第19話 サイレント、ユニコーンをバカにする
これまでのあらすじ
院長先生、アリアをパーティーから外す。
パーティーから外されたくないアリア、サイレントと院長先生を追う。
「ところで、院長先生、これからどこに行くんですか?」
アリアをうまく撒いたのを確認してからボクは院長先生に尋ねる。
「まずは、天界に行かなければいけないのよ」
「天界ってどこにあるんですか?」
「それは空の上に決まっているのよ」
院長先生は人差し指を空に指さした。
「空の上?」
「そうなのよ。空の上に島がぷかぷかと浮いているのよ」
こくりとうなずく院長先生。
「いやいや、空に浮かぶ島なんて聞いたことないですよ。ボクをだまそうとしているんですか?」
天界があることは知っているが、空の上のはずないでしょ。
「なんで今更あなたをだまさないといけないのよ」
「バカなボクをだまして内心では楽しんでいたりしていませんか?」
アリアと違って、必要とあれば平気でうそをつくからな、院長先生は。
「そう思うなら、私を信じずにアリアちゃんと結婚するといいのよ」
「ごめんなさい。見捨てないでください」
ボクは頭を下げて謝罪する。
「私がサイレントを見捨てるわけないのよ。なんなら、結婚して一生面倒を見てあげるのよ」
「何か言いましたか、院長先生?」
院長先生は時々ごにょごにょしゃべるから聞き取れない時があるんだよな……
「天界に行くには、関門があるって言ったのよ」
「関門ですか?」
ボクは首をかしげる。
「そうなのよ。まずは門番に好かれないといけないのよ」
「門番がいるんですか?」
そんなこと聞いたことないぞ……
「魔界には、ケルベロスが門番をしているのは知っているのよ?」
「もちろん知っています」
魔界に門番がいるなんて初めて聞いたけど、とりあえずうなずいておこう。
「魔界と同じで天界に行くためには、聖獣ユニコーンと門番の兵士に認められて通行証をもらわないといけないのよ」
「ユニコーンですって!?」
「あら、珍しい。ユニコーンを知っているのよ、サイレント?」
「ボクの記憶が確かなら、羽の生えた馬のことですよね?」
「羽が生えているのはペガサスなのよ。ペガサスは伝説の生き物で存在していないのよ」
ボクの記憶は正しくなかったようだ。
「そうなんですね。絶対に忘れません」
「サイレント、一応忠告しておくけど、ユニコーンっていう生き物はウソ発見調査官と同じくらいのレベルでウソに敏感だからウソはいけないのよ」
「ボクがいつウソをついたっていうんですか?」
「それではサイレントに問題です。羽が生えている伝説上の生き物は?」
「答えは……ユニコーンです!! まったく、ボクをなめないでくださいよ」
こんなの簡単すぎるよ。
「答えはペガサスなのよ、サイレント」
普通に間違えた……
「絶対に忘れないって言ったのに、もう忘れているのよ。こんな調子だと、ユニコーンは機嫌を損ねちゃうのよ」
「いや、ウソじゃなくて、普通に間違えただけですよ」
「間違える可能性があるなら、『絶対に忘れません』なんて言っちゃダメなのよ。その軽薄な言葉が命取りになるのよ!!」
言葉を荒げる院長先生。
「命取りになるっていってますが、そもそもユニコーンって強いんですか? ボクにはトウモロコシっぽくて、弱そうに聞こえるんですけど」
売り言葉に買い言葉で、不機嫌になったボクは院長先生に噛みついてしまった。
「ユニコーンは魔族レベルでいうところのAランクなのよ」
「誰ですか? ユニコーン様がトウモロコシっぽくて弱そうな名前だなんて言ったバカは!? ユニコーン様をバカにするやつは、天が許してもボクは許しませんよ」
ボクは拳を天に突き上げながらユニコーン様に敬意を払う。
Aランクのユニコーンに追われたら、ボクなんか一発でやられちゃうんだからね。
「さっきあなたがバカにしたのよ、サイレント」
「ボクがユニコーン様の悪口を言うわけないじゃないですか」
Fランク冒険者のボクがユニコーン様に逆らうわけがない。
「それがいいのよ。短気なところがあって、少しでも怒らせると、とてつもない突進をしながら追ってくるのよ」
「それなら、ボクは黙っています」
「なるほど、確かに黙っているっていうのはいい考えなのよ。ユニコーンは知性があって、純真無垢で、正直な人にしか通さないと言われているから、全部私に任せるといいのよ」
「分かりました」
…………ん?
純真無垢で正直?
息をするようにウソをつく人が何を言っているんだ!
院長先生には全然任せられないじゃないか!!
「あの、院長先生、ユニコーンは本当に院長先生に任せていいんですか?」
「それってどういうことなのよ? 私が純真無垢じゃないとでも言いたいのよ?」
その通りです……なんて答えたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「えっと、ボクの方が適任なんじゃないかな……って思ったんです」
「あなたはユニコーンのことを知らなさすぎるのよ、サイレント」
「そんなことないです、ユニコーンについて、さっき勉強しましたから、ボクは」
「それなら、ユニコーンの意味は分かる?」
「もちろん、分かりません」
きっと、これは院長先生に本当に正直に言えるかどうかのテストをされているのだろうと思ったボクは純真無垢な気持ちで答える。
「もしも、ユニコーンの前で馬鹿正直にユニコーンの語源を知らないなんて言ったら、蹴り飛ばされるのよ」
「え? でも、正直な人じゃないと、ダメなんですよね?」
「知性がないといけないとも言ったのよ」
「確かに、そうも言っていましたね。知性がないボクには無理そうです」
少し不安はあるけれど、ここは院長先生に任せよう。
「ちなみに、ユニコーンっていうのはどういう意味なんですか?」
「一本の角って意味があるのよ」
「つまりユニコーン様はサイと一緒だってことですよね?」
「どういうこと?」
「だって、サイも一本の角があるじゃないですか」
「あははははは。もしもユニコーンにサイと一緒なんてことを知られでもしたら、プライドを傷つけられたユニコーンは私たちを追いかけまわすのよ」
「ボクのスピードなら逃げきれます」
にっこりと笑うボク。
「馬よりも速い上に、ユニコーンは仲間同士でテレパシーも使って他のユニコーンに情報共有して集団で追ってくるからサイレントでも逃げ切れるかどうかわからないのよ」
「そもそもボクがAランクのユニコーンの目の前でサイだなんていうわけないじゃないですか」
「それもそうなのよ。いくらサイレントでも、さすがにユニコーンを目の前にして、ユニコーンをサイなんて言うはずなんかないのよ」
「ひひーん」
馬のいななく声がした。
「ちょっと、サイレント、ユニコーンの真似をするなんて反則よ。あはは」
「いえ、ボク、ユニコーンの真似なんてしていないですよ」
「「……ということは……」」
ボクと院長先生は声をそろえてゆっくりと振り返る。
そこには確かにユニコーンがいた。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、ユニコーンについて学ぶ
サイレント、ユニコーンをバカにする。