第4話 サイレント、殺気立っている危ない人と会う!?
これまでのあらすじ
サイレント、ミスリド海集落付近の森の木の上にたくさんの人がいることに気づく。
サイレント、ミスリド海集落の男の人に、指名手配されているのではないかと疑われる。
「否定している割には、汗が半端ないんだけどな」
「そんなことないですって」
そりゃあ、そうだよ。
本当はボク、賞金首なんだから。
「師匠もアリアも犯罪者ではないデス」
こたえたのはアリアだった。
「そうそう、そうなんですよ」
ボクはアリアに乗っかり激しく同意する。
さすがはアリア。
ボクと一緒にいたから、ウソをつけるようになったんだね。
「犯罪者ではないデスが、師匠には賞金が……」
ボクはまたしても、アリアの口を手でふさいだ。
「『賞金』?」
「アリアは、師匠は『正気』で犯罪者じゃないと伝えたかったんですよ。ね、アリア?」
ボクはアリアに同意を求める。
ボクに口をふさがれたまま、こくりとうなずくアリア。
「そうだよな、まさか犯罪者なはずないよな。悪かったよ、疑って。“旅人の冒険者”が久しぶりだと言えば、ニコニコするし、宴をしようといっても断るし。まるで指名手配されている犯罪者がこの集落に来て、目立たない行動をしようとしているのかと邪推しちまった」
「冗談がきついな、お兄さん。ボクたちが指名手配犯なわけないですよ。そんな凶悪なことをする顔に見えますか?」
真剣な目でお兄さんをまっすぐに見つめた。
もちろん、内心はばれてしまうのではないかとひやひやだ。
信じろ、信じろ、信じろ。
「凶悪には見えない……というより、頭が悪そうに見える」
「そうですよ、ボクは見た目通りに頭が悪いんです。こんな人間が凶悪な犯罪なんかできやしませんよ」
良かった、頭が悪そうに見えて……って、自分で言ってて、空しい。
「疑ってすまなかったよ」
良かった、信じてくれたようだ。
「そもそも、この集落の周りの森には、よそからやってきた賞金稼ぎがごろごろといるから、あんたたちがこの集落にたどり着けた時点で賞金首じゃないってことは分かっているんだけどね」
「そうですよ、ボク達がミスリド海集落に入れたってことは、賞金首じゃないことの証明ですよ……って、森の中には賞金稼ぎがいるんですか!?」
ちょっと待って。
お兄さんの言うことが本当ならば、さっき木の上にいた人たち全員、賞金稼ぎ!?
あやうく、賞金稼ぎに挨拶するところだったよ。
良かった、挨拶をしないで。
「ああ、このミスリド海集落は人の往来も少なく、情報が入ってこない。だから、賞金首が流れてくるということに目をつけた周辺の町や村に住んでいる賞金稼ぎが森の中に集まってきたんだよ。君たちは賞金首たちに会わなかったのかい?」
「そういえばいましたね、木の上に。殺気立った集団が」
ボクは『会った』とは明言せずに、殺気立った集団に気づいたことだけを伝える。
「あんなに殺気立っていたら、賞金首も警戒するだろうにね。君みたいに」
「何を言っているんですか、ボクはミスリド海集落に入れたんだから、賞金首じゃないですよ」
もしかして、まだ疑われているのか?
まずい、まずい、まずい。
「それもそうだよな……」
あっさりとうなずくお兄さん。
「そうですよ」
よし、ボクの言葉を信じてくれたみたいだ。
これで一安心だぞ。
「あ、でも、集落に入った後に殺された賞金首も一人だけいたっけ……」
「へー、そうなんですね」
ボクは平静を装いながらうなずく。
「そうそう、その賞金首も、賞金狩りの話をしたら、今の貴方みたいに、顔が真っ青になっていたよ」
「え? ボク、顔が青いですか?」
まずい、まずい、まずい。
何か言い訳を考えないと。
「冗談だよ、冗談」
お兄さんは大笑いしながらボクのかたをバンバン叩いてきた。
「あはは、冗談だったんですか。そうですよね、賞金稼ぎがたくさんいるのに、集落に賞金首が入ってこれるわけがないですよね」
良かった、冗談で。
「冗談って言ったのは、君の顔が青いっていうのは冗談で、賞金首がこの集落に入ってきたっていうのは本当だよ」
そっちは本当なんかい!!
ツッコミたいが、ここでツッコむと、また疑われそうだ。
こういう時、なんて言うのが正解なんだ?
「どうして、その賞金首は集落内で殺されたんデスか? 普段は集落に入る前に殺されちゃうんデスよね?」
アリア、ナイス質問。
「あの時は確か、誰が賞金首を倒すかで賞金稼ぎがもめたんだよ。もめている間に、賞金首が集落の中まで入ってきてしまったってわけ。まあ、すぐに賞金首は殺されたんだけどね」
「あ、そうなんですね」
ボクは辺りを見回した。
もしも、今回も賞金稼ぎ同士でもめているなら、今この瞬間に襲われても全然不思議じゃない。
「どうしたんだい? 急にきょろきょろして」
「いやー、この集落は目新しいものが多いなと思いまして」
とくに賞金稼ぎをやっている人が多いのはとても珍しい……と言おうとして、ボクは口をとじた。
そんなことをこのお兄さんに言ったら、賞金稼ぎを紹介してやるなんて言い出すかもしれないぞ。
「そうか?」
不審そうな目でこちらを見てくるお兄さん。
失敗した。
きょろきょろするんじゃなかった。
気配察知だろ、こういう時は。
ボクはすぐさま気配察知に切り替える。
「あ、それでは、ボクたちはこれで。行くよ、アリア」
「え? でも、もっと、この土地のことを教えてもらった方がよいデス……」
ボクは有無を言わさずにアリアをお姫様抱っこして、その場を立ち去る。
「いいから、行くよ」
「どうしたデスか?」
「誰かが殺気を出しながら猛スピードでこちらに近づいてきているんだよ」
「……本当デス、殺気を出している人が来ているデス!!」
アリアも気配を察知をしたのだろう。
すぐさま、ボクの言葉を信じてくれた。
「賞金稼ぎかもしれないから、とにかく隠れて様子をうかがおう」
「分かったデス」
ボクとアリアは草むらの茂みに隠れて様子をうかがう。
「くんくん、ここら辺に、男女カップルのリア充臭がするのよ。リア充なんて存在、私が滅してあげるのよ」
独り言ちながら、周りをきょろきょろと見渡す人影。
うわっ、カバッカ町の司祭様みたいなことを言い出す危ない人だ。
関わらないようにしないと。
「リア充、滅すべしなのよ!!」
……って、あれ?
あれは……
「院長先生!!」
ボクは立ち上がって、声を出していた。
「サイレント!!」
ボクの名前を呼んだってことは、間違いなく院長先生だ。
「何しているんですか? こんなところで」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、疑われるがやり過ごす。
サイレント、院長先生と出会う。