第15話 アリア、サイレントを説得する
これまでのあらすじ
院長先生、無理やりパーティーに入ろうとする。
アリア、サイレントが院長先生に何か吹き込まれたのではないかと疑う。
「師匠、声が大きいデス」
「どうしたのよ、サイレント!!」
院長先生は何事かと走ってきた。
「何でもないデスよ。デスよね、師匠」
「え、あ、うん」
アリアに促され、ボクはこくりと肯く。
「それなら、いいのよ。ところで、話は終わったのよ?」
「もうちょっと続くデス」
「あら、そうなのよ。ごゆっくりなのよ」
アリアには微笑んで、ボクのことをにらみつけてくる、院長先生。
分かってます、アリアが魔族だということは黙ってますから……という意味を込めてボクは微笑む。
ボクの微笑みを確認した院長先生は元の場所へと戻っていった。
「院長先生が天使ってウソだよね?」
ボクは院長先生を見送ってからすぐに尋ねる。
「アリア、ウソはつけないデス」
確かに、アリアはウソをつけない性格だ。
「そっか、あの院長先生が天使……って、そんなわけないよ。天使って言ったら、つつましやかな性格だって聞いたことがあるよ」
「つつましやかな性格だというのはおとぎ話や童話の話デス。実際にはいろいろな性格の天使がいるんデス」
「そっか……って、ちょっと待ってよ。院長先生といえば、結婚願望の化身だよ? さすがにそんな欲望の塊の人が天使なわけないよ」
「天使は天使でも堕天使デスから、ありうるんデス」
「堕天使だって!?」
「そうデス。堕天使と言えば、神様の作った重大な掟を破った罪によって、天界を追放されて地上に堕ちた天使デス。その堕天使なら可能性はあるデス」
「重大な掟って、院長先生はどんな掟を破ったのさ?」
「アリアは知らないデス。知りたいなら本人に訊くといいデス」
「それは……そうだよね」
確かに、院長先生が犯した罪をアリアに訊くのはお門違いだ。
「師匠は知っていたんじゃかなかったんデスか? 院長先生とは長い付き合いだと言っていたじゃないデスか」
「初耳だよ。院長先生、天使の羽なんか見たことないしね」
「師匠、天使の羽がないって、院長先生の裸を見たことあるんデスか?」
「裸なんかみたことあるわけないし、裸を覗こうともしてないからね!!」
ボクは大声を出していた。
さきほど院長先生にはめられたばかりだ。
ここは先手を取っておかないといけないぞ。
「アリア、覗きまでは聞いてないデス。師匠、もしかして、覗こうとしたんデスか?」
やぶ蛇だった……
「だから、してないよ」
「裸を見たことないなら、羽があるかどうかなんて分かるわけないデス!!」
「そうなの?」
「天使の羽は背中から出したりしまったりできるので、服で隠せるデスから」
「あ、天使の羽“も”そういう仕組みなんだ」
「天使の羽根“も”……デスか?」
あ、まずい。
これじゃあ、まるでボクが魔族の羽が隠せることを知っているみたいじゃないか。
「ほら、フェス様にも羽根があったな……って思ってさ」
ボクはとっさに話をごまかす。
「フェニックスは羽根を隠したりはできないはずデス」
「え? あ、そうだっけ?」
「師匠は他に何の羽を知っているんデスか?」
ごまかしきれなかったか……
「あ、そうそう。うん、確か、魔族も羽を隠せるってことを聞いたことがあったからね」
「師匠、知っていたんデスね、魔族のこと」
アリアは今までに見たこともない形相でこちらをにらんできていた。
もしもアリアが魔族だと知っているなんて口にしたら、命をとられちゃうんじゃないか?
アリアが魔族だと知っていることは、秘密にし続けて、墓場まで持っていったほうがよさそうだ。
「あ、うん、まあ、ボク冒険者だし、それくらいの噂は聞いたことあるよ」
適当にごまかすボク。
「そうだったんデスね」
負のオーラが強くなるアリア。
「ところで、院長先生が堕天使だと何か問題あるの?」
これ以上魔族の話をすると命の危険が高まると思ったボクは無理やり話題を変える。
「問題大ありデス。堕天使といえば、神様との約束が守れないから堕天使になったんデス。もしも仲間にしたとして、いつ裏切るか分かったものじゃないデス」
「院長先生は裏切らないよ」
「そうデスか? あの堕天使、アリアにインフィニティ・インモラルなんていうふざけた名前を名乗ったんデスよ? アリアは信じられないデス」
「え? そんなに名前がふざけてるの?」
珍しい上に覚えにくい名前だとは思っていたけど、まさかふざけているなんて思わなかった。
「インフィニティ・インモラルを直訳すると無限大に不道徳デスよ? 初対面の相手に不道徳が過ぎるデス」
「へえ、そういう意味だったんだ」
初めて知った、超知った。
「師匠、あんなふざけた堕天使とパーティーを組むのはやめた方がいいデス」
真剣なまなざしでこちらを見てくるアリア。
心から心配しているんだろう。
これは、もう一度考え直さないといけないかもしれないな……じゃないんだよ、もしもこのまま院長先生とパーティーを組まなければ、アリアとボクは結婚。
そして、世界中から命を狙われる。
「大丈夫だよ。ボクの育ての親みたいなものだから」
ボクは慌てて院長先生のフォローをした。
「親みたいなものでも、親じゃないんデスよね?」
的確に突っ込んでくる、アリア。
「それは……うん、そうだね」
「師匠は警戒心が足りないんデスよ。あの堕天使、何か企んでいるんじゃないんデスか?」
「そ、そ、そんなことないよ、院長先生は信頼できるんだから……」
ボクはアリアを見ないようにしてこたえた。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、院長先生が堕天使だと知る。
アリア、サイレントに堕天使の院長先生は仲間にふさわしくないと説明する。