第27話 サイレント、行列を待つ
これまでのあらすじ
後輩門番、世話を任されているユニコーンが行方不明だと先輩門番に伝える。
行方不明のユニコーンにテレパシーで連絡を取ろうとしたので、サイレント、テレパシーが繋がらないように祈る。
「サイレント」
院長先生がボクに声をかけてきた。
「分かってますよ」
ボクはこくりとうなずく。
みなまで言わなくてもわかる。
もしもテレパシーがつながってしまったら、全力で逃げろってことでしょ……
ボクはいつでも逃げれるように、それとなく退路を確認して、いつでも走りだせるよう身構えた。
しばらくして、かっと目を開くユニコーン。
「どうだった?」
「ひひん」
先輩門番の問いに、力なく首を振るユニコーン。
「どうやら、テレパシーが通じていないようだな」
「そうですよね……テレパシーをしていただきありがとうございました」
肩を落としながら、先輩門番とユニコーンにお礼を言う門番。
ふぅ、良かった。
とりあえず一安心だ。
ボクと院長先生はこくりとうなずき、行列になに食わぬ顔で並び続けた。
「さて、もうそろそろ門番の職務に取り掛からないといけないわけだが、どうするつりだ?」
先輩門番は後輩門番に威圧的に聞く。
「どうするつもりというのはどういうことでありますか? 私は職務を遂行して門番をするのであります。私もエリート集団の末席を汚させていただいているのであります」
ぴしっと敬礼をする後輩門番。
うっわー、まじめ。
「ユニコーンがいなければ、門番としての仕事ができないだろうが!!」
「そうでありました!! それならば、他の門番と交代するであります!!」
ぴしっと敬礼をする後輩門番。
その後に、カチャカチャとなる鎧の音。
ん?
敬礼をしているのに、何で鎧の音がするんだ?
「交代だと? ユニコーンがいないから交代なんてことになったら、管理を任された私の責任になるだろ。さては、お前、私の経歴に泥をつけたいのか!?」
「先輩の経歴に泥をつけたいわけではないのであります」
先輩門番に萎縮しながらも、ぴしっと敬礼をする後輩門番。
カチャカチャ。
また鎧の音が鳴った。
「そうか。それならこうしよう。いいか、ユニコーンはいたのだ。だが、体調不良になって、今は休んでいる……そういうことだ」
「ですが、それだと、門番の職務ができないのであります」
敬礼をする後輩門番。
そのあと、またカチャカチャカチャカチャと音が鳴る。
「大丈夫だ、俺のユニコーンは1頭で2頭分の働きをしてもらうからな。大丈夫だよな?」
「ひひーん」
先輩門番がユニコーンに話しかけると、ユニコーンは『大丈夫だ』と言わんばかりにいなないた。
「お手数をかけるのであります!!」
敬礼をした後、また、カチャカチャ音を立てる後輩門番。
明らかにさっきよりも音の回数が多くなっている。
「さきほどから、敬礼するたびに、首のところに手をあててカチャカチャ音をたてているみたいだが、何なんだ? 非常に耳障りだ!!」
「申し訳ないのであります。さきほどユニコーンを探しているときに首元を虫に刺されたみたいで、かゆいのであります」
敬礼をして、またカチャカチャと音を鳴らす後輩門番。
かゆいのに、かこうとしたけど、プレートメイルを装着してかけないから、さっきからカチャカチャ音が鳴っていたのか。
「我々は門番に選ばれたエリート集団だぞ!? エリート集団の我々が虫に刺されるはずがない。そうだろ?」
確かに、エリート集団なんだから、虫なんかに刺されるわけないよね。
「そうであります!!」
ボクだって、気配察知を使っている間は虫に刺されないからね。
あれ?
もしかして、ボクもエリート集団に入れるんじゃないか?
うまくいけば、天界の門番としてスローライフができるかもしれないぞ!!
「院長先生」
ボクもエリート集団に入って門番になれますか? ……と聞こうとしたところで、院長先生が話に割って入ってきた。
「サイレント、あなたも気づいたのね?」
「え? あ、はい」
気づいた?
全然、まったく、何にも気づいてないけど、とりあえずうなずいておこう。
「そうなのよ、天界の門番たちは、頭の回転ははやいんだけど、あまりにもエリートにこだわりすぎている上に、プライドも高すぎて、一周回ってアホなのよ」
院長先生はあきれ口調でボクだけに聞こえるようにささやいた。
「……そうですよね、ボクもそうじゃないかと思っていたんです」
ボクは全力で話を合わせてうなずく。
「そうなのよ、エリートだから虫にさされないとかありえないのよ」
「ははは、そうですよね、生きていれば、天使だろうが人間だろうが、虫にさされることくらいありますよね」
「まったくなのよ」
危ない、ボクも虫に刺されないからエリート集団に入れますかね……なんて訊かなくてよかった。
「お前は虫に刺されていないんだから、カチャカチャと耳障りな音を立てるんじゃない!!」
ボク達の会話をよそに、後輩門番に高圧的な命令をする先輩門番。
「イエッサー」
後輩門番は、またも敬礼をするが、今度はカチャカチャと音はしなかった。
音はしないが、ぷるぷると体が震えている。
かゆさに耐えているんだね。
がんばって、後輩門番。
「さあ、時間だ。そろそろ審査を始めよう」
「イエッサー」
先輩門番と後輩門番は一人目の入島審査をはじめた。
「……ってゆーか、気配がしたからここに来たのに、まだ時間がかかるとか、マジでありえないんですけど」
後ろから独り言ちる女性の声。
気配?
何の話だろう?
もしかして、休憩時間が終わったから行列に並んでみたものの、門番が来たばかりで、行列の人だかりが減っていなくて、入島審査に時間がかかるなんて、萎えるわ……ってことなのかな?
バカなボクが考えてもわからないよね。
後ろの女性のことはおいといて、とりあえず、順番をまとう。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、門番は頭は良いが、プライドが高く、一周回ってアホだと院長先生に教えてもらう。
サイレント、行列に並んで順番を待つ。