第41話 サイレント、神タワーに不法侵入する
これまでのあらすじ
サイレント、院長先生のウソに乗っかり、共犯となる。
サイレント一行、神タワーへ行く。
「そうですね、神タワーの警備の脆弱性を指摘するだけですもんね」
ボクは納得いかないまま、院長先生のウソにのっかる。
「そうなのよ、軽い気持ちでいけばいいのよ」
院長先生はボクの手を取り、門の前まで連れていく。
「待ってくださいデス。アリアをおいていかないでくださいデス」
院長先生が神タワーの門の魔法陣に手を触ると、まばゆい光に包まれる。
まぶしさのあまり一瞬目をつむってしまったが、すぐさま目を開けると、そこは室内だった。
まだ暗闇に目が慣れていないため良くは見えないが、どうやら神タワーに違法侵入できたみたいだ。
「サイレントご一行、神タワー内に到着なのよ」
院長先生に言われてボクはすぐさま両脚のホルダーからダガーを取り出し、何が起きてもいいように構える。
さあ、どっからでもかかってこい!!
右か?
左か?
それとも、天井からか?
いや、硬い床から天使が現れるかもしれない。
ボクは辺りを見回すが、天使らしき気配はなさそうだ。
「そんなに警戒しなくても大丈夫なのよ、サイレント」
何で?
神タワーの中には、警備天使がうじゃうじゃいるんじゃないの?
「師匠、窓の外を見てくださいデス!!」
アリアに促され、ボクも窓の外を見る。
「高っ!!」
天界の天使がアリのように小さい。
「ここは神タワーの頂上、777階で、普段は入れないところなのよ」
「神タワーの1階じゃないんですか?」
「違うのよ。何でわざわざ1階から攻略しなきゃいけないのよ」
「こちらは、神タワーの1階に不法侵入して、塔の頂上まで警備天使たちと戦ったり逃げたりするものだとばかり思っていましたよ」
「頂上まで転移できるのに、完全攻略する必要ないのよ」
「そうですよね。でも、院長先生ならやりかねないからな」
「何よ、サイレントは1階から登りたいのよ? それなら転移魔法をかけてあげるのよ」
ボクの余計な一言で呪文を唱え始める院長先生。
「かけなくて良いです」
ボクはぶつぶつと呪文を唱える院長先生に話しかける。
「遠慮しなくていいのよ。トイレに行きたかったのよね? 1階ならトイレもいっぱいあるのよ」
「お願いします、絶対にかけないでください」
ボクは院長先生に頭を下げる。
「それなら、アリアにかけてほしいデス」
今度はボクに代わって、アリアが頭を下げた。
「それはサイレントの許可が下りたら、アリアちゃんにかけてあげるのよ」
何で直接断らないんだよ、院長先生。
アリアが悪魔だと天使にバレたら大騒ぎじゃないか。
「師匠、いいデスか?」
ボクに確認をしてくるアリア。
「ダメだからね、絶対に!!」
「私はアリアちゃんを1階に送りたかったけど、サイレントがダメだと言うなら送れないのよ。ごめんねアリアちゃん」
「師匠がいじわるデス」
アリアはほおを膨らます。
あ、分かった。
院長先生はアリアに嫌われたくなくて、自分からは断らずにボクに判断をゆだねたな。
なんて、ずるいんだ、院長先生!!
「そうよ、サイレントはアリアちゃんにいじわるなのよ!! そういうイジワルは良くないと思うのよ!!」
すぐさまアリアに加勢しながら、アリアに抱き着く院長先生。
「くっつかないでくださいデス」
「ごめんなのよ、アリアちゃん。1階にいけない代わりにこの神タワーからの景色を楽しむといいのよ」
院長先生はアリアを促しながら、ボクにウィンクを送ってきた。
「院長先生、どうしたんですか、ウィンクなんかして。気色悪いですよ」
「何言っているのよ、サイレント。ここはアリアちゃんを絶景で足止めして、『あれ』を盗りにいく算段じゃないのよ?」
『あれ』を盗りにいく?
『あれ』ってなんだ?
首をひねるボク。
まだ理解していないボクを見かねて、院長先生は奥の方へ指をさす。
ボクは指の先を目でたどっていくと、そこにはアクリルのケースの中に立てかけられている黄金の杖があった。
…………ああ、『あれ』って、神の杖のことか!!
そうだよ、ここが神タワーのてっぺんなんだから、神の杖があってもおかしくないんだよ。
「そうでした!!」
ボクは抜き足、差し足、忍び足で神の杖の方へと歩き出す。
「師匠、アリアをおいて院長先生と二人でどこかに逃避行するつもりだったんデスか?」
院長先生とのやり取りを聞いていたアリアがボクを許すはずもなく、ボクの前に立ちはだかる。
「えっと……逃避行をするつもりはないかな……」
ボクは正直に言う。
「そうなのよ、アリアちゃん。サイレントはあそこに立てかけている神の杖を盗もうとしただけなのよ!!」
ナイスフォロー、院長先生。
「そうなんだよ、ボクは神の杖を盗もうとしただけで、院長先生と逃避行するつもりは……って、院長先生、フォローになっていない!!」
ボクが泥棒をしようとしていることを宣言しているじゃないか。
ボクは院長先生の方を見る。
グッド・ラックと口パクして、サムズアップする院長先生。
「まだ、泥棒する気でいたんですね、師匠。悪いことをしようとする師匠をアリア、許さないデス!!」
アリアは怒気を出しながら大鎌を構える。
「いや、違うんだ。話を聞いてくれアリア!!」
「問答無用デス!!」
大鎌を振り回すアリア。
ボクはアリアの攻撃を避け続ける。
何で、天界の神タワーのてっぺんで、魔族のアリアと戦わなくちゃいけないの??
どう考えてもおかしいでしょ。
「院長先生、助けてくださいよ……って、院長先生!!」
ボクが院長先生の方をみると、院長先生は黄金の金の杖に手をかけていた。
なるほど、絶景でアリアを足止めできないと判断した院長先生は、ボクでアリアを足止めしたんだ。
なんて、ずるいんだ、院長先生!!
忙しい人のためのまとめ
サイレント一行、神タワーに不法侵入する
サイレント、口を滑らせる。