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第36話 院長先生、ロシナンテに伝言をお願いする

これまでのあらすじ

 院長先生、顔をユニコーンに共有されそうになるが、なんとか切り抜ける。

 院長先生、エリート門番を褒めちぎる。





「そろそろ通行証が欲しいのよ」

 エリート門番をうまく誘導したから、ここにもう用はない。


「ああ、そうだったな……」

 門番は私に通行証を手渡そうとして手を止める。


「あれ? どうして通行証をくれないのよ?」


「パルーンの件で入島審査をしていたつもりになっていたが、正式な審査はしていないじゃないか」

 ちっ、気づいたか。


「言われてみればそうなのよ。はやく済ませてほしいのよ」


「それなら、旅の目的を聞こうか?」

「それは、ドキッ、天使だらけの大運動会を見に来たのよ」


「パルーンと目的が同じだな」

 疑いの目を向けてくる門番。

「それはそうなのよ。この時期の天界のイベントと言えばこれしかないのよ」


「それもそうだ」

 素直に納得してくれるエリート門番。


「それなら、人間界で前科がつくような犯罪をしていないだろうな?」

「人間界で犯罪になることはしていないのよ」


 ラッキー。

『人間界で』と聞かれて助かった。


 天界では堕天使にされるほどの罪を犯していたからな。


「ロシナンテがいななかないということは、ウソではなさそうだな。はい、どうぞ」

 門番は通行証の紙切れを渡してくる。


「ありがとうなのよ。あ、ロシナンテに伝言を頼んでもいいのよ?」

 私は通行証を手にしてから話を切り出す。


「伝言? 誰にだ?」


「そこでケガしているユニコーンになのよ」


「いいか、ロシナンテ?」

「ひひーん」

 門番が確認をとると、ロシナンテは任せろとばかりにいなないた。


「いいそうだ」

「ありがとうなのよ、ロシナンテ」

 私はお礼を言いながら、ロシナンテの首を撫でると、気持ちよさげに目を細め、顔をこすりつけてきた。


 よしよし、これで勘違いさせる準備は完璧だ。


「私、ケガをしているユニコーンをとても可愛がって(・・・・・)あげた(・・・)のよ。他のユニコーンが驚いてしまうくらいに」


 そう、ホーリィの魔法を食らわせて、可愛がってあげたのだ。


 私は『可愛がってあげた』ということを本当に可愛がってあげたと勘違いさせるために、ダメ押しで持っていた人参をロシナンテの口に持っていく。


 ロシナンテはむさぼるように人参を食べ始めた。


「可愛がったから、何だというんだ? きちんと伝言の内容を言いなさい。まさか、伝言というのは、『可愛がってあげたから、ペットにならないか』……といったような誘いではないだろうな? ダメだぞ。ユニコーンは天界の国獣で天界以外では飼えないんだからな」


「違うのよ。ペットになんかしないのよ」

 私に突進してくる馬をペットにするだなんて、頼まれたってお断りなのよ。


「それなら何を伝言してほしいんだ?」

「回復おめでとうと伝えてほしいのよ」


「それだけか?」

「いいえ、違うのよ。可愛がってあげていた時のことは秘密にしてほしいと伝えてほしいのよ」


「秘密にしてほしいだと? それはまたどうして?」

 根掘り葉掘り訊いてくるなよ。


「ほら、さっきも言ったけど、私の可愛がり方を聞いたら、他のユニコーンが驚いちゃうのよ」

「どんな可愛がりかたをしたんだ?」


「それは…………内緒なのよ」

 私は門番の耳元でささやく。


 謎多きミステリアスな女性を演じることができた。

 我ながら恐ろしい演技力だ。

 これで私にメロメロだろう。


「そうか……」


 エリート門番は引いている。


「ちょっと、そこは目をハートにして、『もっと詳しく知りたいので、お食事でもしながらゆっくりお話ししませんか』……って誘う場面なのよ」


「なんだ、可愛がっていた時のことは、本当は秘密にしなくてもいいってことか?」

「いいわけないのよ。絶対に秘密なのよ」


「一体どっちなんだ?」

「絶対に秘密なのよ。もしも、その秘密を破ったときは、あなたのところまでやってきて、もっともっと可愛がってあげるから……って、伝えてほしいのよ」


 私の全力の魔力を食らわせて、可愛がってあげたのよ。


「秘密を破ったらもっともっと可愛がるって、どれだけユニコーンのことを可愛がるつもりなんだ?」

「それは、ユニコーンがトラウマになるくらいなのよ」

 私は笑顔でこたえる。


「トラウマって、ウマだけにか? はっはっはっ」

「そうなのよ。おっほっほっ」

 ユニコーンとトラウマをかけたつもりはないんだけど、ここはとにかく話を合わせる。


「あえて約束を破って、お前もトラウマになるくらい可愛がってもらうか、ロシナンテ?」

「ひひーん」

 ロシナンテはいななく。


「ちょっと、それじゃあ伝言してもらう意味がなくなるのよ。きちんと伝えてほしいのよ」

 私は腕を組んで大げさにそっぽ向いて怒りを表現する。

「確かにその通りだ。ロシナンテ、伝言は覚えたか?」

「ひひーん」


「覚えたそうだ。起きたら絶対に伝言を伝えるから安心してくれ」

「よろしく頼むのよ。これで私の悪事はばれないのよ」


 あっちゃー、また最後に余計な一言をつぶやいちゃった。

 聞かれてないよね?


「今、最後に何か言ったか?」

「いえいえ、何でもないのよ。気にしないでほしいのよ」


 私は叫びながら城門へと走り出す。


「そうか、良い旅を」

「あなたもよい一日を」


 危ない、危ない。

 私の最後の余計な一言を聞かれていなくて本当に良かった。

 城門に手を当て、天界へと転移した。


忙しい人のためのまとめ

 院長先生、自分の攻撃魔法を隠ぺいするために、ロシナンテに伝言を頼む。

 院長先生、入島審査を終え、天界に行く。



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