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第23話 サイレント、謎の美少女と戦う

前回のあらすじ

ラカン、いい気分で繁華街を歩いていると美少女に出会う。

ラカン、美少女に負ける。








 

 キー

 玄関のドアが開く音が耳に入ってきた。

 ボクはすぐさま目を見開く。


 服はまだ半乾きで、少しだけ湿り気がまとわりついていた。

 まだ、あたりは暗く、目に入って来たのは、月明かりと星明りだけだ。

 暗さからみて、まだ深夜のはずだ。


 誰だ、こんな時間に。

 野良猫や野良犬か?

 ドアノブを開けることができる猫や犬がいると聞いたことがある。

 もしかしたら、その類かもしれない。


 あるいは魔物か?

 いやいや、さすがに町の中に魔物が入ってこられるわけがないな。

 ボクは玄関へと神経を研ぎ澄ませた。


 ヒタ……ヒタ……


 これは、人の足音だ。

 音を出さないようにゆっくりと動いているようだが、ボクの地獄耳からは逃れられない。

 足音がするということは魔物ではないだろう。


 身長はボクより少し小さいくらい。

 体重は軽い。

 おそらく、女性。


 該当する知り合いといえば……

 アイズ……か?

 いや、そんなはずはないな。


 もしも、アイズなら間違いなく、ボクが寝ていたとしても、大声で自分のところへ呼びつけるはずだ。

 それに、こんな深夜にこそこそとボクの家に上がり込むなんてあり得ない。


 アイズじゃないとなると、きっと泥棒の類であろう。


 そういえば、今日は家の鍵をかけていなかったなー。

 正確には、『今日も家の鍵をかけていなかった』か。

 ボク、基本的に鍵は開けっ放しだからなー。

 そりゃあ、泥棒も仕事がやりやすいよなー。


 でも残念でした、泥棒さん。

 ボクの家は盗まれるような高額な物はないから。

 家に高価なものがないと気づいたら、そのままこの家から出て行くだろう。

 よし、気付かないフリをしてやり過ごそう。


 ボクは目を閉じ、狸寝入りを決め込む。

 さあ、はやく帰ってくれ!!


 ひた……ひた……


 あれ?

 泥棒の足取りがおかしい。


 家の中を物色すらしていない。

 タンスやクローゼットには見向きもせずに、まっすぐにボクのいるベッドへと足を運んでいる。

 もしかして、ベッド泥棒……

 いやいや、そんなわけないよな。


 粗末なベッドだし。

 ……ということは、まさか、ボクを監禁するために……

 いやいや、それはベッド泥棒以上にあり得ない。

 まさか、ボクの命を狙っている?


 ひた……ひた……という足音がすぐそばで止まって、ボクはごくりと唾を飲んだ。

 歩き主の気配が消えたかと思ったら、あたりは静寂に包まれ、まるで誰もいないかのようにように感じられる。


 ぞくっ。

 急に悪寒がした。

 足音の主からほんの少しだけ漏れ出た殺気のせいだ。


 ボクは本能的に寝返りをうつように体を転がし、目を開ける。

 かこん。

 ボクのベッドに何か金属のようなものが刺さっていた。


 月明かりに反射された金属がきらりと見える。

 これって、剣か?

 いや、この形状は鎌……か?


 足音の主は何事もなかったかのように、ベッドに刺さった鎌を持ち上げて、振りかぶった。

 ボクは慌てて飛び起きながら、布団ごと鎌の柄を蹴る。

「しまったデス」

「よし」

 狙い通り、鎌を蹴り飛ばすことに成功したボクは思わず声を漏らしてしまった。


「くっ……」

 少女はすぐさま大鎌をとろうとする。

「させないよ」

 ボクは彼女の進路に回り込み、立ちふさがる。


「はやいデス」

「そりゃ、そうでしょ。ボクはアサシンなんだから」

 女の子に負ける道理がないよ。


「それなら、こうデス」

 女の子はボク目掛けて突進してくる。

 どうやら、捨て身で体当たりをするつもりだろう。


「甘い」

 ボクは少女の攻撃を軽々と避けて、持っていたダガーを喉元につきつける。

「あのさ、君は誰? もしかして、物取りかな? 物取りならここに金目の物は置いていないから、お金持ちの家に行った方がいいよ」


「違います。物取りなどではないデス」

 女の子は両手をあげ、これ以上抵抗する意志はないことを示しながら、ボクの質問に答える。

 ……って、なんで少女はこんなにも冷静沈着に答えているの?

 ダガーが喉元に突きつけられているんだよ?

 もっと、震え上がろうよ。


「物取りじゃないということは、知り合いかな? あれ? でも、ボクに10代の女の子の知り合いはいないはずだけどな」

 ボクはひとりごちる。

 一体、この子は誰だ?


「知り合いでもないデスね。今日初めてお会いしたはずデス。はじめましてデス」

 少女はぺこりと上流貴族がするような挨拶をする。


「ああ、はじめまして」

 挨拶をされてボクは反射的に冒険者でよくする挨拶を返す。


「ご丁寧に挨拶していただき、ありがとうございますデス。冒険者のアサシン、サイレントさん」

 知り合いでもないボクの名前を知っている……だと。


 いやー、ボクも有名になったもんだ。

 まあ、ボク、Fランクの底辺冒険者だしね。

 有名になっても、何もおかしくない……って、おかしいわっ!


 誰が、Fランクの底辺冒険者の名前なんて、好き好んで覚えるんだよ!!

 ボクがバカだからか?


 バカ過ぎて有名ってことなのか?

 ボクがバカ過ぎるから、名前だけ一人歩きしているのか?


「……って、誰がバカ過ぎるって?」

「そんなこと言ってないデス。こんなに強い人をバカになんかしないデス」


 あれ? 

 そういえば、この子、ボクのことをバカにしてない。

 ボクをバカだと知ってる人は、ボクに負けたら『くそっ、バカのサイレントに負けた』……って悔しがるのに。


 あれあれ?

 そういえば、ボクのことをバカだと知らない子がいたような……

 ふと、院長先生の顔が思い浮かんだ。


 そうだ。

 院長先生が言っていた、職場体験にくる子だ!!


忙しい人のまとめ話

サイレント、謎の美少女に襲われる。

サイレント、美少女に勝つ。

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