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49話 サイレント、女の子を治療する

これまでのあらすじ

 サイレント、治療を拒まれる。

 サイレント、治療を頼まれる。



 


 ボクが病室から出ると、一人の女の子がいた。


 格好からして、この病院の患者だろう。


「あたい、見ちゃった」

「え? 何を見たの?」


 まさか、ボクの火鳥の羽根を使っているところを見られた?

 ボク、誘拐されちゃう?


「お兄ちゃんが奇跡を起こして、お医者様が治せないと言っていた病気を治すところ」

 あ、そっちか。


「見られちゃったか」


「お兄ちゃんは、奇跡を起こせるの?」

「ボクは奇跡を起こせるわけじゃないんだ」


 ボクが今できることといえば、火鳥の羽根を使って、超熱病を治すことくらいだよ。


「そうなんだ……」

 残念そうに下を向く女の子。


「どうしたの? もしかして、君も病気を治してほしいとか?」

「あたいの病気は治さなくてもいいの。ただ、パパに帰ってきてほしいの」


「パパ?」

「うん、あたいのパパ。元アサシンで、ダガーを投げるのが上手で、足も速くて、気配を消すのも上手なパパ」


 目を輝かせながらパパの説明をしてくれる女の子。

 よっぽどパパが好きなんだろう。


「そのパパが帰ってきていないの?」

 もしかして、こんな小さい子を置いて、家を出ていったのか?


「うん、あたいの病気を治すために、お薬を取りに行くっていって、1か月も前にボルケノ火山に登ったの……でも、まだ帰ってきていないの」


 視線を下に落とす女の子。


「ボク、昨日ボルケノ火山に登った時は人の気配はなかったな」

 人の気配がすれば、ボクがすぐ気づくはずだ。


「それ、本当?」

「うん、間違いないよ」


「もしかして、何かあって、もう死んじゃったんじゃ……」

 泣きそうになる女の子。


「あ、いや、君のパパが元アサシンだというのなら、ボクの気配察知にも引っかからないほど気配を消していたんだよ、きっと」

「そう、そうだよね」


 女の子は無理して笑っているようにみえた。


「ねえ、できるかどうかは分からないけど、君の病気を治療してあげようか?」

 女の子に元気を出してほしくて、治療の提案をする。


「あたいの病気は、治らないから、治療はしなくていいよ。いろいろなお医者様に見せたけど、全員匙を投げたの」


「どんな病気なの?」

「手が痛くなる病気。この痛みがある日突然、心臓に痛みが来た時、あたいはすぐに死ぬんだって」


 ん?

 ちょっと待って。


 この子、自分がいつ死ぬかも分からないのに、パパの無事を優先したってこと?


 なんていい子なんだ。


 ボクのことを疑っていて、手のひら返ししてきた冒険者ギルドの人達より、こういう子こそ治してあげたい。


「あのさ、もしかしたら、治せるかもしれないんだ。お願い、君の病気を治させて」

「治さないで。パパに治してもらうんだから」


 さっきは女の子を悲しませたくなくて、気配察知にも引っかからないほど気配を消したなんて言ったけど、きっと命を落としているだろう。

 それならば、残ったこの子だけでも治してあげたい。


「でも、もし、君のパパが間に合わなかったら……」

「パパはあたいが死ぬ前に絶対に帰ってくるもん。もしも、パパが必死で苦労してお薬を取りに行ったのに、帰ってきてあたいが治っていたら、きっとパパを悲しませるもん!!」


「それは違うよ!!」

 ボクは叫んでいた。


「お兄ちゃん?」

「もしも、パパが帰ってきて、君の病気が治っていたら、パパは絶対に喜んでくれるよ! 絶対に!!」


 残念だけど、おそらく、この女の子のパパはすでに亡くなっているはずだ。

 それならば、この子だけでも助けたいと思ったボクは必死に訴える。


「そうかな?」

「そうだよ!! 自分の子どもの病気が治っていてがっかりする親なんかいるもんか!!だから、治させて」


 ボクは断言する。


「うん、分かったよ」

「それじゃあ、手が痛いかもしれないけど、ボクの手とハイタッチ」


 ボクは女の子の前に手を差し出し、パチンとハイタッチをした。


「すごい、手の痛みがひいていく。もしかして、治ったの?」


 そうだよ……と言いそうになって、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 ボクはこの火鳥の羽根の効力をよくわかっていない。


「ボクにもわからないんだ。もしかすると、すぐにでも痛みが走るかもしれないんだ」

 ボクは正直にそう答える。


「でも、手の痛みがないよ、こんなの久しぶり。ありがとう」


 言いながら女の子は泣いていた。


「それは良かった。でも、本当に治ったかどうかはわかないからね。急に症状がぶり返すかもしれないからね」


 ボクは女の子をがっかりさせたくなくて、何度も症状がぶり返すかもしれないことを伝える。


「そっか。それなら、今のうちにできることをしないと」

 女の子は泣きながら、でも確かに力強く言う。


「できることって何?」

「そうだなあ、パパの好きな料理を手作りするの……は、いつ帰ってくるかわからないから腐っちゃうかもしれないし……そうだ、手紙を書こう!! 男で一つで育ててくれてありがとうって」


 いい子だね、この子は。

 ボク、泣きそうだよ。


「あ、でも最初にしないといけないことを忘れていた」

「最初にしないといけないことって何?」


「治してもらったのに、あたい、お兄ちゃんにお金を払っていない」

「いらないよ、お金なんて」


 いつまたぶりかえすかもわからないんだし。


「治してくれたのに、お金も取らないなんて、お兄ちゃんは金持ちな神官様なの?」


「ボクは金持ちでもないし、神官様でもないよ。でも、お金はいらない。ただ、無料で治療したことは、他の人には秘密だよ」


「うん、分かった。絶対に他の人には言わない……でも、秘密にするのは無理だと思う」


 ん?

 どういうこと?


「だって、ほら」


 言いながら、女の子は指をさす。


 そこには、待合室で診断を待っている人がたくさんいた。


 あれ?

 もしかしてボク、やっちゃった?


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、女の子を秘密で治す。

 サイレント、秘密がすぐにばれる。

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