44話 サイレント、火鳥に立ち向かう
これまでのあらすじ
フェス様の攻撃でピンチに陥ったサイレント、マジック・バックの中身をすべて投げる。
サイレント、なんとか逃げ切る。
あれ?
絶対に逃がさないと豪語したのに、追いかけてこない。
ボクは警戒しながらも後ろを振り返った。
うん、全然追ってくる気配はない。
もしかして、口では逃がさないといいながらも、ボクのスピードについてこられないので諦めたのか?
『もういいです。人間よ、どこへでも逃げなさい』
遠くからボクの頭の中に直接話しかけてくる火鳥。
よかった、ようやく諦めてくれたみたいだ。
ボクは胸をなでおろ……
『ボルケーノを唱えて差し上げます』
ボクは胸をなでおろせなかった。
ボルケーノって、アリアが唯一使える魔法のボルケーノだよね?
ここらへん一帯がマグマに覆われるっていう。
そんなことになったら、薬草採取どころじゃない。
『今すぐにボルケーノを唱えられたくなかったら、すぐさまわたくしのところまで来るのです』
ボクは考えるよりも先に脚に力をいれ、火鳥の元へとジャンプしていた。
『おや、逃げないのですか? 逃げてもいいのですよ、人間』
火鳥はボクの顔を見るなり、にやりと嗤った。
「逃げられない理由ができてね」
『ほう、逃げられない理由とは?』
「もしも、君がボルケーノを唱えたら、闘気草が採取できなくなるでしょ?」
『まだ言いますか、人間!! 本当はボルケーノをわたくしが詠唱すれば、自分も巻き込まれると悟ったから、わたくしに命乞いしに来たんでしょう? 正直にそういえばいいでしょうに』
「それは違うよ、ボクはニック村で倒れた昔からの知人を助けたいだけなんだよ」
そこにウソはない。
『それはかなわない願いですね』
「なんでさ?」
『なぜなら、今からボルケーノを唱えるからです』
「約束が違うよね? ここに来れば唱えないって言っていたじゃないか」
『わたくしは“今すぐにボルケーノを唱えられたくなければ”といったのです。もうすでに、時間が経っているじゃないですか?』
「そんなの屁理屈だ!!」
『屁理屈でもなんでも、わたくしは今からボルケーノを唱えるのです。今、ボルケーノを唱えれば、元気な人間の半数が避難もできずに、ニック村は壊滅的状況になるでしょう。倒れている人間ならば絶対に助からないでしょうね』
「君がボルケーノを唱えなければいいだけだろ?」
『いいえ、唱えます』
「なんでさ? ボクが生意気を言ったんなら謝るから、ボルケーノを唱えないでよ、お願いします」
ボクは頭を下げた。
『その願いは聞き届けられません』
「こんなに頭を下げて頼んでいるのに?」
『ええ、頭を下げようが何をされようが、わたくしはボルケーノを唱えます。以前、火山が噴火してから、そろそろ80年。そろそろボルケーノを唱える頃合いだとは思っていたのです』
「ボルケーノを唱える頃合いだと思っていた? 何を言っているの?」
『人間よ、火山が80年ごとに都合よく噴火すると思っているのですか?』
「違うの?」
火山の噴火には周期的なものがあるんじゃないの?
『違いますね。火山の周期的な噴火が80年に1度なのではなく、わたくしが80年に一度、ボルケーノを唱えて、あえて火山を噴火させていたのです』
「なんだって!? なんでそんなことをしていたのさ?」
『崇拝されるためです』
「崇拝されるため? どういうこと?」
『わたくしは80年に1度、自らボルケーノを唱えて、村をマグマで半壊滅状態にさせた後、生き残った者の前に現れて、励ましの言葉で元気づけて、そして、ニック村で崇拝される存在に昇華したのです』
「え? ええっ? それって、つまり自作自演で崇拝されるようになったってこと!?」
『いいえ、マッチポンプです』
自作自演もマッチポンプもどっちも似たような意味じゃないか。
「ふざけるな!! そんなことが許されるわけないだろ!!」
『いいえ、許されるのです。なぜなら、今まで誰一人としてわたくしがボルケーノを唱えていると知った人間や気づいた人間はいないのですから!!』
おいおい、バカなのかな、この鳥は?
ボクが今、しっかりと聞いているのに。
「こんな悪事なんか、ニック村のみんなに話して火鳥崇拝なんか辞めさせてやる!!」
……って、あれ?
ニック村のみんなって、フェス様は崇拝していたけど、火鳥なんか崇拝していたっけ?
きっと、ボクのあずかり知らないところで、何人かは崇拝しているんだろう。
その人達に教えてあげよう。
火鳥を崇拝しちゃダメだよって。
ボクはニック村まで走ろうとした。
『それなら、お前は逃げずにわたくしを止めなければなりませんね』
「え?」
『お前がわたくしを止めなければ、今からすぐにボルケーノを唱えますから』
そっか、火鳥がボルケーノを唱えたら、ニック村は半壊滅だもんね。
村にまで行く時間的猶予なんか最初からないんだった。
……って、ボク、逃げだすことができない状況に陥ってないか?
いや、これは逃げだすことができない状況に追い込まれたんだ。
火鳥の手のひらの上で踊らされていたんだ。
「人間なめるなよ!!」
ボクはダガーを持つ手をぐっと握りしめ、火鳥に近づいた。
近づきはするのだが、やはり熱い。
だが、前よりは近づけている気がした。
もしかして、さっき、百羽繚乱の技のせいで、羽が抜け落ちたから、熱さが少しだけ和らいだのかもしれない。
しかしながら、ダガーを刺すには、ボクの身長分くらい遠い。
『ははは、お前ごとき魔力量も少ない人間はわたくしに近づけるはずがないだろう。熱さで焼かれろ!!』
「くそっ!! くそっ!!」
ボクは地団駄を踏んだ。
忙しい人のためのまとめ話
火鳥、ボルケーノを唱えると脅して、逃げたサイレントを自分のところに来させる。
火鳥の自作自演を知ったサイレント、火鳥を倒そうとするが近づけない。