるスキルがあったんだよね。空中を動くから、『空動』ってスキルがね」


 ボクはかっこいいポーズを決めながらヴァンパイア・あげはに真っ赤なウソをつく。


「うち相手に手を抜いていたってわけだし?」

 ボクのウソを信じるヴァンパイア・あげは。


 空中で動けるスキルなんかあったわけないじゃないか。


 そんなスキルがあれば最初から使っているよ!!

 もしかしたら、ボクと同じくらいのおつむのレベルなのかもしれない。


「ふっふっふっ、その通りだよ」

 ボクは不敵に笑いながらうなずく。


「それなら、試してあげるし」

 ヴァンパイア・あげはは、ウィンド・ブレードを使った捨て身の移動術を使ってきた。


「遅いよ。空動!!」

 ボクはさっきと同じように空気を蹴って移動する。


「なるほど、うちとほぼ同じ速さだし」

「そのとおりさ。速さで君の優位性はなくなったのだよ!!」


 ボクは余裕の笑みを浮かべ、人差し指をぴしっとヴァンパイア・あげはに指さす。


 良かった。

 良かった!

 良かった!! 空動が発動して。


 さっき習得したばかりのスキルだから発動しないかと内心ひやひやだったんだ。


「余裕でいられるのも今だけだし」

 ヴァンパイア・あげはは、ガンつけるかのように、こちらをにらんできた。


忙しい人のためのまとめ

 アリア、ヴァンパイアになりかける。

 サイレント、逃げたさすぎて、空気を蹴って移動するスキルを会得する。

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