第42話 院長先生、神の杖を盗む!?
2024/3/1 誤字を修正しました(本文の話の内容に修正はありません)
これまでのあらすじ
サイレント一行、神タワーに不法侵入する
サイレント、口を滑らせる。
雲が月を隠し、暗さがさらに増す神タワー。
「神の杖、確かにいただくのよ」
院長先生が金色の杖に手にした瞬間、床下から両腕が出てきて、院長先生の手首をがしりと掴んだ。
「アリア、見て! 床下から手が出てきた!!」
腕の方を指さすボク。
「師匠、アリアのお仕置きがイヤだからって、そんなウソは通じないデス……って、本当デス!! 床から手が出ているデス」
アリアは驚いて立ち止まり、手から目が離せなくなる。
良かった。
ボクのお仕置きどころではなくなったようだ。
「パルーン、窃盗の現行犯で逮捕っす!!」
叫び声がしたかと思ったら、今度は生えてきた腕から体が出てきた。
背中から白い翼が生えている。
……あれは天使だ。
床下から天使が現れて、院長先生を捕まえたんだ。
「違うのよ! 私はパルーンじゃないのよ!!」
天使から顔をそむけながら院長先生は叫んだ。
「ウソはいけないっす! もうとっくに神タワーの営業時間はとっくに過ぎているのに、こんなところにいるってことは、パルーンに決まっているっす!!」
「営業時間ギリギリまでトイレにいたのよ。そうしたらタワーの中が暗くなって、道に迷ってここにたどり着いたのよ!!」
本当にあったようなウソを流ちょうに話す院長先生。
これならごまかせるかもしれないぞ。
「そもそもここは観光禁止エリアで、特別な方法じゃないと入れないっす! 年貢の納め時っす、パルーン! おとなしくお縄をちょうだいするっす!!」
はい、すぐウソがばれた。
「だから、私はパルーンじゃないのよ!!」
必死に否定する院長先生。
「絶対にウソっす! パルーンは変装の名人っす!! どうせ、その顔も変装マスクをかぶっているに決まているっす!!」
「変装マスクをしているというならば、はがしてみるといいのよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて、マスクをはがすっす!! 覚悟するっす!!」
天使は院長先生の鼻をつかみ、思いっきり引っ張る。
「痛いのよ」
「痛いフリをしても無駄っす。変装マスクをすぐにはがしてやるっす」
さらに力を入れる天使。
「痛いのよ。本当に鼻がもげちゃうのよ」
「本当っす、マスクはしていないっす」
それはそうだ。
そこにいるのは院長先生でパルーンではないんだから。
「パルーンじゃないと分かったら、この手を離すのよ!!」
「すみませんっす。人違いだったみたいっす」
「分かればいいのよ」
院長先生が言った瞬間、雲が風に流れ、月明かりがタワー内を照らす。
「あなた、インフィニティ・インテリジェンスっすよね? 何で天界から追い出された元天使長官がいるっすか?」
「ち、違うのよ、きっと誰かと勘違いしているのよ」
「あなた直属の部下だった私が、間違えるわけないっす!!」
「まずいのよ、正体がバレちゃったのよ」
「今更神の杖に何の用っすか?」
怒りをあらわにしながら尋ねてくる天使。
「説明するから手をはなしてほしいのよ。そんなに強く握ったら、腕にあざができちゃうのよ」
「はなすわけないっす」
語気を強める天使。
「どうしてなのよ? 私はパルーンじゃないのよ」
「神の杖を盗もうとした現行犯には変わりないからっす!!」
まったくもって、ごもっとも。
なんの反論もできないね、院長先生。
ボクにアリアの相手をさせるから、バチが当たったんだよ。
「現天使長官のカナエルがインフィニティ・インテリジェンスを現行犯で牢にぶちこんでやるっす!!」
「ちょっと、サイレント、アリアちゃん、助けてほしいのよ!!」
「仲間がいたっすか!?」
驚いてボクたちの方を見る天使長官カナエル。
「自業自得じゃないかな」「そうデス、院長先生の自業自得デス」
ボクとアリアは結託する。
「ちょっと、サイレント、誰のためにわざわざ神タワーのてっぺんまで来たのよ??」
「院長先生が自分の結婚相手を探すためでしたっけ?」
とぼけるボク。
「違うのよ、サイレント、あなたのためなのよ」
「そうですよね」
そうなんだよね、ボクとアリアの婚約を破棄するためにこんなところまで来たんだよね……
ボクは両脚のホルダーからダガーを取り出す。
「やるっすか?」
カナエルはつかんでいた院長先生の手首をひねりあげ、院長先生を盾代わりにした。
「院長先生を盾にするとは卑怯だぞ!!」
「院長先生? ああ、インフィニティ・インテリジェンスのことっすか? 泥棒に説教されるいわれはないっす!!」
言い合いをしつつ、カナエルの姿を盗み見るボク。
銀髪は腰のところまで伸びていて、少女のような顔には、吸い込まれるような青い瞳を宿している。
白いキトンを身にまとい、ペンダントをしているだけで、武器らしい武器はもっていない。
うん、明らかにボクより弱そうだ。
弱そうなら、ボクでも倒せるかもしれないぞ。
「確かにボクに説教する権利はないね。でも、院長先生は返してもらうからね」
勝ち確定を確信したボクは、ため息をついてから、しぶしぶダガーを構える。
「ちょっと待つのよ、サイレント。囚われのお姫様を助けようっていうのに、なんでそんなにイヤそうなのよ」
「そもそも、院長先生はお姫様じゃないですし、弱いものいじめはボクの趣味じゃないんですよ」
ボクはいつもよりも低い声で格好をつけながら言う。
「大丈夫なのよ、カナエルの強さはAランクくらいなのよ。サイレントなら楽勝なのよ」
「ふっ、Aランクですって? そういうことは、はやく言ってください」
ボクはさきほどのように低い声で不敵に笑ってから、構えたダガーをそのまま天井にあげて手を挙げる。
パーにした手からダガーは離れおち、すっぽりと両脚のホルスターに入った。
決まった。
これぞ、スタイリッシュ降参。
格好よく降参したいときに使うボクだけのスキルだ。
こういう時のために、練習しておいて良かった。
「ちょっと、どうして、ダガーを収めたのよ!!」
どうして……って、戦わないためだよ!!
FランクのボクがAランクを相手にできるわけないじゃないか!!
忙しい人のためのまとめ
院長先生、天使長官カナエルに捕まる。
サイレント、院長先生を助けようとするが、カナエルがAランクと聞いて、降参する。