表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/372

45話 火鳥、サイレントをあおる

これまでのあらすじ

 火鳥、ボルケーノを唱えると脅して、逃げたサイレントを自分のところに来させる。

 火鳥の自作自演を知ったサイレント、火鳥を倒そうとするが近づけない。

 


 いや、今は地団駄を踏んでいる場合じゃない。


 一瞬でいい、一瞬でいいから近づけないのか?


 その一瞬で火鳥の首をはねてやる。


 息を思いっきり吹きかければ、もしかしたら、熱気がボクの反対側に行くのではないか?


 いや、ボクの息じゃ、きっと風量が足りない。


 くそっ、何か良い方法はないのか?


 何か手立てを考えていると、ぽつりと空から一滴の雫が落ちてきた。

 空を見上げると、分厚い雲。


 雨だ。

 そう思った瞬間、雨はだんだんと勢いを増し、本降りになる。


 そうだ、濡れている体なら、少しは熱さに対抗できるかもしれない。


 なんてラッキーなんだ、ボクは。

 天候をも味方にできるなんて。


 ずぶ濡れ状態なら、火鳥に近づけるかもしれない。


「いくぞ!!」

 ボクは濡れた体で火鳥に近づいた。


 ボクの濡れた体は火鳥に近づくつれ、乾いていく。

 もうちょっとだけ乾かないでくれ!!


 願いむなしく、あともうちょっとというところで、体が熱くなり近づけない。

 くそっ、あともう少しなのに……


『おやおや、ここまで近づいたのに、わたくしをそのダガーで倒さないのですか?』


 倒したくても倒せないんだよ!!

 分かっていて言っているだろ。


「今、考えているんだよ。お前に近づく方法をな」


『それなら、考えている間にも、わたくしの昔話を聞いてください。その間はボルケーノを唱えませんので』


 昔話だって?

 くそっ、近づけもしないボクなんか、余裕だってか?


『約80年前の話でございます。わたくしが村を半壊滅させたにも関わらず、わたくしの励ましの言葉を聞いて、涙ながらに絶対に復興させますという男の子がいましてね。実に滑稽でした』


 この火鳥は最低だ。

 自分で村を壊滅状態にしておいて、子どもにがんばれと勇気づけるなんて。


『でも、今、燃え盛るわたくしに近づこうと、策をめぐらせているのに、まったく思い浮かばないあなたと同じくらい滑稽な話です』


 ボクの怒りに油を注いでくる火鳥。


「くそっ!!」

 その通りだよ。

 何もできない自分が憎い!!


『さて、そろそろ昔話も飽きてきましたね。それなら、ボルケーノを唱え始めましょうか。さあ、最後のチャンスです。これで止めることができなければ、あなたのせいで、あなたとニック村の半数は死に絶えるでしょう』


「そんなこと絶対にさせない!! させるもんか!!」


『絶対にさせないと言い切っていますが、どうやってわたくしを倒すんですか? 近づける算段もできていないでしょうに』

「こうやってだよ!! 瞬動!!」


 ボクは覚悟を決めてから、脚に力を入れ、火鳥に突進する。

 ボクが突進した瞬間、雷鳴が鳴り、地面に雷が落ちた。


 捨て身攻撃だ。

 もう、刺し違えてでも、首をかっ切ってお前を倒す!!


『やけを起こして、燃え盛るわたくしに向かって体当たりですか? お望み通り、こんがりウェルダンに焼いて差し上げましょう』

「もう、お前は黙っていろ!!」


 いつの間にか、ボクは火鳥の首をかっ切っていた。


『え? このわたくしが切られた?』

 首がつながっていないというのに、まだボクの頭の中に話しかけてくる火鳥。


「そうだよ」

 ボクは背中越しに火鳥の質問にこたえる。


『いやいや、それならおかしいでしょ? どうしてあなたは焼かれていないんですか? たいした魔力もないのに』


 怒りに身を任せて捨て身の体当たり攻撃をしてしまったけど、確かにボクの体はなんともなかった。


「それは……そんなの、ボクが知るか!!」



 ――サイレントが火鳥を倒す少し前、ニック村の宿屋にて――


 俺はなんでこんな見知らぬベッドで寝ているんだ?


