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第16話 サイレント、院長先生と再会する

前回のあらすじ

サイレント、ファイヤー・ウルフの毛皮をフラットさんに査定してもらう。

査定結果の振込はラカンの口座にして欲しいとお願いする。

 やっと家に着いた。

 体はもうくたくただ。

 もう寝てしまおう。


 お腹もぺこぺこだけど、体を休める方が優先だよね。

 1食くらいなら抜いても問題ないよね。

 そう判断したボクは固いベッドに転がった。

 身体を洗ってないから、獣臭がひどいけど、まあいいや。


 寝よう。

 おやすみなさい。

 …………

 ……


 喉が渇いた。

 ボクはベッドの脇にある机の上にいつも置いている竹製の水筒を手に取り水分補給する。

 ごくごくごく。


 ふー、生き返った……と思った矢先、

 ぐぅ……

 お腹の虫が食料を無心した。


 これは他にも何か口に入れなくてはいけないぞ。

 ボクはしぶしぶベッドから起き上がって、冒険リュックをまさぐる。

 食べられそうなものはない。

 まずは主食である海水を調達しなくては。

 ボクはそのままの格好で外に出る。


「サイレントのくせに、一丁前に冒険者の格好をしているぞ」「どうせ自分は勇者パーティーの一員だと自慢したいんだろう」「たまたま、勇者と高位魔法使いと高位ヒーラーと同じ孤児院だっただけのくせに」「ボコろうぜ!!」


 しまった。

 ラカンもアイズもブリジットもいないのに、気配も消さずに冒険者の格好で町にでてしまった。

 調子こいてると思われた。


 すぐさま、Uターンして、家の中に入り、ボクはくたびれたぼろいTシャツとぼろいハーフパンツに着替えた。

 もちろん、財布兼ベルト代わりのずた袋を腰に巻くのも忘れずに。

 あとは髪の毛をぼさぼさにして……と。

 ボクは鏡の前で確認する。

 うん、これならどこからどうみても、金持ちには見えないよね。


 まずは、気配を消して……と。

 玄関のドアを静かに開けて外を覗き見る。

 先ほどの若者たちはどこかに行ってしまった代わりに、ご婦人たちが『こんにちは』とあいさつをし合っていた。


 ん? こんにちは?

 もしかして、もうお昼過ぎてる?

 昨日、ファイヤー・ウルフに追いかけられて、疲れ果てていたのかな?


 いやいや、昨日はFランククラスの魔物討伐だよ?

 Aクラスの魔物ならまだしも、Fランクの魔物で寝過ごすなんて、冒険者としての自信をなくしちゃうな。

 いやいや、自信を無くしている場合じゃない。


 海水を調達しないと。

 ボクはどんよりとした気分で町へと歩き出した。



「サイレント!!」

 中央区の真ん中で、後ろから声をかけられ振り返る。

 そこには、顔は紙袋で、体は小柄でやせ細った修道女姿があった。

 ふわっとローズの香りがする。


「紙袋お化け!」


「誰が、紙袋お化けなのよ! 悪いのはこの口なの!!」

 紙袋お化けは、明るい口調でボクの口をつねった。


「痛いっ!」

「サイレントが私のことを年増の紙袋お化けなんていうからいけないのよ!!」

「年増は言ってないですよ、院長先生」

 あいかわらず、妄想が激しい上に、直情的だ。


「その呼び方、懐かしいのよ。いまだに私の名前を覚えられなかったのはサイレントだけなのよ」

 紙袋からショートカットの女性がひょこっと顔を出す。


「院長先生の本名が長いのがいけないんですよ。短ければすぐに覚えられるんですから」

「また言い訳してるのよ、この子は」

「言い訳じゃないですって。ボクだって日々成長してるんですよ」


「成長? それなら、文字の読み書きはできるようになったってことなのよ?」

「それは……まだできないです……」

「今日び、子どもでも読み書きできるのよ。あ、そうだ、今から孤児院で勉強すると良いのよ。なんなら、仕込んであげるのよ」

 この年になって、子ども達と読み書きの練習?

 そんなことしたら、子ども達全員にバカにされるじゃないか。


「いやー、今日は晴れていてすがすがしい天気ですね。おはようございます」

「そうなのよ、すがすがしい朝なのよ……って、もうお昼は過ぎているのよ、サイレント」

「あはは、冗談ですよ、冗談」

「冗談? 本気で言った口調なのよ。どうせ、夜ふかしでもして、ついさっき起きたってところなのよ」


「夜ふかしはしていないですよ。疲れていただけです」

「あー、つまり、昨夜は愛しの『ラカンたん』と『アイズたん』と『ブリジットたん』をストーカーしていたということなのよ?」

「違いますよ」

 男女かまわず、結婚相手にしようとする院長先生と一緒にしないで欲しい。


「ムキになって起こるところをみると、怪しいのよ」

「違いますよ、絶対に違いますからね」



「まあ、そういうことにしておいてあげるのよ。ところで、サイレントはお買い物なのよ?」

「ええ、そうなんです。院長先生もですか?」

「そんなわけないのよ。ろうそくを調達してきたのよ」

「ろうそく? 孤児院で使うんですか?」


「ろうそくは高価なのよ。孤児院では使わないのよ」

「それなら何に使うんですか?」

「パレードで使うのよ」

「パレードですか?」

「そう、明日の100周年を記念して、お祭であるのよ、パレード」


「面白そうですね。ボクも参加したいな」

「サイレントは参加しない方が良いと思うのよ」

「どうしてですか?」

「ロウソクを灯すときの作法があるのだけれど、知ってるのよ?」

「知りませんけど、適当にみんなと合わせますよ」


「適当じゃダメなのよ」

「どうしてですか?」

「伝統的な100周年記念で、後世にも引き継がなければいけない大切なお祭りで、絶対に失敗できないから、何回も練習させられている上に、もしも失敗をしたものなら、禁固刑に罰金があるのよ」


「あ、ボクは出ない方がいいですね」

 ボクが出たら、盛大に大失敗して、禁固刑を食らった上に罰金をとられる未来しか見えない。

「絶対にその方がいいのよ。今年のお祭りは観光客に紛れて、何食わぬ顔で参加した方が絶対得なのよ」



「お祭りって言えば、院長先生は今年も大食い大会出るんですか?」

「出るのよ……って言いたいところなんだけど、今年から大食い大会はなくなってしまったのよ」


「なくなったんですか、大食い大会。それは残念ですね」

「そうなのよ。毎回出るたびにチャンピオンになってしまって、全然面白くないから、なくなったのよ。うう、毎年楽しみにしていたのに……私の生きがいが奪われてしまったのよ」

 大食い大会を終わらせてしまった院長先生、半端ない。

 院長先生、ボクより身長ないのに、ボクよりもラカンよりも食べるからな……


忙しい人のまとめ話

サイレント、町に出たら調子乗ってると悪口を言われる。

サイレント、孤児院でお世話になった院長先生とばったり会う。

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