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38話 フェス様にあった青年

これまでのあらすじ

 サイレント、火ネズミを自爆技で倒そうとするが失敗する。

 サイレント、火ネズミを倒す。

 


 ――ボルケノ火山頂上付近――


 寒い。

 全身を何十年もマグマの中に浸かっているのにも関わらずだ。


 不老の体になったのはいいものの、年を重ねるにつれて、寒がりになっている気がする。

 まったく、年は取りたくないものだ。


 そんなことを思っていると、火口の方で誰かの気配がした。

 動物? それとも魔物?

 いや、この気配はおそらく人間だ。


 わたくしは誰にも気づかれないようにマグマの中から片目だけを出して、火口を見る。

 やはり人間だ。


 人間がわたくしのテリトリーに入ってくるなんて、何十年ぶりだろうか。

 マグマの中を覗き込んでいるところをみると、マグマの中にフェス様がいるのだと思っているのだろう。


 正解だ、人間よ。

 わたくしはマグマの中に存在しているぞ。


 正解を祝して、わたくしの姿を見せてやろうか?

 いや、姿を見せるといろいろと面倒だ。

 それに、マグマの外は寒い。


 ここはマグマの中に居ながら、言葉だけで人間を追い返すとしよう。


『人間よ、人間よ』

 わたくしはマグマの中から、あえて良識をもって人間の頭の中に直接話しかける。

 こちらの方が、労力を使わなくて済むし、何より聖獣らしい。


「誰? ボクの頭の中に直接話しかけてくるのは!!」


『わたくしは人間たちからフェス様と呼ばれる存在です』

 本当は名乗らずに、幽霊のせいにしてもいいが、そのせいで肝試しスポットにされても、面倒だ。

 ここは穏便にことを運ぶためにも、ここはこちらから名乗ってやろう。


「本当にフェス様?」

 わたくしの言葉を疑うとは失礼な人間だ。


『疑うのですか? それなら、あなたは直接頭の中に話しかけてくる別の生き物を知っているのですか?』

「頭の中に直接話しかけてくる生き物フェス様以外には知らないです」


『それならば、それこそが証明になるのではないですか?』

「確かにそうだ。伝説なんかじゃなくて、本当にフェス様は存在したのか!!」

 人間は大きな声で驚いた。


『もちろんです、存在していたのです』

「なんて幸運な日なんだ。まさか、フェス様と心の中で話せるなんて」

 人間は歓喜の声をあげる。


『わたくしと会話できたことに満足したなら、すぐさまここから立ち去りなさい』

「声だけじゃなく、一目で良いからお姿を拝見したいのですが……」


 不遜な人間だ。

 会話だけでは飽き足らず、姿を見せろだと?

 こういう人間にはたいてい裏があるものだ。


『わたくしはだまされないですよ』

「だます? ボクが何をだましたんですか?」


『多くの人間はわたくしの姿が見たいと言ってきました。そして、要望通りにわたくしが姿を現すと、すぐに手のひらを返して命を狙ってきました。なぜなら、わたくしの生き血は不老不死の材料になると伝えられているからです。あなたもわたくしの命を狙っているのでしょう?』


「ボクがフェス様の命を狙う? そんな恐れ多いことしないですよ」

『今まで何人もの人々同じことを言ってきました。あなたもわたくしを襲うつもりなのですね?』

「そんなことしないです、信じてください」


『それなら問います。あなたはどうして、このボルケノ火山の頂上まで登って来たのですか?』

「ボクは病気の人のために、ここに生えている闘気草を探しにきただけなんです」

『それなら、闘気草を探してすぐに帰りなさい』


「そんな冷たいことを言わないでください。せっかくフェス様に会えたのです。一目でいいからお姿を現していただけませんか? ほんの一瞬でもかまいませんので」

『わたくしは常に炎に包まれている存在。その姿を見た瞬間、全身にやけどを負うかもしれないのですよ?』


「フェスを一目見るためなら、全身のやけどなど、怖くはありません」

『分かりました。一度だけですよ』

「ありがとうございます」


 わたくしはマグマの中から、全身を出して姿を見せて、男の目の前で大きな翼を広げて少しだけ飛んでみせた。

 火ネズミのように自分で自分を燃やしてはいるものの、やはり寒い。


「おお。フェス様と呼ばれるにふさわしい荘厳なるお姿!! 幸せを呼ぶとされる青い炎に包まれているお姿、まさしく火の鳥だ!! そのお姿、確かにこの目に焼き付けました。ありがたや、ありがたや」

『これで満足したなら、ここから立ち去り、闘気草を探しなさい』

「はい、そうします」


 わたくしが飛ぶのをやめて、マグマの中に身を沈めようとした瞬間である。

 頭に何かが飛んできた。


 これは……ダガー?


「ふはは、油断したな。そうだよ、ボクは永遠の命を得るために、お前の生き血をもらいに来たんだ」

『やはり、最初からわたくしの命を狙っていたのですね』


 わたくしは自身の体をさらに燃えさせて、熱風を巻き起こし、飛んできたダガーを吹き飛ばす。

 ダガーはマグマの中へと消えていった。


「ボクのダガーが!!」

『ふん、お前も今からダガーと同じ運命をたどるのだ』

 そう言いながら、わたくしは人間のところまで高速飛行する。


「え? それはどういう意味だ?」


 ダガーと同じ運命をたどるといったのだから、訊くまでもないだろうに。

 わたくしはかぎづめで驚く人間わしづかみにすると、火山の火口へと落とした。


「うわぁーっ!!」

 男は真っ逆さまに落ちていく。


『愚かなり!!』

 これで男の命はないだろう。

 さて、外は寒いので、マグマの中に戻るとしよう。


忙しい人のためのまとめ話

 フェス様、人間と会話する。

 フェス様、人間が命を狙っているとわかり、返り討ちにする。


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