第25話 サイレント、笑われる
これまでのあらすじ
サイレント、院長先生と婚約をしそうになる。
サイレント、ついに天界へと移動をする。
「あ、見えてきたのよ、天界が!!」
院長先生の指さす先には、空を浮かぶ島。
「本当に天界はあったんですね!! 院長先生はウソつきじゃなかったんですね!!」
「信じてなかったのよ!?」
「それはそうですよ……って、痛っ!!」
ボクが素直にうなずくと、院長先生はボクの足を踏んづけた。
「私のことを信じなかった罰なのよ」
うう、院長先生、だんだんボクの扱いが雑になっていない?
「はやく上陸しましょう!!」
ボクはその場でしゃがみ込んだ。
「そうなのよ……って、何でこんなところでしゃがみこんでいるのよ、サイレント?」
「院長先生をおんぶするために決まっているじゃないですか」
「私をおんぶ? どうしてそんなんことをするのよ?」
「おんぶしないと、ジャンプしてもボクしか天界に上陸できないじゃないですか」
「まさかとは思うけど、あなた、ジャンプで天界に上陸しようとしているのよ?」
「もちのろんです」
このくらいの高さなら、院長先生をおんぶしても、ボクのジャンプで届くはずだ。
「ジャンプで天界に上陸なんかしたら、不法侵入で捕まるのよ」
「それをはやく言ってくださいよ」
しゃがみ損じゃないか。
「そんなこと言わなくても、みんながみんな、サイレントみたいに高くジャンプができるわけないのよ」
「それもそうですね。ジャンプじゃないなら、天界へはどうやって行くんですか?」
ボクは立ち上がりながら尋ねた。
「あの行列に並ぶのよ」
院長先生が指さした先には、人だかり。
最後尾の人は赤と黄色で目がちかちかしそうなド派手なセンスの看板を着ている。
院長先生はすたすたと看板を持っている人にかけ寄ると、看板を受け取った。
「何なんですか、その着せ看板?」
文字が書いてあるようだけど……
「『天界へ行く人の行列、最後尾はここです』って書いてある着せ看板なのよ。最後尾の人はこの着せ看板を着ないといけないのよ」
「へえ……」
「感心してないで、サイレントが最後尾になったんだから、この看板を着るのよ」
院長先生は着せ看板を着ることなく、ボクに着せ看板を押し付けてきた。
「こんなダサいのをですか?」
「それは言っちゃいけないのよ」
「分かりました」
ボクは看板を受け取り、着せ看板を着ると、行列に並んだ。
「この行列、結構並んでいますね」
「30人程度なら、すいているほうなのよ」
「そうなんですか?」
「祝日前や夏休みは、1000人以上が並ぶのなんてザラなのよ」
「そうなんですね」
うん、具体的な数字を言われても、ボクにはさっぱりわからないけど、とにかく人がたくさん並ぶんだろう。
…………
……
ボクが看板を着てから、なかなか行列に並ぶ人は現れない。
当然、ボクは着せ看板を着たままだ。
「院長先生、ボクの後ろに誰も並びませんよ。これじゃあ、着せ看板を押し付けられないじゃないですか」
「ほとんどの人たちは、今、門番がお昼休みでいないと知っているからなのよ」
「お昼休みですって!?」
だから、さっきから全然前に進まなかったのか……
……ということは、門番が戻ってくるまで、ボクはずっとこのままなの……
そう思っていると、土の上に魔法陣が出てきた。
まさか、攻撃魔法?
ボクはとっさに脚のホルダーからダガーを取り出した。
「院長先生、あの魔法陣が急に出てきたんですけど、あれはなんですか?」
ボクはダガーの切っ先を魔法陣に向ける。
「ああ、あれは転移魔法陣なのよ。そのうち、門番が現れるから、心配しなくてもいいのよ……あはは」
「急に笑い出してどうしたんですか、院長先生!?」
「だって、転移魔法陣で全然害はないのに、サイレントったら、着せ看板を着ながら、今にも攻撃されるんじゃないかと、真剣な表情でダガーを構えているんですもの」
院長先生の言葉で、他に行列に並んでいる人たちも、声を殺して笑っていた。
恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
いっそ、穴を掘ってしまおうか……と思っていた矢先、魔法陣が光り出した。
「どうやら、門番が戻ってきたみたいなのよ」
院長先生の言う通り、背中から白い羽が生えた門番が魔法陣から現れた。
門番はプレートアーマーで全身を覆っていて、顔の表情は見えない。
「あれが門番……いかにも強そうですね」
「門番をしているくらいだから、強そうに見せないと舐められるのよ」
確かに、そうだ。
ボクが納得していると、門番の隣から、今度はユニコーンが出てきた。
まさかとは思うけど、院長先生が吹っ飛ばしたユニコーンなんてことはないよね……
「ひひーん」
急にユニコーンがいななき、ボク達をにらみつけてきたので、ボクはすぐさま視線をそらす。
「表情に出しちゃダメなのよ、サイレント。ケガをしていないということは、私たちが吹っ飛ばしたユニコーンじゃないのよ」
小声で話してくる院長先生。
「そうですね…………って、ちょっと待ってください。院長先生、今、『私たちが吹っ飛ばしたユニコーン』って言いましたけど、違いますよね?」
正確には院長先生がホーリィの魔法で吹っ飛ばしたユニコーンだ。
どさくさに紛れて共犯にしないでください。
「あ、そうだったのよ。サイレントが単独で吹っ飛ばしたユニコーンなのよ」
「いやいや、院長先生が魔法で吹っ飛ばしたんですよ」
「何を言ってるの、サイレント。私はサイレントに向かって魔法を放ったのよ?」
「あ、確かに!!」
そうだよ、あの時院長先生は、ボクに魔法を放ったんだ。
「私の魔法から逃げるのに、わざわざあなたはユニコーンの方向へ逃げたのよ。べつにほかの方向でもいいのに」
「そう……ですね」
うなずきたくないけど、うなずかざるを得ない。
「そのうえ、わざわざユニコーンに乗って、ユニコーンのスピードを遅くしたのは誰だったのよ?」
「……ボクです」
「もう一度訊くのよ、サイレント。誰がユニコーンを吹っ飛ばしたのよ?」
「ボクじゃないですよ、ボクが魔法を唱えたわけじゃないですし」
「それもそうなのよ。それなら、ここは、ユニコーンは私たちのケンカに巻き込まれただけってことにするのよ」
「つまり不幸な事故だと?」
「そうなのよ」
院長先生は激しくうなずいた。
忙しい人のためのまとめ
サイレントと院長先生、門番を待つ。
吹っ飛んだユニコーンは不幸な事故だったということになる。