第20話 サイレント、勇者パーティーに悪口を言われる
前回のあらすじ
サイレント、院長先生の告白の返事を言えない状況になる。
院長先生、孤児院の子ども達に八つ当たり……もとい、おしおきをする
孤児院から帰る途中、いつの間にか分厚い雲が空を覆っていた。
あれ?
さっきまで、晴れていたのに……
蝉が鳴く時期の天気は本当に変わりやすいな……
超速で駆けていると、ラカン、アイズ、ブリッジットの姿が目に入って来た。
ちょうどよかった。
さっきの、パーティーの見学に来る女の子の話をしておこう。
へっぽこなボクなんかの練習を見学するよりも、みんなのきつい練習を見た方が諦めはつくだろうし。
それにしても、なんだよ、みんなで集まって。
ボクだけ抜きで秘密の密会か?
いやいや、そんなボクだけ仲間外れにするわけないよね……
分かった。
もうすぐ、ボクの誕生日だ。
きっと、ボクを驚かすためのサプライズパーティーでも計画しているのだろう。
よし、逆に後ろから驚かせて逆にサプライズをしかけてやろう……
ボクは気配を消したまま、3人に近づいた。
「ブリジット、寄付は済んだのか?」
この声はラカンだ。
「あ、あの、先ほど無事に終わらせてきました」
言い終えて、ブリジットの微笑んだ横顔、マジ、天使!!
「それじゃあ、食事しようぜ!!」
食事?
ああ、きっと、ボクのサプライズパーティーの下調べってことだよね。
美味しいお店だったら、ここにしよう……的なやつ。
よーし、このまま3人についていって、ボクもご相伴に預かろうではないか。
……ってこの店って、超高級レストランじゃないか?
「ちょっと、こんな高級なお店で食事なんかしていいの? 確か、今月のパーティーの運営費、すっからかんだって言ってたわよね?」
「ああ、いいんだよ。ファイヤー・ウルフの毛皮がなぜか思っていた金額の80倍もの高値で売れたんだから」
「80倍? それまたすごい額ね」
はへー、さすがはフラットさん。
まさか予定の80倍の値段で買ってくれるとは……
まあ、80倍がどんなに高いかはわかんないんだけどね。
「そうだろ? 納得行ったなら、パーティー全員で親睦を深めようではないか」
あれ? 今、パーティー全員って言った?
ラカン、ボクのことを忘れていない?
影薄いから忘れられたのか……
いやいやいや、今は影を薄めてはいるけれど、ボクだって、パーティーの一員なんだからね。
「あ、あの、それならサイレントさんも誘うべきだったのでは?」
そうだよね、ブリジット。
「ああ、いいの、いいの。あいつ、今回、何にもしてないじゃん」
そうそう、ボクは何もしてない……
……って、いやいや、したよね。
ボク。
魔物の解体もしたし、あとは……解体した毛皮を売ったのもボクだよね?
「あ、あの、ファイヤー・ウルフの解体をしてくれたのはサイレントさんでしたよね?」
そうだ、そうだ!
ラカンにガツンと言ってやれ、ブリジット!!
「でも、そのファイヤー・ウルフを倒したのは俺たちだろ?」
「あ、あの、それはそうですが……」
言葉尻が消え入るブリジット。
ブリジット、言い返してよ……
君だけが僕の頼りなんだよ。
「サイレントはな、ファイヤー・ウルフを餌で釣る役目だったにも関わらず、ヘマして俺たちのパーティーのところまで連れてこれなかったんだぜ。逆に、ファイヤー・ウルフの遠吠えを聞いて、俺たちがサイレントのところまで行くなんて、ありえないだろ!!」
「確かに、ラカンの言う通りよ。わたくしなんて、一生懸命走ったから、脚痛いし」
うう、返す言葉もない……
「あ、あの、二人とも、サイレントさんをそんな風に言わないでください」
ありがとう、ブリジット。
「……って、言ってるけど、ブリジットだって、前にサイレントが餌で釣るのを失敗して魔物の大群連れてきた時は、もう少ししっかりして欲しい……って陰で言ってたじゃない」
「あ、あの、そ……それはそうですけど……」
言ったんだ……
もう少ししっかりして欲しいって、言ったんだ、ブリジット……
「それに混戦になると、あいつすぐに逃げるしなー」
それは、ボクが紙装甲で弱いから、もし、モンスターに攻撃されたら、ブリジットのヒールかポーションに頼らないといけなくなるから、安全なところから見守ろうとしたわけで……
……って、誰に言い訳してるんだ、ボク。
「しかも、基本的にサイレントって獣臭がきついのよね。勘弁して欲しいわ」
「あ、あの、それは、モンスターに人が来たと気づかせないようにしてるだけですよ。そんな言い方はないかと……」
「ちょっと、ずるいわよ、ブリジット。貴女も今回のファイヤー・ウルフの討伐の時は、ハンカチで鼻と口を覆って、ずっと眉間にしわを寄せていたじゃない」
「あ、あの、そ……それは……」
うん、ブリジットが嫌な顔をしていたのは、さすがのボクでも気づいていたよ。
「つまりサイレントは獣臭い上に、自分の役もまっとうできない出来ないおバカさんなの」
「あ、あの、でも、モンスターの解体はしてくださるじゃないですか」
「他のパーティーの解体を見たことあるだろ? 1回の戦闘で素早く何匹も解体してるじゃないか。それに比べてサイレントときたら、モンスター1匹倒すごとに、解体するのに、時間をかけやがって」
それは、ボクがサボらないかを確認するために、みんなで作業をじーっと見るから、緊張してるんだよ。
誰も見ていない時は、すっごく早いし。
忙しい人のまとめ話
勇者パーティー(サイレント除く)、魔物を倒して振り込まれたお金で、食事をする。
サイレント、悪口を言われる。