36話 サイレント、火ネズミを驚かせようとする
これまでのあらすじ
サイレント、火ネズミがびっくりしたから、炎が一瞬消えたと推測する。
サイレント、同じ攻撃をするが、二度目なので火ネズミはそれほど驚かず、攻撃失敗。
ボクの表情に気づいたのか、火ネズミは半身になって、警戒をし始めた。
ふっ、火ネズミ、勘のいい魔物であることは認めよう。
でも、それだけじゃ、勝てないんだよ。
今からお前にはすごく驚いてもらうんだからな。
「やいやい、火ネズミ。ボクはすごいんだ!! 何がすごいかっていうと……えっと、まあ、あれだ、天高く跳び、地面が割れるくらいの攻撃……うん、そんな感じで、とにかくすごいんだ。お前はそんなすごいボクを怒らせた。覚悟するがいい!!」
ふっ、決まった。
ちょっと言葉につまったところもあったけど、そこさえ除けば、完璧だ。
ボクの言葉で火ネズミは驚いて、言葉もでなくなるだろう。
そうすれば、火ネズミの炎の魔法も一瞬だけ解呪されるはず。
その隙をついて、ボクは火ネズミを倒すってわけさ。
なんて完璧な作戦だろう。
さすが、ボク。
さあ、はやく驚くんだ、火ネズミ!!
………
…………あれ?
火ネズミの炎が全然消えない。
それどころか、さっきよりも炎が燃え盛っているような気がする……
何で全然驚いてないの?
ボクのセリフはほぼ完璧だったのに。
これじゃあ、まるで、ボクが挑発して火ネズミを怒らせただけみたいじゃないか。
「え、いや、本当なんだよ、火ネズミ。ボクはすごくて、強いんだよ」
必死に訴えるボク。
そして、まとった炎をさらに強くする火ネズミ。
もしかして、逆効果?
何で?
あ、そっか。
魔物を脅しで驚かせること自体がどだい無理な話なんだ。
そもそも、火ネズミは魔物なんだから、ボクの言葉を理解しているかどうかも怪しいじゃないか。
何をやっているんだ、ボクは。
万国共通で、言葉の壁を取っ払った驚きを与えないといけなかったんだ。
それなら……マジック・バック!!
あ、あった。
ボクはマジック・バックの中から手のひらサイズのびっくり箱を取り出す。
「火ネズミ、ほら、この箱を見て!!」
火ネズミはボクのいう通り、箱を見る。
今だ。
ボクはびっくり箱を開けた。
中からピエロの顔をした人形が飛び出す。
ほら、これで、びっくりしたでしょ、火ネズミ。
さて、倒しますか……
ボクはダガーで突進しようとすると、火ネズミのまとった炎がとんでもなく大きくなっていた。
あれ?
おかしいな……
万国共通の驚かせ方なのに……
アイズなんて、そのびっくり箱で、超驚いていたんだからね。
それなのに、火ネズミ、君はなんでびっくりしないどころか、そんなに怒っているの?
『チュー』
ボクの心の声などお構いなしに、ボルテージが上がった火ネズミは鳴きながらボクに突進してきた。
うわーっ、待って、待って。
追いかけてこないで!!
お前が突進してくると、薬草も燃えてしまうじゃないか。
逃げている最中に、おっちゃんの顔が浮かぶ。
おっちゃんを助けられないのかと思うと、自然と走る足が重く感じてしまった。
速度が遅くなってしまったボクをここぞとばかりに火ネズミは追いかけてくる。
背中はすでに熱かった。
このままだとボクはおっちゃんを助けられずに、燃えて死んでしまうだろう。
そう思ったときに、今までのいろいろな記憶がよみがえる。
笑うアリア、起こるアリア、悲しむアリア、そして驚くアリア。
……って、アリアの記憶ばかりじゃないか。
もっとあっただろ、よみがえるべき記憶が!!
ん?
ちょっと待って。
驚くアリア?
何でアリアは驚いたんだっけ?
ボクは走りながらも、アリアが驚いた場面を思い出す。
そうだ、ダークドラゴンと戦った時だ。
アリアを驚かせたあの技なら、火ネズミを驚かせることができるかもしれないぞ。
なぜなら、それを見たダークドラゴンも驚いていたはずだから。
よし、成功するかどうかは分からないけど、あの技をやってみよう。
覚悟を決めたボクは、逃げるのをやめて、眉間に力を入れて火ネズミをにらみつけた。
今までと明らかに何かが違うと感じ取ったのだろう、火ネズミは脚を止める。
ふっ、アリアも驚いたこの技をとくと見るといい。
ボクは脚に力を込めて、思いっきりジャンプをした。
ふ、このジャンプ力のすごさにアリアはとても驚いていたんだ。
お前も驚くだろう? 火ネズミ。
……って、あれ?
このままだと、火ネズミが驚いたとしても一瞬で、ボク、火ネズミに攻撃できなくないか?
なんてバカなんだ、ボクは。
しかも山の頂上付近だということを忘れて、思い切ってジャンプをしすぎた。
雲が下に見えるんだけど。
……っていうか、寒いし、しかも空気がほとんどないんだけど。
初めて知ったよ。
雲の上はこんなにも寒くて息がしづらいところだったなんて……って、思っている場合じゃない。
苦しい。
息が、息がぁ。
息苦しさに耐えられなくなったボクは、顔を地面の方に向け、少しでもはやく空気を吸おうとした。
……って、これ、頭から真っ逆さまに落ちているじゃないか!!
このままだと、死んじゃう。
着地するために足を下にして頭を上にしたいのだが、すごいスピードで落ちているので、それはできそうにない。
こうなったら、ダガーで頭を守るしかないな。
ボクは頭の前にダガーを構える。
よし、これで、致命傷はさけられるはずだ。
安心した矢先、ボクの落下地点に火ネズミがいた。
ラッキー。
もしかして、ボクの帰りを待っていてくれたの?
さすがにこんなにジャンプしたんだから、驚きすぎて、炎なんかまとっていないでしょ。
炎が出ていなければ、お前なんかただのデカいねずみなんだよ?
ただただ、ボクのダガーに刺されて、ジ・エンドなんだよ?
それなのに、待っていてくれるなんて、本当になんてお人よしなんだ、君ってやつは。
ほら、表情もニコニコと笑顔で、まとっている炎も過去一番で……
……って、まとっている炎がすごいだって!?
こんなところにつっこんだら、焼死しちゃうよ、ボク。
なんで、ボクの帰りを待っているのさ、火ネズミ。
うん、よく見たら、すごい、悪意のある笑みだね、火ネズミ。
平泳ぎ、平泳ぎ!!
ボクは空中で泳いで落下地点を変えようとするが、落下地点を変えるたびに、火ネズミも自分の居場所を変えていた。
うわっ、ボクを燃やし尽くす気、満々じゃないか。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、火ネズミを驚かせようとするが失敗する。
サイレント、ジャンプしすぎてピンチに陥る。