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52話 サイレント、恥をかく

これまでのあらすじ

 サイレント、おっちゃんに火鳥の羽根を渡す。

 サイレント、アリアに冒険はここまでだと伝える。


 


 アリアには悪いけど、ボクの冒険はここまでだ。


「さて、誰についていこうか……」


 金持ちの老人の家に泊ってもいいし、宿屋にただで泊まるのも悪くないけど、王都も捨てがたい……


 迷うな……


「ちょっと待つですー!!」

 大声を上げたのはフラットさんだった。


 そこにいた全員がフラットさんを見る。


 ははーん、そういうことか、フラットさん。


「フラットさんもボクを勧誘しようとしているのですね? 冒険者ギルドではどんな好条件を出してくれるんですか? 装備品や消耗品が無料とかですか?」


 ボクはいつもよりも格好よくして尋ねる。


「勧誘はしませんよー」

「え? ボクを誘いに来たんじゃないの?」


「違いますよー。私がここに来たのは、クエストの火ネズミってどうなったかを確かめに来たんですー」


 あ、そっちか。

 赤っ恥かいた。

 穴があったら入りたい。


「あ、そうだった、クエストでしたね、クエスト!! 覚えていますよ、クエスト。確か火ネズミでしたね。今、ここで出します」


 恥ずかしさのあまり、ボクは、今ここで火ネズミを出すと言ってしまった。


「サイレントさん、こんな人が多い中で魔物の死骸なんて出したら、見た目と臭いで気分が悪くなる人が続出しちゃいますよー」

「あ、そっか」


 何を言い出しているんだ、ボクは。

 そもそも、こんな多くの人の前で火ネズミを出すためにマジック・バックを使ったら、ボクが神様ではなくポーターだと勘違いされてしまう。


 そんなことになったら、『お前は神様じゃない』とけなされ、夢のスローライフ生活が夢のままで終わってしまうじゃないか。


「お手数かもしれないですがー、冒険者ギルドまできてくださいー」


 助け船ありがとう、フラットさん。

 ボクは心の中で感謝をする。


「みんなごめん、ちょっと冒険者ギルドに寄ってくる」


「……というわけでー、すみませんがー、サイレントさんを借りますー」

 フラットさんはぺこりとお辞儀をした。


「ちょっと待って。そう言って冒険者ギルドに連れていって、神様を独占する気なんじゃないか?」「そうだよ、神様を旅行ケースか何かに閉じ込めて、他の町の冒険者ギルドに連れていくとかするんじゃないか?」「神様独占反対!!」


「「「「「神様独占反対!!」」」」」

 誰かが言った言葉が、いつの間にかコールになる。


「そんなことしないですー」

 頬をふくらませるフラットさん。


「信用なりませんな」「そうだ、ニック村の冒険者ギルドは経営が危ないじゃないから信用できないぞ!」「ここで引き渡しをしろ!! さっきまで、神様はここで取引する気満々だったじゃないか」


「でもー、こんなところで魔物の死骸なんかだしたらー、気分が悪くなる人がでてくるんじゃないですかー? ここらへんが血生臭くなりますしー」


「フラットさんのいう通りですよ」

 ボクは首を縦に振り、激しく同意する。


「それでもいいから、ここで取引しろ!!」「そうだ、そうだ」「神様を独占するな!!」

 広場にいる人はここでフラットさんと取引をしろと言ってくる。


「皆さんが良いなら、サイレントさん、出してもらってもよろしいですかー?」

「いや、それはちょっと……」


 まずい、まずい、まずい。

 マジック・バックを使っているところをばれたくないんだよ。


「どうして?」「何か後ろめたいことがあるの?」「まさか、我々の条件を蹴って、本当に冒険者ギルドと手を組む気ですか?」

 広場の人々は好きかって言い始めた。


「分かったよ……」


 こうなってしまったら、ボクが担いでいるリュックの中でマジック・バックを使い、火ネズミをリュックの中から出したようにみせるしかない。


 できるのか?

 こんなに多い人の前でみんなに気づかれずにマジック・バックを使うなんてことが。


 さっき恥をかいてから心臓はすでにバクバクだぞ。


 まずは落ち着け。

 落ち着いて冷静に対処すればできるはずだ。


 ボクはふーっと息を大きく吐くと、ボクは担いでいたリュックをおろし、すぐさまリュックの中に手を入れた。

 マジック・バック……心の中で唱えると、リュックの中にマジック・バックがでてきた。


 よしよし、成功だ。

 あとはマジック・バックの中から火ネズミを取り出して、リュックの中から出したようにみせるだけ。


 ボクは火ネズミを出そうとするのだが、何かにひっかかって取れない。


「神様、どうしたんですか?」「重いようなら手伝いましょうか?」「宿屋できたえた腕力で手伝いますよ」


「あ、大丈夫だよ。簡単に出せるから」


 まずい、まずい、まずい。

 はやく出さないと、マジック・バックから出していることがばれてしまうかもしれない。


「よいしょ」


 ボクは掛け声とともに、力いっぱいに火ネズミを引っ張り出した。

 ふぅ、火ネズミって、こんなに重かったっけな……


「確かに、火ネズミですー、これは回収させていただきますねー、それではー」


 フラットさんは火ネズミだけを引き取ると、そそくさとどこかへ行ってしまった。

 何で、そんなに慌ててるのフラットさん。


「……って、ええっ!!」


 ボクは自分の目を疑った。

 広場の真ん中には火鳥の死体。


 もしかして、ボク、勢いあまって火ネズミと一緒に火鳥も出しちゃったってこと?

 火鳥って、災いの種だってアリアが言ってたよね?


 ああ、だからフラットさんはそそくさと帰っていったのか……

 納得……って、まずい、まずい、まずい。


 何とか言い訳しないと。

「あの、これはね……」


「あれ? この鳥って、もしかして……」「いやいや、神様が出したものだよ、そんなわけないって……」「いや、これは間違いない」


 ざわざわしだす広場の人たち。


 いったいどうしたというのだ。


「「「「「これは、フェス様だ!!」」」」」

 その場にいた全員が声をそろえて叫ぶ。


「え? えーーーー!!」

 広場で声をあげたのはボクだけだった。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、フラットさんに火ネズミを渡す。

 サイレント、火ネズミを出したときに火鳥も出してしまう。


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