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第22話 ラカン、謎の美少女と戦う

前回のあらすじ

サイレント、自分が思っていた以上に足手まといだと知る。

サイレント、自暴自棄になって、雨の中、町中を走り回る。


2024/5/12 アリアのイメージイラストを挿入

(あくまでイメージイラストです)


 ――サイレントが眠りに落ちたころ――


 あー、食ったし、飲んだし、最高だ!!

 何より、サイレントがいなかったのが一番良かった。


 さて、良い気分のまま家へと帰るか。

 俺様は繁華街を抜けるために歩き出す。


 ぽつり。

 俺様の頬に一粒の水滴がつく。


 俺様はそれを片手でぬぐうと、空を見上げた。

 ぽつぽつと水滴が俺様の顔を襲ってくる。

 雨か。


 雨が上がったタイミングで店を出たのだが、また降ってきやがった。


 俺様は傘をさす。

 傘を差した瞬間、雨がどっと降り始めた。


 さすがは俺様。

 念のためさっきの高級レストランで傘を借りておいて正解だったぜ。


 ん?

 あそこに見えるのは、女の子?


 いや、こんな深夜の繁華街に、年端も行かぬ女の子が一人でいるはずがない。

 繁華街に少女が歩いていたら、頻繁に巡回している治安部隊が補導しているはずだ。

 バカのサイレントみたいに気配を空気並みにできるというなら話は別だが、そんな特技はないはずだ。


 ……ということは、俺様が飲み過ぎたせいで、幻覚でも見ているのか?

 いやいや、今日はシードルを一本しか頼んでいない。

 その一本をアイズとブリジットと一緒に飲んだんだから、一人の量はグラス2杯程度しか飲んでいないはずだ。


 幻覚を見るには足りなさすぎる。

 俺様は目をこすって、もう一度人影を確認する。

 確かに女の子だ。


 しかも、こんなに雨が降っているのに、傘もささずにつっ立っている。

「年端も行かぬ女の子が、こんな時間に出歩いていると危ないぞ」

 俺様は持っていた傘で少女が雨にかからぬようにした。


「この時間は危ないんデスか?」

 少女は土砂降りの中、振り返って俺様に訊いてくる。

 深夜が危ないということも分からない、世間知らずのお嬢様か。


 よくよく見てみれば、全然しわのない高級そうなゴスロリの服に身を包んでやがる。

 大方、高貴な身分のお嬢様が家出でもしてきたんだろう。

 たまたま、治安部隊には見つからなかっただけだな、これは。


「そりゃそうだろ。人通りが少ない深夜だぜ……って、その手に持っているのは大鎌か?」

 暗くて気づかなかったが、少女は自分の背丈もある大鎌を持っていた。

「ええ、そうデス」

 長い前髪で目は隠れて見えなかったが、口元は確かに歪んで笑っていた。


挿絵(By みてみん)


