第18話 サイレント、院長先生に告白される
前回のあらすじ
サイレント、院長先生の教え子がどんな職業に就くか迷っていることを知る。
冒険者ギルドの受付をお勧めして欲しいと院長先生に頼まれる。
「本人は冒険者になって有名になれば、魔王討伐軍に入れるから、軍に入って親の仇の魔王を討ちたいって言っているのよ」
「気持ちは分かりますが、冒険者は危険が伴います」
「私もそう思って、受付事務をすすめているんだけど、どうしても実際に冒険者がどんなことをするのかこの目で見てみたい……って言ってきかないのよ」
「多分、実際の姿を見たら、即決で受付事務を選ぶんじゃないかな……」
いくら適性があるとはいえ、冒険者はほいほいとできるようなものではない。
地獄のようなサバイバル術を身に付けなければ、冒険初日で二度と復帰できないような大ケガをすることもザラにある。
「私もそう思うのよ。それでね、サイレントが冒険者の大変さを教えてあげて欲しいのよ」
「それって、ダンジョンに連れて行けってことですか?」
サバイバル訓練を受けていない子を連れて行って、大丈夫かな?
「いやいや、そんなことはしなくていいの。ただ、日ごろこんなキツイ訓練しています……とか、こんな辛い体験をしました……とか、そういうことを伝えて欲しいのよ」
日ごろのキツイ訓練内容や危険な体験談を聞けば、冒険者は諦めるだろうということか……
「ボクは構いませんよ」
お世話になった院長先生のためなら一肌脱ごう。
「良かった。ありがとう、サイレント。あ、そうそう、その子は孤児院に来る前まで、家の中で使用人やメイドたちに大切に育てられていて、家の外のことを何も教えられずにきた子だから、貴方のことをバカだとは知らないのよ」
「そうなんですね」
「だから、絶対にバカだと気づかれてはいけないのよ」
「え? どうしてですか?」
「だって、バカだと分かったら、バカでもできるんだと思って、サイレントのことなんか言いくるめて、すぐにでも冒険者になってしまうかもしれないのよ」
「うっ、確かに……」
その通りだ。
ボクを丸め込むのなんか、お話ができる子どもでもあれば、誰でもできる簡単なことなのだ。
「それに、この町であなたのことをバカにしない数少ない子なのよ」
「確かに貴重な存在ですね」
ボク、この町のほぼ全員にバカにされているからな……
「近いうちにサイレントの家を訪ねさせるから、その時はよろしくね」
「わかりました」
「できればその子には生産職に就いてサイレントのお嫁さんになってくれればな……なんて思ってるの」
「お、お、お嫁さん!?」
「あらあら、サイレント、顔が真っ赤なの。ということは、まんざらでもないってことなのよ」
「ちょっと、院長先生、からかわないでくださいよ」
ボクの顔が真っ赤なのは、夕日のせいだ。
そういうことにしておこう。
「えー、結婚した方が良いの。もしも、あの子とサイレントが結婚したら、私は恋のキューピットなの。そうすれば、私の素晴らしさに感銘した人が私に求婚をしてくるのよ」
出た。
院長先生の恋愛脳のおせっかい。
「自分が結婚できないからって、人の結婚の仲介役になって、自分の結婚をする計画を企てないでください」
「あら、いいじゃないの。サイレントは結婚できて、私も結婚ができるから、ウィンウィンなのよ」
いやいや、ボクが仮に結婚できたとしても、院長先生が結婚するとは限らないでしょ。
捕らぬ狸の皮算用ってやつでしょ。
「そもそも、ボク、まだあったこともない人と結婚なんて約束できませんよ」
どんな子か分からないんだから。
院長先生から見て華奢に見えるだけで、実際は筋肉ムキムキかもしれないし。
「そうよね。あったこともない人とは結婚できないわよね」
「そうですよ」
ボクは大きく頷いた。
「それなら、私がお嫁さんになるなんてのはどうなのよ?」
「え?」
院長先生と?
院長先生は独身で背も小さく、若々しいから見た目はボクより若い。
だけど、実際はボクより年上のはずだ。
あ、でも、恋愛に年の差は関係ないっていっていたっけ。
うーん、恋愛対象?
恋愛対象というよりはお母さんという感じなんだよな。
でも、それを直に伝えたら、院長先生の心を傷つけそうだし……
ふと院長先生の顔を見ると、にやけた顔をしながら、鼻血をぶーっと出していた。
「院長先生、大丈夫ですか? 鼻血が出ていますけど」
「あ、大丈夫なのよ。ヒール!」
院長先生は右手を自分の鼻のところに手をやり、魔法を唱えて止血する。
「ちょっと、妄想……いや、サイレントとの結婚生活を想像しただけなのよ」
「何か言いましたか?」
声が小さくてなんて言ったか聞き取れなかった。
「いや、何でもないのよ」
忙しい人のまとめ話
院長先生、サイレントに教え子を結婚相手に勧める。
サイレント、院長先生告白される。