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第22話 サイレント、逃げる

これまでのあらすじ

 院長先生、ユニコーンと賞金稼ぎを戦わせる。

 賞金稼ぎ、ユニコーンに負ける。




「いい案が浮かんだのよ」

「本当ですか、院長先生?」


「サイレントがユニコーンを倒せばいいのよ」

「そうか、その手があったか……って、ボクが勝てるわけないじゃないですか!!」


「ダークドラゴンを追っ払ったあなたならできるのよ」

「そうですね、ボクならできそうな気がしてきました……って、やりませんからね」


 院長先生はボクをおだてて戦わせようとしているみたいだけど、スライムよりも弱いSランクのダークドラゴンならまだしも、相手はAランクを軽々吹っ飛ばすユニコーンだよ?

 Fランクのボクが勝てるわけがないじゃないか。


「いいえ、あなたならできるのよ」

「絶対に戦いませんからね」

 ボクと院長先生が言い争っていると、『ぐー』と音がした。


 何の音だ?

 もしかして、ユニコーンの攻撃か?

 ボクは何が起こっていいように、脚のホルダーからダガーをとりだしながら走る。


「走り続けたせいで、おなかがすいて力がでないのよ……」


 なんだ、院長先生のおなかの音か……

 警戒して損したよ……って、院長先生の走る速さが遅くなってる。


「院長先生、おなかがすいていて力が出ないのは分かりますが、もっとはやく走らないとユニコーンに突進されますよ」


「分かっているのよ、でも、おなかがすいて力が出ないのよ……」


 ボクはスピードががくっと下がった院長先生を後ろから押して、走るスピードを上げようとする。


 ボクは必死に後ろから院長先生を押すのだが、スピードが上がる気配がない。


 まずい、このままのスピードではユニコーンに突進されてしまうぞ。


「何か作戦はないんですか?」

「…………」


 ボクの問いかけに無言のまま考え込む院長先生。


 特に何か策があるわけではなさそうだ。


 それなら院長先生をお姫様抱っこして逃げるか?

 …………ダメだ。


 アリアとお姫様抱っこは約束したばかりじゃないか。


 それなら、どうする?

 院長先生をお姫様抱っこじゃなくて、おんぶするか?


 おんぶをするにはボクも院長先生も一度立ち止まらないといけないから、おんぶしている途中、ユニコーンに突進されて串刺しにされてしまうぞ。


 振り返ると、ユニコーンはすぐそこまで来ていた。


 何とかスピードを上げないと……って、ちょっと待てよ。


 院長先生を見捨てれば、ボクは突進されないよね?

 そうだよ、ボクは速く走れるんだから、院長先生のスピードに合わせる必要はないんだよ。



「院長先生、黙っていないでこたえてください! 本当に策は何もないんですか?」

 ボクは念のために確認をとる。


「ないのよ……」


「すみません、院長先生!!」


 作戦がないなら見捨てるしかないと確信したボクは、先に院長先生に謝り、院長先生を後ろから押すのをやめて、院長先生を置き去りにしようとした。


「……たった一つのさえたやり方を除いては」

 ボクが院長先生を見放した瞬間、院長先生は立ち止まった。


「え?」

 さえたやりかたという言葉にボクは院長先生を振り返る。


「サイレント、今、あなた、まさか私を見捨てようとしたのよ?」


 怒りのボルテージとともに上がる院長先生の魔力量。

 その圧倒的な魔力量により、先ほどまで晴れていた空は黒雲が集まり始めていた。


 そうだった。


 忘れていたけど、そもそも、院長先生は元冒険者で、めちゃくちゃ強いんだった。

 ……って、まずい、これは非常にまずい。


 昔から院長先生を怒らせたあと、ボクはロクな目にあったことはない。

 そして、きっと今回もロクなことにならない。


「いやだな、そんなことあるわけないじゃないですか」

 ボクは院長先生の目を見ないでこたえる。


「あなたのウソは分かりやすいのよ。ホーリィ!!」


 先ほど、巨岩よりも大きい光の槍が院長先生の頭上に現れる。


 いや、一撃に魔力込めすぎだよ、院長先生。

 到底、おなかがすいて力が出ない人の魔力量じゃないよ、これ。


 でも、この魔力量ならいける。


 その証拠に、ものすごい莫大な魔力量で作られた魔法の槍を目の当たりにしたユニコーンは、あごが外れそうなほどに大口を開け、目を丸くして立ちすくんでいるもん。


「でた、院長先生のホーリィ!! この魔法があれば、ユニコーンなんか一撃で倒せますよ」

 ボクはもみ手をしながら院長先生にごまをする。


「そうね、きっと一撃ね」

 片方の口元を上げる院長先生。


 その顔の方向は間違いなくこちらを見続けていた。


「院長先生、どうしてボクの方を向いたままなんですか? ユニコーンはあちらですよ」

 ボクは立ちすくむユニコーンの方を手の平で示す。


「この方向でいいのよ」

「え? この方向で良いってどういうことですか?」

 ホーリィは光の槍を投げる方向を向いて唱えないといけない魔法だったはずだ。


「そのままの意味なのよ」

 話している間にも魔力が練りこまれ大きくなっていく光の槍。


「あの……まさかとは思いますが、もしかしてボクを狙っていたりします?」

「もちろん、サイレントを狙っているに決まっているのよ。あなた、私を見捨てて逃げようとしていたのよね? そんなに私から逃げたければ逃げるといいのよ」


 院長先生が『もちろん』といった瞬間から、ボクは院長先生の話を最後まで聞かずに、ユニコーンに向かって走り出していた。


「逃がさないのよ」

 ボクが院長先生とすれ違った瞬間、院長先生は超巨大な光の槍を発射させる。


「うわー」

 ボクは悲鳴をあげながらユニコーンの元へと駆け出した。


 ユニコーンは今にも泣き喚きそうな顔をしながら、光の槍に捕まらないよう全力疾走し始めた。

 ユニコーン、お前だけは逃がさないからな。


 絶対に!!


「瞬動。瞬動! 瞬動!!」

 ボクは何回も瞬動を使ってユニコーンに追いつく。


 ふはは、院長先生と一緒に走っていたから引き離せなかったけど、瞬動が使えるならすぐに追いつけるのだよ。

 すごいだろ、ユニコーン。


「ひひーん」

 何で追いついてきたんだ、お前、お前のせいで俺までホーリィから逃げないといけないじゃないか……とでも言いたげに涙目でいななくユニコーン。


 いや、お前だけ逃がすなんてことしないからね。

 元はといえばお前が追ってきたのが原因なんだから。


 死なばもろとも、一緒に道連れだ。


「ひひーん」

 ユニコーンは観念したのか、ボクと一緒になって逃げ始める。

 まさか、ユニコーンと肩を並べて一緒に逃げることになるなんて、夢にも思わなかったよ。


忙しい人のためのまとめ

 サイレント、院長先生を見捨てようとして院長先生を怒らせる。

 サイレント、院長先生に攻撃されたので、ユニコーンと逃げる。



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