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第3話 サイレント、ミスリド海集落に入る

これまでのあらすじ

 サイレント、次の行き先を決める。

 サイレント、追っ手がいるかもしれないとアリアをいたずらに怖がらせる。


「アリア、この森を抜ければ集落に着くってことは、まだここは集落じゃないんだよね?」

 ボクはアリアの耳元でささやく。


「そうデスね」

 アリアも耳元でささやきかえしてくる。


「この周辺、木の上に人が何人かいるみたいなんだけど、もしかして、ミスリド集落の人は高いところが好きなのかな?」


 気配を消しているからボク達には気づいていないようだが、木の上には冒険者のような格好をした人々が何人もいた。


「きっと、集落の人が木の実でも採っているんデスよ」


「ボクもそう思ったんだけど、様子が変じゃない?」

「変デスか?」


「うん、木の実をとるにしてはみんな武器を持っているし、今にも戦闘を開始しそうなほど、殺気がすごいんだけど」

 木の上にいるほとんどの人々は、血眼であたりを見回している。


「それならきっと、木の実じゃなくて、狩りの獲物を探しているんデスよ」

「ああ、ウサギとか、イノシシとかを狙っているってことか……」


 あんなに殺気を出していたら、動物たちも気づいて、近寄らないと思うけどな……

 もしかしたら、海に面しているから漁は得意だが、森の中の狩りは下手なのかもしれない。


「狩りの邪魔をしちゃいけないから、気配をさらに消して、迂回しよう」


 挨拶をしようかとも思ったが、さすがに、あんなに必死に獲物を探しているんだから、ボクたちが声をかけないほうがよいだろう。


 お前たちが声をかけたせいで獲物が逃げたから、代わりに金を出せ……って難癖つけられても嫌だし。


 もしかしたら、ボクが指名手配されているのを知っているかもしれないし。


「分かったデス」


 ボクとアリアはさらに気配を消して、森の中を歩き続ける。


 歩き続けていると、脚のホルダーに収めていたダガーがひとりでに一瞬だけ動いた気がした。

 びっくりしたボクは歩みを止める。


「急に立ち止まって、どうしたデスか、師匠?」

「ボクのダガーが勝手に動いた気がしたんだけど……気のせいみたい」


「ダガーが勝手に動くはずないデス。きっと、気のせいデス」

「そうだよね」


 アリアが言うように、魔法も使っていないのに、ダガーが勝手に動くはずがないんだ。

 きっと気のせいだろう。


「あ、家が何軒か見えてきたデス、きっと集落に違いないデス」

 ミスリド海集落についたことに興奮したアリアは、気配を消すのをやめて走り始めていた。


「ちょっと待ってよ、アリア」

 お願いだから目立たないでくれ。

 ボクはアリアを追いかける。


「ここらへんじゃ見ない顔だけど、冒険者の旅人さんかな?」

 ボクがアリアに追いつくと、人当たりのよさそうな顔で男の人に訊かれた。


「そうデス」

「ようこそ、ミスリド海集落へ」

 男の人は笑顔で応対してくれた。


 少なくとも、ボクを捕まえようとしないところをみると、ボクが指名手配されていることは知らなさそうだ。


「はじめまして」

 ボクは少しだけ安心しながらあいさつをする。


「あなたは、包帯でぐるぐる巻きデスが、ケガですか? それとも、やけどデスか?」

 訊いたのはアリアだった。


「ちょっと、アリア、初対面の人に失礼だよ」

 ボクも上半身が包帯にまかれているのは気になっていたけど。


「あはは、この包帯かい? この包帯は、この集落の服みたいなものなんだよ。この集落の人であれば、男も女もみんな巻いているんだよ」


 さわやかな笑顔で教えてくれるお兄さん。


「そうなんですね」

 ボクも笑顔になって相槌を打つ。


 へー、それじゃあ、さっき木の上にいた人たちは包帯なんか巻いていなかったから、この集落の人じゃないんだ。


 どこかの町の人が狩りをしに来ていたんだろう。

 良かった、声をかけなくて。


 下手したら指名手配されているのを気づかれて追いかけまわされていたかもしれないぞ。


「ところで、ミスリド集落へは観光かい?」

「違うデス。アリアたちはニック村から追放……むぐっ」


 アリアが正直に答えようとしたので、ボクはアリアの口を押える。


「ニック村からついほう?」

 お兄さんはアリアの言葉を繰り返す。


「違うんですよ。ニック村の冒険者から『つい、訪問したくなるような素敵な集落だ』と聞いてきたんですよ。だから、『ついほう』って言ったんだよね、アリア?」


 ボクはすぐに口から出まかせを言ってアリアに同意を得ようとする。


 口をふさがれたまま、アリアはこくりとうなずいた。


「ああ、そういうことかい。きっと、その勧めた人はずいぶん昔に訪れたんだろうね。今はそんなにいいところではないよ」


「いやいや、そんなことないですよ。青い空の下に海と砂浜があって、きれいな景色が最高じゃないですか」

 たまたま目に入ってきた光景を伝える。


「そう言ってもらえてうれしいよ」

 お兄さんは一層笑顔になった。


「あ、そうだ。せっかく、ミスリド海集落に来たんだから、おもてなしをしないといけないな。ごめんな、旅人さん。“旅人の冒険者”がこの集落に来るなんて久しぶりだから忘れていたよ」


「あ、構わないでください」

 そっか、“旅人の冒険者”は久しぶりなのか。

 それなら、ボクが指名手配されていることにも気づかれないぞ。


「どうしたんだい、旅人さん、にやにやして」

「あ、いや、何でもないです」

 ボクはアリアの口をふさいでいた手を自分の口に当てて、指摘された笑顔を隠す。


「ははーん。さっきは謙虚に断っていたけど、本当はおもてなしされるのが嬉しいんだろう? 大丈夫、すぐにみんなに声をかけて宴を開くから!!」

 お兄さんは駆けだそうとした。


「違うんです!!」

 ボクは大声で叫ぶ。


「何が違うんだい?」

「ボクが笑顔になったのは久々に旅人が来たということをきいたからで、おもてなしを期待したからじゃないんです。だから、本当に宴会はやめてください」

 ボクは叫んでいた。


「どうしてだい? どうして、君はおもてなしじゃなくて、旅人が来たからということを聞いて喜んだんだい?」

「えっと、それは、その……」


 それっぽいウソが思いつかなかったボクはしどろもどろだ。

 正直に指名手配されているとは言えないし……


「まさかとは思うが、あんたら、指名手配されている犯罪者じゃないだろうね?」

「え? まさか!?」


 まさかの正解だよ、お兄さん!!


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、ミスリド海集落付近の森の木の上にたくさんの人がいることに気づく。

 サイレント、ミスリド海集落の男の人に、指名手配されているのではないかと疑われる。

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