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54話 サイレント、必死に話題を変えようとする

2024年1月12日後書きを訂正しました。(本文に変更はありません)


これまでのあらすじ

 サイレント、死体がフェス様だと特定されかけ、ピンチに陥る。

 サイレント、へりくつを言って、死体はフェス様じゃないと村民を無理やり納得させる。




「おーい、みんな、このセキゾ・ウックールが2年ぶりにニック村に帰って来たぞい……って、みんなわしの帰りを心待ちにして広場に集まってくれとったんか。わざわざわしのために。わし、感動だぞい」


 おじいさんの声が聞こえてきた。

 なんて良いタイミングなんだ。


 ボクの話題から、この人の話題に変えてしまえ。


「あ、久しぶりに帰って来た人がいるみたいだよ。ほらほら、ボクにかまうより、帰ってきた人の旅話を聞いたほうがいいよ」

 ボクはボクの話題を火消しするために、めちゃくちゃ旅話を勧める。


「「「「うるさい、セキゾ・ウックール。今それどころじゃないんだよ」」」」

声をそろえる村人たち。


「おいおい、せっかく凱旋したっていうのに、どうしたんだぞい?」


「ほら、ボクなんか、放っておきなよ。久しぶりに帰ってきたおじいさんがびっくりしているよ」

だいぶ年をとったよぼよぼのおじいさんなんだから、もっと優しくしてあげた方がいいよ。


「何を揉めているかは分からないが、緊急性の高い重大な話があるんだぞい。みんな、まずはわしの話を聞いてほしいんだぞい」


「ほら、重大な話があるみたいですよ、みんなで聞きましょう!! ボクは逃げも隠れもしませんから」

 もちろん、逃げないというのは建前で、隙を見て逃げ出す算段だ。


「仕方ない、まずはセキゾ・ウックールの話を聞くか」「ああ、セキゾ・ウックールが緊急性が高いと言うなら、よっぽどの話だろう」「そうだな」


 村人たちは話を聞くみたいだ。


 よしよし、いいぞ。

 ここまでは計画通りだ。


「みんな、落ち着いて聞くんだぞい。ホバッカ村に魔王軍の四天王の一人が人間の姿に化けて、入村したらしいぞい」


「「「「なんだって!? 四天王がか?」」」」

 そこにいた村人全員が驚く。


 ん?

 ホバッカ村で人間に化けた魔物……って、人狼・ルプスのことだよね?


 …………あ、これはまずい。


「既にホバッカ村からは追い出したらしいが、何でも、今は、『師匠』とか呼ばれて、まだ人間の姿で悪事を働いているみたいだぞい。このニック村にはフェス様のご加護があるから魔物が入ってくるとは思えないが、注意するに越したことはないぞい」


「あれ? 師匠って言葉、どこかで聞いたような……」「お前もかい? 私もだよ」「どこだったっけな……」

 みなさん、思い出さなくていいよ。


「何でも、見た目はバカっぽい顔をしたアサシンらしいぞい」

「アサシンなら最近見かけたね」「そうだな」「ああ、見かけたな」


 一斉に顔をこちらに向けてにらんでくる村人たち。


「みんな、どうしたぞい、一人の青年の方を突然見始めて……って、何でフェス様が死んでいるんだぞい」

 おじいさんがボクの方をみた瞬間、足元の火鳥の死体に気づき、声をあげる。


「やっぱり、これはフェス様で間違いないのかい?」


「ああ、わしは幼いころ、この村が火山の噴火で半壊した時に、フェス様にがんばって復興しろと声をかけられたから間違いないぞい」

 まずい、まさかの生き証人がいた。


 これじゃあ、言い訳ができない。


「「「「「「やっぱりか」」」」」

 ボクを見る目は全員吊り上がった。


「早くフェス様の亡骸をボルケノ火山のマグマの中にご奉納しなければ、全員に天罰がくだるぞい!!」


「それは、大変だ!! すぐさまフェス様をご奉納しなければ!!」


 ボクは大声で叫ぶと、もらった小麦をマジック・バックに全部入れてから、全力で村の入口へ走ろうとした。


「そっちはフェス様の亡骸じゃなくて、村の出口だよ? どこに行く気だい? 神様……いや、偽神様」


 宿屋のおかみがボクの肩をつかみながら言ってきた。

 口は笑っているが、目は笑っていない。


 さすがは、すごい握力ですね。

 道理で、火ネズミを取り出すのを手伝うと申し出るはずだ、感心、感心……じゃないよ。


 逃げなくちゃ。


「えっと……この町を出ようかな……と」

 ボクは顔を流れている冷や汗をそのままに、心臓をバクバクさせながらこたえる。


「まだ、ゆっくりしていきなよ、神様……いや、師匠と呼ばれていた青年様」

 村長が指をぱきぱきと鳴らしながら、冷静な口調でボクに言ってくる。


「いやー、ボクは先を急がないといけないから……」


「先を急ぐ? いやいや、急ぐ先は真っ暗闇だから、急ぐ必要ないぞい」


 あれれ?

 おじいさん、ボケちゃったのかな?


 まだ夕暮れには早い時間だよ……って、そういう意味じゃないってこと?

 もしかして、ボクのお先は真っ暗だ……っていうことですかね?


「「「「「そうそう、お茶でも飲んで、ゆっくりしていきな師匠……いや、魔王軍の四天王!! それに、その弟子の女の子!!」」」」


 村人達は目を尖らせながら、口をそろえて言ってくる。


 はい、ボクとアリア両方とも魔王軍の魔物だと勘違いされました。


「瞬動!!」

 ボクは一気に加速して、腕を振り払うと、アリアの元へと駆け寄った。


「アリア、逃げよう!!」

 ボクはアリアをお姫様抱っこして走りだす。


「でも、師匠はここでスローライフをするのではなかったのデスか?」


 悲しみのあまり、今までの会話を聞いていなかったな、アリア。


「違うよ、アリア。ボクたちの冒険はこれからなんだよ!!」

「これからもよろしくデス、師匠」


 こうして、村人の治療までして神様にまで上り詰めたはずのボクは、一夜もしないうちに、ニック村から事実上の追放をされましたとさ。


第3章 完


 第3章を読んでいただき、ありがとうございました。

 

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