 ……そうだ、倒れっちまったんだ。


 記憶はあいまいだが、サイレントがボルケノ火山の山頂に行くとか言っていた気がする。


「ダメだ……サイレント!! お前がボルケノ火山を登るのは……」

 俺は力を振り絞って、つぶやいた。


「サンザールさん、意識が戻ったんデスか?」

 サンザールと名前を呼ばれた俺は、まぶたに力を入れ、なんとか目を開けた。


「アリア……ちゃん?」

 そこには、心配そうにこちらの顔を覗き込むアリアちゃんがいた。

 そういえば、倒れた俺をアリアちゃんが看病してくれていたんだったけか。


「そうデス。意識があるなら一安心デス」

「いや……俺はもうすぐ死ぬ」


 自分の体のことは自分がよく分かっている。

 きっと、これが今際の言葉というやつだ。


「そんな弱気なことを言ってはダメデス。今、師匠が闘気草をもってきてくれるので、それまでは頑張るデス」


「いや、俺はもうだめだ。だから、サイレントを連れ戻してくれ。アリアちゃんは……知らないだろうが……ボルケノ火山には、Sランクの火ネズミが……いるんだ。サイレントじゃ……太刀打ちできずに焼かれて死んで……しまう」


 気が付けば、もうしゃべることさえままならなくなくなったようだ。

 息も絶え絶えに俺はアリアちゃんに言葉を伝えた。


「師匠が焼かれる? そんなことないデス。師匠の魔力は底が見えないデスから」


 サイレントの魔力は底が見えない?


 何を言っているんだ、アリアちゃん。

 あいつの魔力なんか、Fランクそのものじゃないか。


「俺は……門番をしていたんだ、魔力が強い奴なら見ただけで……分かる。あいつの魔力は少ない」

「師匠の魔力は少ないように見えているだけデス」


「どういう……ことだ?」


「師匠は常にマジック・バックを使っている上に、その中にはとんでもない量の物を詰め込んで常に大量の魔力を消費しているので、基本的にはFランク冒険者程度の魔力にしか見えないのデス」


「つまり……サイレントの魔力は普段は少ないように見えているが、本当は……とんでもない魔力を内に秘めていると?」


「そういうことデス。アリアの見立てだと、もしもマジック・バックの中身を空っぽにして、時間とともに魔力が回復すれば、Sランク相手でも余裕なほどの魔力量のはずデス。火ネズミの炎だろうが、アリアのボルケーノだろうが、魔法で作られた炎であるならば、ちょっとした熱風と変わらないはずデス」


 なんてこった。

 Sランクと言ったら、勇者パーティーのアイズとブリジットよりも格上ってことになるじゃないか。


 あいつ、そんなに強いのか……って、あのバカなサイレントが強いわけないだろう。


「ちょっと待ってくれ、アリアちゃん。そもそもなんだが……サイレントがマジック・バックを常に使っているだって? あいつ、マジック・バックが使えるのか? そんな話聞いたことないけど」


 そうだよ、サイレントがポーターの専用スキル、マジック・バックを使えるはずがない。

 間違いなく、アリアちゃんの話は、俺を安心させるためのウソだ。


「あ、しまったデス。師匠がマジック・バックを使えることは言ったらいけないんでした。サンザールさん、今のことは忘れて、しっかり眠って養生してくださいデス」


 ゴンッ。


 アリアちゃんに大鎌で頭部を強くたたかれて、俺は意識を失った。

 意識を失う寸前、遠くで雷鳴がとどろく音が聞こえた気がした。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、火鳥を倒す。

 アリア、サンザールにサイレントは強いと話す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