第2話 サイレント、ピンチに陥る
前回のあらすじ
自分は強いと見栄を張ったサイレント、魔物狩りに失敗。
逃げる。
もしかしたら、ボクの心の声が魔物に通じたのではないかと思い、ボクは後ろをチラリと確認する。
ファイヤー・ウルフは目を三角にして追いかけてきた。
そうですよね。
ボクの心の声なんて届いているわけがないですよね。
ボクは足を動かし続ける。
――あれ? ここは、さっきまでいたところ。
……ということは……
「ふっふっふっ」
笑い声をこらえることができなくなったボクは、さっと身を翻し、ファイヤー・ウルフと対峙した。
「わおおーーーん」
鳴き声とともに、こちらへ体当たりをしてくるファイヤー・ウルフ。
ひっかかったな。馬鹿め。
万が一、ファイヤー・ウルフに気付かれた時のために罠を仕掛けておいたのだよ。
このままボクにファイヤー・ウルフが襲って来れば、ロープに足を持っていかれ、すっ転ぶって寸法さ。
ファイヤー・ウルフがすっ転べば、有利に倒すことができる。
まさに、策士。
さすがはボク。
「わおーん」
ファイヤー・ウルフがボク目掛けて襲い掛かってくる。
よしっ、ここまでは想定通り!!
そのまま罠にかかってくれよー。
「わおーん」
ボクの願いが通じて、ボクの罠にひっかかり、ぐるぐると回転しながら宙を舞い頭から落ちてくるファイヤー・ウルフ。
そのまま頭から地面に落ちれば、大ダメージは確実!!
うちどころが悪ければ、とどめを刺す必要もないかもしれない。
ボクは両手をグッと握りしめ、成り行きを見守る。
よしっ、そのまま落ちるんだ、ファイヤー・ウルフ。
あと少しで地面に激突するというところで、ファイヤー・ウルフは空中で身体をひねり、スタッという音と共に何事もなかったかのように着地した。
ファイヤー・ウルフと目が合い、一瞬だけ時が止まる。
「わおーん」
そして一吠え。
ボクはファイヤー・ウルフに背中を向けて走り出した。
あー、ごめんなさい、ごめんなさい。
自分、調子乗ってました。
そうですよね。
賢いファイヤー・ウルフ様が、こんなチープな罠にかかるはずないですよね。
「わおーん」
ファイヤー・ウルフは先ほどよりも大きい声で咆哮した。
ひー、お願いだから、食べないでーーー!!
こうなったら、最後の手段だ!!
奥義・敵前逃亡!!
いや、最初からずっとしてるんだけどね、敵前逃亡。
ファイヤー・ウルフに背を向けて、もうひたすらに逃げるしかない。
疾風と呼ばれた男の走りをみせつけてやるぜ!!
はぁはぁ…………
無我夢中で走りに走った。
最速で走っているのに、ボクに追いついてくるファイヤー・ウルフ。
なんで、そんなに脚が速いのーーーー!!
見た目は獣のくせに。
ん? 待てよ。獣だから速いのか!!
まずい、まずい。
これだと、本当に食べられちゃう。
骨までかみ砕かれて。
食べられたくない、絶対に食べられたくないよ!!
全速力で走っていると、また見覚えのある風景が目に入ってくる。
ん? あれは、大岩じゃないか。
ここに来るときに目印にしていた岩だ。
あの岩を右に曲がれば、仲間のところにつくはずだ!
良かった。
天はボクをまだ見放していなかった。
ホッとして右に曲がろうとした瞬間、背筋がゾッとした。
何かがくる。
このまま右に曲がったら、ボクはおそらく死ぬ。
第六感を信じたボクは左へと曲がった。
振り返ると、右に行く通路はファイヤー・ウルフの炎で火の海だった。
岩もどろどろに溶けている。
危ない、右に曲がっていたら、丸焼きに……いや、ドロドロに溶かされるところだった。
さすが、ボクの第六感!
……って自画自賛している場合じゃない。
走れ、走れ、走れ!!
逃げろ、逃げろ、逃げろ!!
ボクは力の限り足を動かす。
……って、えーーーー!!
ボクの眼の前には大きな岩。
完全な行き止まりだ。
ボクは振り返り、ファイヤー・ウルフに対峙した。
ファイヤー・ウルフの口元は笑っているようだった。
もしかして、ボク、ダンジョンの地形を利用され、追いこまれた!?
なんて賢いんだ、ファイヤー・ウルフ。
まるで狡猾な策士じゃないか。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、魔物を仕掛けておいた罠にはめようとする。
失敗して、逆に追い込まれる。