「なんだ、夜の繁華街が危ないところだってのは分かってるんじゃないか」

「どうしてそう思うんデスか?」

「まさか、真夜中に、草刈りをしに大鎌を持って来たわけじゃないだろう? 大方、自衛のためにもってるってところじゃないか?」

「これは自衛のためじゃないデス」


「それじゃあ、なんのために持ってるんだ? そんな大鎌」

「倒すためデス」

「倒す? 誰を? まさか、勇者である俺様じゃないよな?」

「あなたじゃないデス。探している人がいるんデス」


「誰だ? 婚約者か?」

「もしかして、手伝ってくれるんデスか?」


「手伝わねーよ。人探しなら、日が登ってからするんだな、嬢ちゃん」

「今、探さないといけないんデス」

「こんな夜中にか? 今からじゃ見つからないと思うぜ」


「それは探してみないと分からないことデス」

「よしんば、見つかったとしても、この真夜中に訪問なんかするもんじゃない。訪問された方も迷惑だろ!!」


「急いでいるんデス!! 協力する気がないなら、邪魔しないでくださいデス!!」

 どうやら、逆に怒らせちまったみたいだ。

「まぁまぁ、そんなムキになるなよ。俺様は勇者ラカンって言うんだ。嬢ちゃん、名前は?」

「『アリア』デス」


「アリア、雨も激しくなってきたし、とりあえず、俺様の家に来いよ」

 こういった家出少女は勇者である俺様が保護してやらないとな。


 俺様は少女の肩に触れようとした。

「アリアに触らないで欲しいデス」

 言いながらアリアは俺様の手を避ける。


 俺様が肩透かしを食らっただと……

 この勇者である俺様が。

 ありえない。


「分かったよ。触らないからついてきな」

「ついていかないデス」


「いいか、アリア、ここは危ないんだ。勇者様である俺様が保護してやるから、おとなしくついてこい」

「……とか何とか言って、アリアに乱暴する気デスね?」


「はぁ? そんなことするわけねーだろ!! 俺様は勇者様だぞ!! いいから来い!!」

 ブチ切れた俺様は大声を出す。

「弱い人ほど、よく吠えると言われますが、典型的な例デスね」

 少女は大鎌を構えた。


「は? 俺様が弱いだと? 勇者様である俺様が?」

 少女が大鎌を構えたので、俺様はとっさに少女と距離をとった。


「そうデス。アリア、戦いの天才で、強いデスから」

 敵意をむき出しにするアリア。

「はぁ? 勇者様の前で何ほざいてんだよ?」

 こういう生意気な少女には、きついお灸をすえて、反省させなければいけないな。

 俺様は傘を投げ捨て、背中の大剣を抜いて構えた。


「本当は貴方となんか戦いたくはないデスが……仕方ないデス。相手してあげるデス」

 ぴかっ、どーん。

 落雷が落ちた瞬間、俺様と少女は同時に地を蹴った。


 少女は俺様目掛けて大鎌を振り下ろす。

 はやい。

 だが、このはやさなら見切れる!!


「俺様の勝ちだ!!」

 俺様は紙一重で大鎌を避け、大剣で薙ぎ払う。


「いいえ、アリアの勝ちデスね」

「何を言っているんだ……」

 言ってから気づく。

 俺様の喉元に冷たい触感。


 まさか……俺様は目だけを下に動かし、冷たい触感の原因を確認する。

 そこにはまさしく、大鎌の刃があった。

 このまま刃を動かされたら、死ぬ。

 冷や汗が垂れた。


「分かっていると思いますが、一歩でも動いたら、死ぬデス」

「聞いてもいいか?」

「何デスか?」

「どうやって俺様の背後をとった?」


「あなたが大剣を振った後に、ジャンプしただけデス」

 俺様の目の前から消えるほどに高くジャンプしたということか?

 本当だとしたら、なんという跳躍力だ。


「この俺様の超速スピードを凌駕したってことか」

「超速スピード? あなた、だいぶ遅いデス」

「俺様が遅いだと?」

「アリアにはあなたが止まっているようにしか見えなかったデス」

 いや、そんなはずはない。

 俺様は確かに超速スピードで攻撃したはずだ。


「分かったぞ。俺様は今、酒が回っているから、実力が出せなかっただけだ」

「この後に及んで言い訳デスか? 見苦しいデス。それが勇者様の言う言葉デスか?」


「勇者であるこの俺様から一本取ったんだ。誇れるぜ」

「自慢するためにあなたと戦ったわけではないデス」

 自慢のためじゃなく、俺様と戦っただと……ということは……


「殺すのか?」

「いいえ、ここで騒ぎを起こすわけにはいかないのデス。人探しをしなければいけないので」

「それなら俺様をどうするんだ?」

 殺す一歩手前までいたぶり続けられる覚悟で尋ねる。


「こうするデス」

 大鎌が振りかぶられ、やられる……と思った俺様はとっさに目を瞑ってしまった。


 …………

 ……


 どこも痛くない。

 目を開け、振り返るが、そこには誰もいなかった。

 夢……だったのか?

 首元の冷たい感覚だけは残っていた。


忙しい人のまとめ話

ラカン、いい気分で繁華街を歩いていると美少女に出会う。

ラカン、美少女に負ける。

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