第2話 サイレント、行き先を決める
これまでのあらすじ
サイレント、魔王討伐を諦めさせ、アリアにサバイバルマスターを目指すよう言いくるめる。
アリア、魔王討伐とサバイバルマスターを両立させようとする。
「魔王軍の本拠地はダメデスか?」
「ダメに決まっているでしょ!!」
「どうしてデスか?」
「いいかい、アリア、物事には順番ってものがあるんだ。アリアの場合はサバイバルマスターになってから、魔王を倒すためのレベルアップをするっていう順番だ。両方同時にするなんてことは考えちゃいけないだよ」
「分かったデス。アリアはサバイバルマスターになるデス!!」
瞳に闘志を燃やすアリア。
「どこかないの? 魔物も人もいないところは」
「なかなかないデスよ。人の往来がないところはたいてい魔物の巣窟みたいなところしかないデスし、逆に魔物がいないところは人の往来が多いデスから」
「そっか……都合よいところはないか……」
「その通りデス」
「それなら、この近くにニック村よりも人の少ないところはある?」
「人が少ないところデスと……そうデスね……ミスリド海の海岸沿いに集落があるデス」
アリアは指をさす。
「集落って、この黒丸のところ?」
「そうデス。その黒い丸が集落デス。今いるところがここデスので、1日もかからないはずデス」
アリアは地図の下の方にある黒丸を指さしながら説明してくれた。
「アリア、ボクたちは今ここにいるんだよね? それなら、こっちの集落はどうなの?」
ボクは地図に描かれていたもう一つの黒丸を指さす。
「こちらの集落は時間がかかるはずデス」
「時間がかかるなら、アリアのいうミスリド海集落に行こうか」
ボクは立ち上がり歩き出す。
「師匠!!」
地図を片付けながらボクを呼び止めるアリア。
まさか、やっぱり、魔王軍の本拠地に行きたいとか言うんじゃないんだろうね?
「何、アリア? ボクは今からミスリド集落に行くんだ!!」
ボクは強い決意で言い切る。
「ミスリド海集落は、こっちデス」
アリアはボクが歩き出した反対側を指さした。
まずい、このままだとボクはアリアに地図も読めないバカだと思われてしまう。
ここはなんとかごまかさないといけないぞ。
「うん、ミスリド海集落の方向は知っていたんだけど、あっちからイヤな気配がしてね」
ボクは今まさに行こうとしていた方向をびしっと指さす。
「イヤな気配デスか?」
「誰かにつけられている気がするんだ」
もちろん、苦し紛れのウソだ。
信じてくれ、アリア。
「もしかして、カバッカ村の時に言っていた気配と同じデスか?」
そういえば、カバッカ村でも似たようなことがあったっけ……
「うん、また誰かにつけられている気がするんだよね」
ボクはアリアの話に乗っかってウソをつき通す。
「アリアを抱えて走ったとはいえ、師匠の速さに追いつける人なんかいないので、きっと気のせいデスよ」
「気のせいなのかな……ボクの気配察知ができるギリギリの範囲外で、誰かが追ってきている気がするんだけどな……」
「でも師匠、今、気配察知のスキルを使っていないデスよね?」
あ、まずい。
苦肉の策で出したウソがバレそうだ。
「ボクくらいの冒険者になると、気配察知を使わなくても、追っ手を察知できるんだよ」
「そうだったんデスね。アリア、知らなかったデス。すみません、アリアの勉強不足デス」
「いいんだよ、無知は罪じゃない。だんだんと知っていけばいいさ」
ボクは先輩面をしてアリアの肩にポンと手を置く。
ごめん、アリア、本当はアリアの勉強不足じゃないんだよ。
たった今、ボクがウソついただけなんだから。
「お言葉に甘えて勉強させていただくデス」
「え?」
「師匠は気配察知のスキルを使わなくても追っ手を察知できると言っていたデスが、気配察知と同じで範囲はどれくらいデスか?」
「範囲?」
そんなの知らないよ。
こういう時は、自分が知っている数字と単位をこたえれば当たるだろう。
「21グラムくらい……かな」
「21グラム? グラムって重さの単位デスよね? どういうことデスか?」
違った。
グラムは距離じゃなかった……
「もちろん、21グラムというのは冗談だよ」
「アリア、まじめに聞いているデス。本当の距離を教えてくださいデス」
頬を膨らませるアリア。
「ごめん、ごめん。本当は気配察知を使った時と同じくらいかな?」
でたらめな答えを出すボク。
「……ということは、師匠を中心にだいたい500メートルくらいデスか?」
「え? あ、うん」
よくわかんないけど、とりあえずうなずいておこう。
「それなら追っ手は師匠の取り越し苦労だと思うデス」
その通りだよ、アリア。
最初から追っ手なんかいないんだよ。
「どうしてそう思うのさ?」
追手がいないのは分かっているが、理由も聞かずに、『うん、そうだね』とは言えないので、一応理由を聞いておく。
「仮に追っ手がいたとして、追手は師匠をどうやって認識するんデスか?」
「それは……スキル・気配察知でしょ?」
察知できる距離は本人の適性によるけど、気配察知は訓練すれば誰でも身につけることができるスキルだ。
「500メートル以上の気配察知ができる生き物をアリア知らないデス」
「アリアが知らないだけでいるかもしれないよ。世界は広いんだから」
「仮に師匠以上の気配察知の使い手が追っ手だったとして、目的は何デスか?」
「目的?」
「師匠を狙う賞金稼ぎだったとしたら、500メートルも離れていれば、師匠を捕まえることはもちろん、視認もできないデス」
「何もせずに、ボク達にただただついてきたい……とか?」
ボクは何の気もなしにいい加減にこたえる。
「あっ!!」
心当たりがあるのか、アリアは突然驚きの声をあげた。
「どうしたの? アリア?」
「あ、いえ、何でもないデス。確かに、ただただついてきているかもしれない人がいるかもしれないデスから、気配を消して、静かに歩くデス」
急にアリアはマジック・バックから大鎌を取り出し、周囲を警戒しはじめる。
「え? あ、うん、そうだね」
いないはずの追っ手に気配を悟られないように、ゆっくりと歩き始めるアリアとボク。
ごめんよ、アリア。
怖がらせてしまって。
そんな人はいないのに……
「師匠、この森を抜ければ、そろそろ集落が見えてくるはずデス」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、次の行き先を決める。
サイレント、追っ手がいるかもしれないとアリアをいたずらに怖がらせる。