第21話 サイレント、濡れネズミになる
前回のあらすじ
勇者パーティー(サイレント除く)、魔物を倒して振り込まれたお金で、食事をする。
サイレント、悪口を言われる。
「あ、あの、他の方よりも、丁寧に素材を集めてくれているんですよ」
「はん、素材を集めるにしても非効率すぎるだろ」
「あ、あの、それは、仕方ないと思います。そもそも、サイレントさんは解体を専門にしているポーターじゃないんですから」
そう、その通りだ、ブリジット。
解体の仕事はそもそも、ボクのジョブ専門スキルじゃないんだよ。
ポーターさんのやっている解体を見様見真似で覚えたスキルなんだから。
「結局、ポーターじゃないんだとしたら、戦闘で役に立てって話よ」
うっ。
まったくもってその通り。
言い返す言葉もない。
「いっそ、サイレントをポーターに降格しちまうか?」
「無理でしょ、あの頭の悪いサイレントよ。絶対に、マジック・バッグの魔法すら覚えられないわよ」
「確かに。俺様よりも頭悪いしな」
がはは……と嗤うラカン。
「あ、あの、そんな言い方はないかと思います。もしかしたら、できるかもしれないじゃないですか」
ありがとう、ブリジット、ボクをかばってくれるのは君だけだよ。
「無理ね。それなら、他のポーターを雇った方が速いわ」
「確かに。そっちの方が建設的だな」
「あ、あの、それなら、ポーターを雇ったらいかがですか?」
なるほど、新しくポーターを雇って、5人チーム作るってことだね、ブリジット。
「お、いいね、ブリジット。ポーターを雇って、サイレントを追放ってことだろ?」
あ、ボク、追放されるんだ……
「そういうことではなくてですね……」
「言いたいことは分かるわ、ブリジット。サイレントと一緒に居たくないのよね。臭いから」
「あいつ、影は薄いのに、獣臭は濃いからな」
「上手いこというじゃない、ラカン。私、町ではサイレントと絶対に一緒に行動したくないもん」
「正解だっただろ。ダンジョンが終わったら、すぐに現地解散にして」
「そうね。正解よ。現地解散にすれば獣臭の強いサイレントと一緒に行動しなくていいからね」
ああ、いつの間にか現地集合、現地解散になったのはボクのせいだったのか……
全然気づかなかった。
「でも、まだ、現地解散は正解であっても、大正解ではないわね」
「なんだよ、大正解って?」
「そ・れ・は……サイレントをパーティーから追放するってことよ」
「あーっはっはっはっ、確かに、追放しちまえば、もうあの獣臭とはおさらばだもんな。大正解に違いないぜ」
手を叩いて大げさにわらうラカン。
「あ、あの、サイレントさんを追放するんじゃなくて、新しくポーターを雇ったらいいって話ですよ」
「メンバーを増やす金はないな」
「いいじゃない。サイレントは追放で。影が薄い上に、臭いし、すぐ逃げる……つまりは、パーティーに貢献しないんだから」
うっ、返す言葉もない。
「実はな、ここだけの話なんだが、今回の報酬、あいつの取り分だけ少ないんだよ」
「え、え、え?」
ブリジットは目を見開いた。
「俺らの取り分が3で、あいつの取り分だけ1なんだよ」
3とか1とか、何を言ってるんだ?
数字が分からないボクには、チンプンカンプンだ。
「サイレントだけ取り分が少ないとか、まじでウケるんですけど」
ぷぷぷ……とあざ笑うアイズ。
ボクだけ、取り分が少ないだって?
「あ、あの、それはいくらなんでも酷いんじゃないですか?」
「おいおいブリジット、お前、修道院の寄付のお金が必要だって言っていたじゃないか」
「そ、それはそうですが、サイレントさんの分までもらえません」
「……って言ってるけど、ブリジットはさっき、既に寄付を済ませてしまったんでしょ? 今からあの寄付はなかったことに……って取り消すの? そんなことしたら、さすがに修道院もがっかりするんじゃない?」
「そ、それは……」
「俺たちは一蓮托生。すでに共犯なんだぜ」
「ブリジット、後からサイレントに事情を説明して、お金を補填するなんてズルは、なしだからね。私たちはもう、共犯なのよ。さあ、サイレントのことなんて忘れて、お店に入りましょう。店の前でいつまでも談笑していたら、お店側にも迷惑でしょ」
「そうだ、ブリジット、中に入ろうぜ」
「あ、あの、でも……」
どうやら、ボクはラカンとアイズに嫌われていたようだ……
まあ、事実だし、しょうがないよね……
でも、まあ、ボクのパーティーには天使のブリジットがいるからね。
ブリジットのためにも、ボクはこのパーティーで頑張るんだ!!
ボクは決意を改めて、この場を見なかったことにしようと、立ち去ろうとした。
その時である。
「……っていうか、いつまでいい子のフリをしているの? 二重人格のブリジットちゃん?」
「大丈夫だぜ、今、サイレントはいないんだから。二重人格のブリジットちゃん」
え?
二重人格?
あの、天使のような性格のブリジットが、二重人格?
そんなわけないよ。
まったく冗談がきついな、ラカンとアイズは。
ボクはブリジットの方を見た。
「あーっはっはっはっ!! ざまぁみろ、サイレント!! まじであいつ、くせーんだよ!!」
天を仰ぎ、よっしゃあ……と、ガッツポーズをとるブリジット。
あれが、ブリジット?
いつものブリジットじゃない。
「お、ようやく、本性のお目覚めか」
本性ということは、本当はこっちのブリジットが正解なの?
イヤだ。信じたくない。
「分かるわ、ブリジット! あなたも相当、ストレスが溜まっていたのね」
歓喜しながらブリジットに抱き着くアイズ。
「あーはっはっはっ、新しいポーター、大賛成!! サイレントは萎えるんだよね」
ペッと唾をはくブリジット。
「分かるわ」
アイズが激しく同意をする。
「さあ、サイレントの悪口を肴に、食事を楽しもうぜ」
「はーい」「あーっはっはっ、もちろん」
3人は自ら足を運ばせた。
雨がぽつぽつと降り始めてきた。
ボクは俯きながら、雨の中を誰にも気づかれないように静かに歩いた。
そっか、ボク、足手まといなんだ。
そうだよね、Fランクのモンスター相手に逃げ惑う始末だしね。
ボクなんか……
ボクなんか……
「うわーーーーーーーっ」
どしゃぶりになった雨の中、ボクは大声をあげて、ただただ走った。
どこをどう走ったかも分からない。
とにかく、がむしゃらに、ただ一心に走った。
ただ一心に。
…………
……
どれくらいの時間、どこをどう走ったかも分からないまま、濡れネズミとなったボクは家に帰ってきていた。
びしょびしょのままベッドに倒れこむ。
濡れた状態で寝てしまったら、風邪を引いてしまうかもしれないが、かまうもんか。
自暴自棄になってしまったボクは、まどろみへと落ちていった。
忙しい人のまとめ話
サイレント、自分が思っていた以上に足手まといだと知る。
サイレント、自暴自棄になって、雨の中、町中を走り回る。