第19話 サイレント、告白の返事を言えなくなる
前回のあらすじ
院長先生、サイレントに教え子を結婚相手に勧める。
サイレント、院長先生告白される。
「あ、孤児院に着いちゃったのよ。結婚の返事はまた今度ってことにして欲しいのよ」
「今、ここでしますよ」
孤児院時代から、ボクにもラカンにも、アイズにもブリジットにも誰彼構わず求婚していた院長先生をふと思い出したボクは断る気満々で申し出る。
「何言っているのよ? こんなところで、結婚の答えをだしたら、殺人事件に発展するのよ」
「殺人事件に発展? 何でですか?」
「だって、もしも『OK』だったら、待ちに待った結婚ができると感動して、感極まって嬉しすぎて、泣いちゃうのよ」
「そうですね」
院長先生ならあり得そうな話だ。
「もしも、私がこんなところで泣いていたら、きっと、孤児院の子ども達が私を泣かせた犯人捜しを始めるのよ」
「う、なりそう」
「そこで、感極まっている私は『サイレントが……サイレントが……』って言うはずなのよ」
「きっとそうなるでしょうね」
「そうしたら、子ども達はサイレントが私を泣かせたんだと勘違いして、サイレントをフルボッコにして、死体が出来上がってしまうのよ」
「いやいや、死体にはならないでしょう。ボク、強くなりましたし」
「今、孤児院にいる子達全員に、護身術として私の技術のすべてを叩きこんだけど、大丈夫なのよ?」
「全員にですか?」
「全員なのよ」
院長先生の護身術と聞いて、血の気が引いた。
そんなのを食らったら、本当に殺人事件にまで発展しかねないじゃないか。
これはOKできないぞ。
「あ、でも、大丈夫ですよ。だって……」
最初から院長先生の申し出を断るつもりですから……と言おうとした時、院長先生が口を開いた。
「何が大丈夫なの? もしも、サイレントがここでNOって言ったら、私、恥ずかしさのあまり、サイレントをホーリーで串刺しにしてしまうのよ」
ホーリーって、ブリジットがファイヤー・ウルフにとどめを刺した聖魔法だよね?
いや、ボク、院長先生の申し出を断ったら、頭部を串刺しにされて殺されちゃうの?
まだ若いのに、死にたくないいよ、ボク。
「ね、結局どちらの答えでも、殺人事件に発展するのよ」
「どうやら、そのようですね」
「だから、答えはまた今度でいいのよ」
「わかりました」
ボクは大きく頷く。
「それじゃあ、ありがとうなのよ、サイレント」
院長先生はボクの持っている袋を持とうと手を出した。
ボクは袋を渡さずに、孤児院の建物を見やる。
大きな白い石造りで、ところどころにひびが入り、どこか物悲しい雰囲気を醸し出していた。
「荷物、中まで運びますよ」
やはり、自分にも何かできることをしなくてはと思ったボクは、院長先生の袋も持とうとする。
「そこまでしなくてもいいのよ。もしも、子ども達に見つかったら、遊び相手に付き合わされて大変なのよ」
「でも、その冒険者志望の子の顔も見ておきたいですし……」
なんとか理由をつけて、手伝おうとするボク。
「今日は所用で町まで出ているはずなのよ」
「そうなんですね……」
いないならしょうがないか……
ぐー。
お腹の音が鳴った。
「あら? お腹が空いているの? それなら、孤児院に寄って、何か食べる?」
目を光らせてご飯を勧める院長先生。
院長先生の料理!
院長先生の料理は何でもおいしいんだよな。
久々にご相伴にあずかろうかな……
……いや、待て待て。
あの目は何か企んでいる目だ。
「何か企んでませんか?」
「そんなことないのよ……未来の旦那を胃袋からつかもうとしただけなのよ」
「最後なんて言ったんですか?」
未来がどうのこうの言っていたけど、小さな声で聞こえなかった。
「えっと、久しぶりに一緒にご飯食べたいなって言っただけなのよ」
「またの機会にします。ボクも町に行かなければならないので」
ボクは断腸の思いで誘いを断る。
「そう、またね。サイレント」
院長先生の伸びた影が寂しげに呟いた。
「はい、またの機会に」
もしかしたら、院長先生は肩を落としたままかもしれない……
そう思うと、足が動かすことができなかった。
「誰? 洗濯物にいたずらした子? 怒らないから3秒以内に返事をするのよ」
しーんと静まり返る孤児院。
「3……2……1……自己申告がないようなら連帯責任で全員にお仕置きね。ホーリィ!!」
ボクの心配をしり目に、ストレスを発散するかのようにお仕置きをする院長先生の声と爆発音が聞こえたので、ボクはすたこらさっさとその場を後にした。
忙しい人のまとめ話
サイレント、院長先生の告白の返事を言えない状況になる。
院長先生、孤児院の子ども達に八つ当たり……もとい、おしおきをする