31話 サイレント、火山を登る
これまでのあらすじ
サイレント、闘気草を探すが、返ってくるのは励ましの言葉だけ。
サイレント、ボルケノ火山を登ることを決意する。
村を飛び出してすぐに、とあることに気づく。
ボルケノ火山って、いったいどこ?
そもそも、ボルケノ火山に行ったことがないからわからない。
わからないなら訊くしかないね。
ボクはすぐさまニック村の冒険者ギルドへととんぼ返りした。
「フラットさん!!」
「どうしたんですかー、サイレントさんー」
「ボルケノ火山までの道を教えてください」
「ボルケノ火山は、冒険者ギルドに背を向けて出て、道沿いにまっすぐ進んだところにありますー」
「冒険者ギルドを出て、まっすぐ進んだところですね? ありがとうございます」
よかった、単純な道で。
バカなボクでも行けそうだ、ボルケノ火山。
ボクは超速でニック村を出て、ボルケノ火山を駆け上った。
…………
……
あれ?
おかしいな。
全然魔物と遭遇しない。
気配察知で生き物はいることは確認できるのに、なぜかボクに近寄ってこない。
魔物がラカンみたいな強い冒険者がいるからと近づかないならまだわかる。
でも、ボクは最弱のFランク冒険者だ。
そんなボクが一人で走っているのにも関わらず、魔物が襲ってこない。
……というより、気配察知からだと、魔物がボクから逃げているようにさえ思える。
つまりこれって、ボルケノ火山に棲息している魔物がめちゃくちゃ弱いんだ!!
きっと、Fランク以下のSランク魔物しかいないのだろう。
そうだよ、フラットさんの依頼もSランクの火ネズミだしね。
これも、ニック村でたくさんもらったフェス様の励ましのご加護のおかげに違いない。
ありがとう、フェス様。
ボク、あなたの信者になってもいいです!
――同時刻、ニック村の冒険者ギルドで――
「フラットさん、良かったんですか? サイレントさんでしたっけ? 一人でボルケノ火山に行かせてしまって。あそこはAランク以上の魔物しか存在していないんですよ? もしも、彼がやられてしまったら、責任問題ですよ?」
いくら、ギルドの立て直しを任されたからとは言え、やりすぎだと言わんばかりに、ニック村のギルド支部長が私に尋ねてきた。
「大丈夫ですー。今のサイレントさんなら、Aランクまでの魔物は逃げていくので、責任問題になるようなことはないはずですー」
私は堂々と答えた。
「Aランクの魔物が逃げるだって? はっはっはっ、まさか、フラットさんの口から冗談が聞けるとは思いませんでした」
「冗談を言っているつもりはないですよー」
そう、私は冗談など一言も発していない。
心からの本心だ。
「本気ですか? 筋肉隆々ではなく、ひょろひょろの腕と脚。それに、初心者用のダガーに新品同様のピカピカの胸当て。魔力に関しても強いわけではない。そして何より、頭の悪そうな顔。冒険者登録証を確認するまでもなく、彼はFランク冒険者ですよね?」
頭が悪そうな顔ということは否定できないが、それ以外は私の所見と全く異なる。
サイレントさんの腕も脚もかなりの筋肉がある。
筋肉があるにも関わらず、筋肉隆々に見えないのは、速さに特化しているためだ。
無駄に筋肉があると重くなって、動きが遅くなってしまう。
そうならないために、隆々な筋肉がつかないように進化したのだろう。
そして、支部長が初心者用だとのたまったダガー。
一見すると初心者用にしか見えないが、初心者用なんかではない。
胸当てが新品同様なのは、敵からの攻撃をすべてよけていて、胸当てに当たったことがないからだろう。
魔力反応が弱いのは常に何かしらの魔法を使っていることが推察される。
ただ、このことをそのまま直接伝えれば、支部長のご機嫌を損ねる上に、『それはあなたの所見ですよね? 根拠はないですよね?』……と一蹴されそうだ。
ここは私の所見を伝えずに、サイレントさんの実力を伝えておいたほうがいいだろう。
「確かに、支部長が言う通り、サイレントさんはFランク冒険者にしか見えないですねー。ですが勇者パーティーでこき使われていた時には、Aランクのファイヤー・ウルフを一人で79匹狩ったんですー」
「一人でファイヤー・ウルフを79匹? いやいや、それはありえないでしょ。ファイヤー・ウルフといえば、Aランク冒険者が4人小隊でやっと1匹狩れるかどうかのレベルですよ? それを79匹って、そんな超人いるわけがないでしょ」
「それがいるんですよー。しかも暗殺で79匹ですねー」
「暗殺で? 警戒心が強くて、少しの足音でもすぐに反応するファイヤー・ウルフを暗殺で79匹倒したっていうんですか?」
「そうですねー。ですから、Sランク並みの実力はあるはずなんですー」
「ちょっと待ってください。彼は本当にSランク冒険者なんですか? Sランク冒険者なんて、片手で数えられるほどの人数しかいないはずです。私が名前を知らないはずがありません」
「サイレントさんはFランク冒険者ですよー。実力はSランクですがー」
「つまり、彼はSランクの実力があるにも関わらず、Fランクのままでいるんですか?」
「そういうことですねー」
「そんなことをして彼になんの得があるんですか? Sランクに昇級すれば、地位も名誉も報酬もすべてを手に入れられますが、Fランクのままならばクエストを受けても低報酬じゃないですか」
「サイレントさんは地位や名誉や報酬で動くような人間じゃないんですー」
サイレントさんは字が読めないので、ランク試験のペーパーテストで点が取れないからと言わずに『サイレントさんは人格者だからだ』とごまかした。
「そうですか。それなら、サイレントさんに依頼した、火ネズミの皮は期待できそうですね」
「そうですねー、火ネズミの皮衣に加工できるほどの状態の良い皮が1枚でもあるなら、このギルドは一気にV字回復をしますねー」
「ええ、そうですね」
大げさにうなずく支部長。
おそらく、頭の悪そうな見た目のサイレントさんをこき使って、自分の出世にでもしようとしているのだろう。
そういう邪な心がある人にサイレントさんはいち早く気づいて、すぐに距離をとるというのに……
それを教える義理もないか。
サイレントさん、もしも火ネズミを倒せそうにないなら、無理はしなくていいですから、無事に帰ってきてください。
私はサイレントさんの無事を心から祈った。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、ボルケノ火山を登るが、魔物がいないことに気づく。
フラットさん、サイレントの無事を祈る。