第10話 サイレント、勘違いしたことを反省する
これまでのあらすじ
サイレント、アリアとの出会いを院長先生に話す。
院長先生、穴だらけの妄想をする。
「何を言っているのよ、サイレント。アリアちゃんが失敗したら、町を壊滅状態にできるわけないのよ」
「それができるんですよ、超熱病があれば!!」
「超熱病って、魔界の超熱病なのよ?」
「そうです。感染力が高く、魔力が少ない人間から病気にかかっていって、最悪、死んでしまう超熱病です!」
さすがは院長先生、超熱病のことを知っていたか……
「なんですって!!」
びっくりする院長先生。
「落ち着いて聞いてください、院長先生。超熱病の元となるウィルスは、すでにカバッカ町にばらまかれているはずです」
「ウィルスをばらまかれているですって?」
「そうです、超熱病のウィルスに感染したサンザールのおっちゃんが、ニック村で発熱したんです」
「もしそれが本当ならカバッカ町は大変なことになっているじゃないの!!」
院長先生は駆けだそうとした。
「大丈夫です。サンザールのおっちゃんが、ニック村から超熱病に効く”特効薬”をカバッカ町に持っていったはずなので」
さすがに、ニック村の人たちみたいに院長先生はフェニックスを崇拝していないだろうけど、念のために、フェニックスの羽とは言わずに、”特効薬”とぼかしておく。
「サンザールさんが特効薬を? それなら安心なのよ」
その場にへたり込む院長先生。
「大丈夫ですか? 院長先生」
ボクは院長先生を起こそうとして手を差し伸べる。
「ありがとうなのよ」
院長先生がボクの手を取った瞬間、院長先生の手はとても熱かった。
悪い考えが頭をよぎる。
もしかして、院長先生も超熱病にかかっているのでは??
そうだよ。
おっちゃんも超熱病にかかっていたんだから、院長先生が超熱病にかかっていてもおかしくはない。
「院長先生、ちょっとおでこを失礼します」
ボクは院長先生の返事を聞く前に、院長先生のおでこに手を当てた。
発熱はなさそうだ。
「私は大丈夫なのよ」
「今は熱が出ていないかもしれませんが、後から熱が出てくるかも……どうしよう、この場に特効薬はないのに……」
ボクの持っていたフェニックスの羽はすべてニック村に置いてきてしまった。
もしも、院長先生が超熱病にかかっていれば助けることはできない。
「本当に大丈夫なのよ、サイレント。忘れちゃったの? 私はブリジットよりも魔力量が多いのよ」
「あ、そうだった」
アイズやブリジットに魔法を教えたのは院長先生だったっていうのをすっかり忘れていた。
「心配してくれてありがとうなのよ、サイレント」
院長先生は屈託のない笑顔を向けてくる。
素直な時はめちゃくちゃかわいいんだよな、院長先生。
「サイレント? どうしたのよ? ぼーっとしちゃって」
「えっと、院長先生がさっき言ったように、きっと、魔王軍の誰かがアリアをそそのかしてカバッカ町を襲撃したんだと考えていたんです」
院長先生の笑顔にみとれていたなんて本当のことを言えないボクは、とっさに嘘をつく。
「確かに、アリアちゃんが失敗したとしても、超熱病があるなら、魔王が許可する可能性が高いのよ……でも……」
歯切れが悪い院長先生。
「どうしたんですか?」
「さすがに、アリアちゃん一人に任せっ切りにするのか疑問なのよ」
「どういうことですか?」
「実際にアリアちゃんが勇者を倒したかどうか、アリアちゃん以外の誰かが監視でもしていないと、本当に勇者を倒したかどうかわからないのよ」
「アリアはウソがつけないから、魔王軍は信じるんじゃないですか?」
「それはないのよ。もしも、アリアちゃんが勇者に負けて殺されてしまった場合は、ウィルス頼りになるのよ? ウィルスで勇者が死んだと誰が魔王に報告するのよ?」
「確かにそうですね。アリアを監視しているような魔族なんか………………あーーーっ! いました、魔族!!」
ボクはまたしても大声をあげてしまった。
「それは本当なのよ?」
「はい、ダークドラゴンがカバッカ町の近くに来ていたんです」
「魔王のペットと言われている、あのダークドラゴンがカバッカの町の近くに来ていたの?」
驚きの声を上げる院長先生。
「そうです、そのダークドラゴンがアリアを迎えに来たって言っていました」
ダークドラゴンが迎えに来たのは、アリアと結婚するためだと思いこんでいたけど、違うんだ。
きっと、アリアを監視するために差し向けられていたんだ。
迎えに来たっていうのは、アリアは勇者一行に負けたのだから、超熱病のウィルスをばらまくので、魔界に帰るぞ……って意味だったんだ。
「それなのに、ボク、勘違いして……あんなこと言っちゃった……」
「あんなことって何を言ったのよ?」
「えっと……ボク、ダークドラゴンとアリアが結婚するものだと勘違いして、『ちょっと喋れるモンスターだからって、アリアに……お嫁さんになる人に攻撃魔法をかけるんじゃない!!』とか、『ボクの方が丁重にエスコートできるわ!!』……って言っちゃいました」
なんて勘違いをしていたんだ、ボクは。
反省。
「ああ、それで、結婚前のエンゲージメント契約がサイレントに施されているのね」
ぽんと手を叩いて、納得する院長先生。
「……そうなんですよ……結婚前のエンゲージメントが……って、結婚前のエンゲージメント契約!?」
ボク、そんな契約結んでないんですけど。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、院長先生に超熱病のことを伝える。
サイレント、アリアとエンゲージ契約をしていることを知る