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第34話 院長先生、再び入島審査を受ける

これまでのあらすじ

 天界から足を踏み外したサイレント、セーフティ・ネットがあって助かる。

 サイレント、天使の会話を盗み聞いて、天界に張られているバリアのシステムを知る。



 ――サイレントとアリアが気配を消して木のほらに着いた頃、入島審査場にて――


「次の方」

 先ほど私を審査した先輩門番が声をかけてきた。

 後輩は魔族を牢屋に連れて行ってからまだ戻っていないようだ。


「おい、次の方はいないのか?」

「はい、私なのよ」

 私は先ほどアリアちゃんがいたところから一歩も動かずに返事だけする。


「どうしてそんなに遠くにいるんだ? そんなところからじゃ審査ができないだろ。こちらに来い!!」

「エリート門番さんに見てほしいものがあるからこちらに来てほしいのよ」


「なんだ、見てほしいものとは?」

「これなのよ」

 私は隣にいた包帯だらけのユニコーンを指さす。


「これは……ユニコーン!! しかも傷だらけじゃないか!!」

「そうなのよ。見ての通り、このユニコーンはケガをしているのよ」


「なんてこった。おい、ロシナンテ!!」

 どうやら、先輩門番のユニコーンはロシナンテという名前らしい。

「ひひーん」

 呼ばれたロシナンテはケガを負ったユニコーンの前に立つ。


「まずは治療だ。回復魔法、オール・ヒール!!」

「ひひーん」


 エリート門番がロシナンテに指示を出すと、ケガを負ったユニコーンは光り出した。


「よし、これで目を覚ますはずだ」


 だがしかし、当然のことながら、待てど暮らせど、ケガをしたユニコーンはうんともすんとも言わない。


「……全然目を覚ます気配がないみたいなのよ」

「ん? おかしいな? ロシナンテ、もう一度、オール・ヒールだ」

「ひひーん」


 ユニコーンはもう一度光り出すのだが、やはり微動だにしなかった。


「どういうことだ? ロシナンテが回復魔法を唱えたのに、回復しないなんて……」


 エリートなんだからすぐに気づいても良さそうだが……

 仕方ない、ここはうまく話を誘導するか……


「ロシナンテの調子が良くなくて、魔法がうまく唱えられていないのではないのよ?」

 まずは、誰でも思いつきそうなことを言って様子をうかがおう。


「そんなことはない。ロシナンテは私が世話をしているんだぞ! 今日も体調はばっちりだ!!」

「体調がばっちりだというならどうして治らないのよ? このユニコーンが負ったケガが特殊だったわけでもないだろうし……」


「特殊なケガ……はっ、まさか、お前、堕天使にやられたのか?」

 はい、誘導成功。


「天界の天使や聖獣は堕天使にケガを負わされると、魔法や薬で回復できなくて、自然治癒でしか回復できない……っていう噂は本当なのよ?」

 私は知っているのに、あえて尋ねた。


「その噂なら本当だ」

「それなら、きっと、堕天使にやられちゃったのよ。すごく強くてキュートな堕天使に」


「何ですごく強くてキュートな堕天使だって分かるんですか? あれ? もしかして、あなた……」


 言いながら、じっとこちらを見てくるエリート門番。

『すごく強くてキュートな堕天使』……って言っちゃったから、私が堕天使だということを悟られたか……


「あなたはさっき、このエリート門番であるこの私が通行証を渡さなかったか? 通行証は一人一枚だから、もし同一人物であるなら、規定により通行証は渡せないぞ」


 良かった。

 私がユニコーンを傷つけた張本人だと気づいたわけじゃなかったのか。


「ちょっと待つのよ。さっき、ここに私が来たのよ?」

 私はウソをつかないように、エリート門番に確認をとるだけにとどめる。


「何を寝ぼけているんだ? さっき、あなたここに来て通行証をもらっただろ?」

「本当に私がここに来たということは、もしかして、あいつじゃないのよ?」


 私はウソをつかないギリギリの憶測で話をする。


「あいつって誰のことだ?」

 顎に手を当てて考え始めるエリート門番。


「エリート門番なら心当たりがあるんじゃないのよ? えっと、ほら、手配書にあった……義賊で、民から人気者の……」


 私はド忘れしたふりをする。

 あくまで私自身からは名前を言わずに、エリート門番に言わさせた方が話が通りやすいに決まっているからね。


「もしかして、パルーンか?」

「そうよ、義賊のパルーンなのよ。さすが、エリート門番なのよ」


 ここで『さすがエリート門番』と自尊心をくすぐれば……


「エリートですから、このくらいのことは朝飯前ですよ」


 もちろん、調子に乗るわよね。

 でも、ここで、その自尊心をパキッと折ってあげるのよ。


「さすがなのよ。あれ? でも、さっきエリート門番は私の顔をしたパルーンを通したのよ?」

「パルーンは変装の達人で男か女かもわからない正体不明の賞金首だから、いかに、エリートと言えど、見抜けなくて当然。通行を許可したのは仕方ないんだ」


「確かに、仕方ないのよ……でも、ユニコーンを目の前にして、お前はパルーンか……って聞けば一発で分かったはずなのよ。どうして訊かなかったのよ?」

「いや、訊こうとは思ったんだ。でも、あの時、自分から『賞金首になるような大罪を犯していない』と宣言していたからな!!」


「その時ユニコーンは反応しなかったのよ?」

「そうだ、反応しなかった! 『賞金首になるような大罪を犯していない』んだから、さっき通ったのはパルーンじゃないんだ!! 今目の前にいるお前が、パルーンなんだろ?」


 私の顔をびしっと指さす先輩門番。


 はい、よくできました。

 花丸をあげる代わりに、今からあなたの解釈をすべて叩き伏せてあげるのよ。


「違うのよ! 私はパルーンじゃないのよ!!」

 エリート門番はユニコーンの方を向くが、もちろん、いななくはずもない。


「ユニコーンがいななかなかったということは、お前はパルーンじゃない。だがしかし、さっきもユニコーンはいななかなかった。即ち、どちらもパルーンじゃないということでもある……これは一体どういうことだ?」


 どちらも私だからね。

 でも、ここで実はどちらも私でした……とネタばらしするわけにもいかない。


 ネタばらしすれば通行証はもらえないからな。

 だから、ウソにならないように話の筋を通してやる。


「わかったのよ!!」

「本当か?」


「パルーンは義賊。自分は、盗みをしているけど、それを貧しい民に分け与えているんだから、人のためになる良いことをしていると思い込んでいるはずなのよ」

「盗みが人のためになるだって!?」


「そうなのよ。だから、『賞金首になるような大罪を犯していない』と言っても、ウソにはならないのよ。ウソじゃないなら、ユニコーンもいななくはずないのよ」

「なんてこった。パルーンに話をうまく誘導され、通行証を渡したということか……」


 地面にへたり込む門番。


「そんなに気を落とす必要はないのよ。相手は指名手配されるような極悪人なのよ。エリートの門番とは全然違う考えをしていてもおかしくないのよ。大切なことは、これからどうするかなのよ」

「確かにそうだ。落ち込んでいる暇などない」


 私の励ましで、門番は立ち上がった。


忙しい人のためのまとめ

 院長先生、すべてを義賊パルーンのせいにする。

 院長先生、先輩のエリート門番を

 



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