42話 フェス様、高みの見物を決め込む
2023/11/12 サブタイトルの話数が間違っていたので訂正しました。
2023/11/12 誤字脱字を訂正しました。(本文の話の内容は変わっていません)
これまでのあらすじ
サイレント、火鳥にどちらが高くとべるか提案する。
サイレント、火鳥に作戦を読まれた上に、無理難題を吹っ掛けられる。
――ボルケノ火山頂上――
ふはは、バカな人間だ。
わたくしが冷え性だと思いこみ、上空の寒さに耐えられないと本気で思って、策略をめぐらすとは。
しかもわたくしが人間の考えた浅はかな策略を見抜けていないと思っているところが、また滑稽だ。
お前の策略など、こっちはすぐに見抜いたわ!
見抜いたうえで罠までこちらから仕掛けたわ!!
わたくしが降参するまで、足場になるものは出すな……ってね。
わたくしの予想通り、バカな人間はわたくしの罠にかかってくれたわ。
さて、人生最後の選択だ、人間。
落下し続けて死ぬ道を選ぶか、死への恐怖のあまり足場を出してしまい、約束を反故にして、わたくしに捕まりマグマに落とされる道を選ぶか、高みの見学といこうか。
マグマに落とすのも一興だけど、わたくしとしては、無様に落下してそのまま死んでくれれば、わざわざ殺す手間が省けるからありがたい。
わたくしは地上に降り立ち、落下する人間を見上げる。
涙の一粒でも流すのかと思っていたが、そんなことはなく、その表情は何かを覚悟し、決意に満ちた顔であった。
覚悟したということは、落ち続けて死ぬのを選択したか。
それなら、天国までのカウントダウンでもしてやろう。
5秒前。
4
3
2……
おっと、ここでマジック・バックか。
さきほどまで覚悟をしていたが、急に死ぬのが怖くなった……といったところか?
見たぞ、マジック・バックから、何かを取り出したところを。
何を出したかはわからないが、足場のたぐいであろう。
足場を出したのであれば、約束をはたしてもらうからな。
わたくしは羽を広げると、すぐさま人間のところに飛ぶ。
人間は横たわっていた。
『さて、約束通り、おとなしく捕まってもらいますよ。大丈夫、Sランクのわたくしに殺されるのはとても名誉なことですよ』
わたくしが頭の中に直接話しかけてから、人間を捕まえようとすると、人間は立ち上がり、わたくしのかぎづめをひょいと避けた。
『往生際が悪いですね。おとなしく捕まりなさい。足場を使ったら、わたくしにすぐ捕まると約束したではないですか。わたくしとの約束を反故にする気ですか?』
「いいや、君との約束を反故にする気はないよ」
『それならわたくしにおとなしく捕まりなさい!!』
「いや、おとなしく捕まる気もない」
何を言い出すんだ、この人間は。
『ついに本性をあらわしましたね、人間。自分がした約束にきちんと責任をとりなさい!! このウソつき人間め!! ウソをつくのはとても卑しい行為なのですよ』
「ボクはウソをついていない」
『何を言っているんですか? 最後の最後、地面に衝突する瞬間、死に恐怖して何かを出していたでしょうが!!』
そう、わたくしはマジック・バックから何かをとりだしたところを。
「ボクが取り出したのは足場じゃないよ」
『足場以外にありえません。そうでなきゃ、あなたが生きているわけがない』
「いいや、ボクが出したのは足場じゃない、でもボクはこの通り生きている」
『それなら、何を出したというのですか?』
「火ネズミの死骸だ!!」
『やはり、足場じゃないですか。落下スピードを軽減させるために、その火ネズミを足場にしてジャンプしたんでしょう?』
「いいや、違う。ボクは火ネズミをクッションにしたんだ」
「クッション?」
「そう、クッション。この火ネズミはとても柔らかいんだ。当然、言いがかりをつけられたくないから、火ネズミに足をつかなかったよ。足をつけていないんだから、足場じゃなくてクッションだよね?」
『そんな子どもじみた屁理屈が通じるわけないでしょ!!』
「ボクは通じると思う。なぜなら、高さ比べの途中、君は途中でリタイアしただけで、負けではないと言い張っていたよね? 本当はさ、君が途中でリタイアした時点でボクの勝ちだったはずだよ。これも屁理屈なんじゃないの?」
ぐぬぬ……
そう言われると言い返せない。
「そもそも、君はボクが着地のことまで考えていないと思ったから、途中でリタイアしたんだよね?」
『その通りですね』
「残念だけど、ボクは最初からこの火ネズミをクッション代わりにしようと思っていたんだよ」
『何ですって?』
「ボクはつい最近、着地のことを考えずにジャンプしてしまって、とても後悔をしたことがあるんだ。だから、次からは同じ失敗を繰り返さないと思っていたところだったんだ」
まさか、最初から着地のことまで考えていたとは……
「もしも最初から高さ勝負にこだわっていたら、君の勝ちだったんだろうけど、君が途中で勝負を降りた時点で、君の負けだったんだ」
『負けた……このわたくしが?』
「そうだよ、君の負け。……だから、約束通りおとなしくマグマの中へ帰ってちょうだい」
バカだと思っていた人間に、このわたくしが負けた?
もしも、約束通りわたくしがおめおめとマグマの中に帰れば、この人間は村でわたくしを倒したと吹聴するだろう。
吹聴したらどうなる?
わたくしの積み上げた威厳が一気になくなってしまう。
おそらく、フェス様と称えもしなくなるだろう。
バカな人間に負けたのだから。
そんなこと屈辱、絶対に許されない。
『わたくしは負けてなどいません! ですので、約束を守る必要もないのです!!』
キェー!!
わたくしは人間の心の中で叫ぶと同時に、大きな声で鳴いた。
「え? 負けたよね? 約束はきちんと守ってよ。約束を守らないってことは、ウソをついてるってことだよ? ウソは卑しい行為じゃなかったの?」
わたくしが投げた言葉のブーメランがわたくしに刺さってきた。
『わたくしはお前と約束などしていません!!』
「さっきまで、約束を守れって言っていたのはそっちだよね?」
『そう、最初から貴方さえいなければ、約束はあったことにならないのです』
「え?」
『約束をなかったことにするために、死んでください』
わたくしは自分のまとっている火力を最大限にまであげる。
そうだ。
この人間を殺しさえすれば、約束はなかったことになる。
こんな人間燃やして灰にしてくれるわ!!
忙しい人のためのまとめ話
フェス様、サイレントに完全敗北する。
フェス様、完全敗北をなかったことにするために、サイレントに襲い掛かる。