第44話 院長先生、カナエルと戦う!?
これまでのあらすじ
アリア、カナエルと戦い、楽勝かと思いきや、苦戦する。
サイレント、アリアに作戦を授けるが、失敗する。
「ごめん、アリア。ボクのせいでせっかくの作戦が台無しになってしまった」
「いいえ、何か他の作戦を考えるデス。はぁはぁ」
カナエル様から視線を外さずに、肩で息をするアリア。
ピンチなのがひしひしと伝わってくる。
アリアだけに作戦をたてさせちゃダメだ。
ボクも何か考えないと。
形勢逆転する作戦……
「そうだ、ボルケーノの魔法だ」
ボクは思いついたことを、口にする。
「師匠、使ってもいいデスか? ボルケーノ」
アリアはキラキラした瞳をこちらに向けてきた。
毎回ボクが禁止していたから、やはり今回も禁止されていると思っていたのだろう。
「ボクがアリアの人ジゴクの幻覚作戦を台無しにしてしまったからね」
「ちょっと待つのよ、サイレントにアリアちゃん。ボルケーノは地上からマグマを呼び出す魔法なのよ。ここは空島なのに777階の神タワーの上だから、ボルケーノをここで唱えてもマグマは呼び出せないはずなのよ」
「くっ、そうでした、ここは天界だったデス」
唇を噛むアリア。
「あれれ? 攻撃してこないっすか? ほら、いつでも攻撃してきていいっすよ」
カナエル様は、両腕を広げ、ゆっくりとゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
カナエル様が1歩近づくたびに、後ずさるアリア。
他に作戦が思いつかないのだろう。
ボクのせいで本当にごめん。
どうする?
ボクが攻撃するか?
いや、相手にはヒールがある。
ボクが攻撃したところで、アリアと同じような結果になってしまうだろう。
ボクがあれこれ考えている間にもゆっくりとだが確実にボクたちに近づいてくるカナエル様。
もう考えている時間もない。
「ボクとアリアで交代しながら攻撃しよう、アリア。だから、アリアは一度休んでいて」
ボクはアリアに提案してから、両脚のホルダーからダガーを取り出した。
「あなたが相手してくれるっすか?」
「その通りだよ」
「最高の痛みを与えてくれるっすよね?」
「ご期待に添えるようにがんばってみるよ」
ボクはダガーを構えて瞬動をしようとした。
「待つのよ、サイレント!!」
院長先生の叫び声がタワー内に響き渡る。
「なんですか、院長先生!?」
ボクは瞬動するのをやめて、院長先生の方を向く。
すると、どこからか風がひゅーと吹いてきた。
「私の出番なのよ」
ボクの肩をがしりとつかむ院長先生。
きっと、何か良い作戦を思いついたのだろう。
さすが、院長先生だ。
頼りになる。
「頼みます、院長先生!!」
ボクは院長先生に頭を下げた。
「インフィニティ・インテリジェンス、まさかあなたが私と戦うっすか?」
「その通りなのよ」
うなずく院長先生にカナエル様……いや、カナエルは足を止めた。
「天界を追放されたあなたが、現天使長官の私と戦ったら、天界の天使全員から命を狙われるっすよ?」
ん?
「天使を敵に回してしまうなら、院長先生は下がっていてください。ここはボクが戦います。院長先生はボクの願いをかなえるためだけについてきてくれたんですから、天使全員から狙われるなんてことあってはいけません」
「大丈夫なのよ、サイレント。あなたとの約束を守らせてほしいのよ」
「『約束を守らせてほしい』って今言ったっすか?」
「言ったのよ」
「ふざけるな! 神様のルールを破って、天界を追放されたインフィニティ・インテリジェンスが『約束を守らせてほしい』っすか? ふざけるなっす!!」
激昂するカナエル様。
「ふざけてなんかないのよ! 私は約束は守るのよ」
「ウソっす!! お前が、お前が神様のルールさえ守っていれば、神様が殺されることなんてなかったっす!! お前が神様のルールさえ守っていれば!!」
何があったかは分からないけど、院長先生が神様のルールとやらを破ったからカナエル様が怒っているのは分かった。
「ルールを破ってしまったことは仕方がないことだったのよ」
「仕方がないことだったかどうかをルール破りしたお前が決めるなっす!!」
院長先生の一言はカナエル様を余計に怒らせてしまった。
「カナエル様、院長先生を今にも殺しにかかってきそうだけど、一人で大丈夫なんですか? なんならボクも加勢します」
「元天使長官の実力をなめちゃいけないのよ。カナエルは私に攻撃されて傷を負ったら、魔法では回復できないから、カナエルは私の攻撃を受けたら、自然治癒を待つしかないのよ」
「おお、さすがは元天使長官!! カナエルに傷を与えて、院長先生は回復し放題なら院長先生の勝ちは確定じゃないですか」
「そうなのよ。だから安心して観戦しているといいのよ」
院長先生はボクに静かに微笑みかけながら、ゆっくりと歩み寄ってくる。
ん?
どうして院長先生はカナエルの方に行かずに、ボクの方に歩み寄ってくるんだ?
完全にカナエルに背を向けているじゃないか。
「師匠、避けるデス!!」
え?
避ける?
何を必死に叫んでいるんだ、アリアは?
「サイレント、あなたはちょっと気絶しているといいのよ」
そう聞こえた瞬間、首に衝撃が走った。
これは院長先生の手刀?
「院長先生、なんで……?」
閉じたくなんかないのに、まぶたが重くなり、だんだんと視界が狭くなってゆく。
「私は常に優しいものの味方だからなのよ」
院長先生の声を聞き終えた瞬間、ボクの目の前は真っ暗になっていた。
忙しい人のためのまとめ
アリアが苦戦しているので、サイレントが戦おうとする。
院長先生、カナエルと戦おうとするサイレントを止め、自分が戦おうとする。