第15話 サイレント、ファイヤー・ウルフの毛皮をフラットさんに査定してもらう
前回のあらすじ
サイレント、違法売買はしない主義だと伝える。
サイレント、魔物の素材をフラットさんに適正価格で買い取ってもらう。
「いえいえ、サイレントさんが謝る必要なんかないですよー。査定するのが私の仕事ですからー」
そう言ってもらえるとありがたい。
「あ、でも、それなりの時間がかかってしまいますので、そこだけはご了承くださいねー」
「ボク、待ちます! いつまでも、待ちます! ボク、職業アサシンなんで、待つのは得意なんです」
アサシンの仕事は息を殺して魔物を待つことだ。
魔物が来ない時なんか、朝から夜までずっと待ち続けることもざらにある。
フラットさんが鑑定する時間など、ボクにとって大した時間じゃない。
「それにしても、この毛皮はすごく大きな毛皮ですねー。倒すのが大変だったんじゃないですかー?」
フラットさんは、1枚の毛皮を持って訊ねてきた。
うっ、ボクがヘマをしてみんなに狩ってもらった毛皮だ。
「そうなんです。でも、『みんな』の力でなんとかハントできました」
「みんなで力を合わせる……素晴らしいですね」
「そうですね」
本当はボクのミスで、ボク自身は何もしていないから、『みんな』にボクは入っていないんだけどね。
でも、それを正直に言うのはカッコ悪いから、黙っておこう。
ちょっとしたウソをついてしまって、ごめんなさい、フラットさん。
フラットさんをチラリとみると、しゃがんだり、移動したりしながら、毛皮を隅々まで鑑定して、価値を丁寧に見定めていた。
鑑定をしている途中、はぁ……とフラットさんは大きなため息をついた。
ため息をつくということは、きっと困っているのだろう。
何だ?
何に困っているんだ?
こういう時は、相手の立場になるんだ。
モンスターの気持ちになるのは、アサシンの得意分野じゃないか。
フラットさんの気持ちを考えろ!
ファイヤー・ウルフはFランクだったはずだ。
Aランクの高級素材ならすぐに値段もつけられるだろうが、Fランクの雑魚モンスターの毛皮の値段はつけられないといったところだろうか……
「すみませんでした」
いたたまれなくなったボクはフラットさんに謝罪した。
「何で突然、サイレントさんが謝るんですかー?」
「フラットさんが大きなため息をついたので、ファイヤー・ウルフの毛皮の価値が全然ないのかと思いまして」
「違いますよー。私がため息をついたのは、今回の毛皮の剥ぎ方がとても素晴らしくて、うっとりと見惚れてしまったからですよー」
「え? そうなんですか?」
「今回も魔物を解体したのはフラットさんですよねー?」
「はい、そうです」
ボクはこくりと肯く。
「皮も内臓もキレイに解体されています。解体作業だけを何十年も積み重ねたような、熟練の技ですよー」
「いやいや、そんなことないですって」
……と口では言うものの、心の中では諸手をあげて喜ぶ。
やったー、フラットさんに魔物の解体技術を認められた。
ばんざーい。
「お待たせしましたー。査定終了ですー」
「ありがとうございました」
ボクは頭を垂れて、深くお辞儀をする。
「この額で良ければ、いつものように拇印をお願いしますー」
「はい、良いです」
ボクはフラットさんの提示した査定額も見ずに、自分の指を朱肉に付け、いつものように拇印を押す。
数字が読めないから、査定額を見ても意味ないしね。
「それで、振込はいつも通りでいいですかー?」
「はい、いつもどおり、リーダー、ラカンの口座にお願いします」
「今回もそれでいいんですかー?」
フラットさんは心配した面持ちで毎回尋ねてくる。
「ええ。うちはパーティーリーダーのラカンが報酬を全て預かって、そこから運営費を差し引いて、残ったお金をみんなで配分するシステムですから」
「ちなみに、今回の運営費はおいくらなんですか?」
「え……いや、よく分かってないですね……はい。ボクはお金のことは、からっきしですから」
「それって、ラカンさん、いくらでも運営費をごまかせますよね? それに、ラカンさんの独断でお金の配分を決めることもできますよね?」
眉間に深いしわを寄せるフラットさん。
きっと、その方法は良くないということなのだろう。
どうして良くないのか、頭の悪いボクにはわからないけれど。
「ええ、まあ」
ボクは曖昧に歯切れ悪くこたえた。
「このシステムだと、ラカンさんにちょろまかされてしまいますよー?」
「ラカンはそんなことしませんよ」
ボクは自身を持って堂々と言い切った。
ラカンは正義感がある男だ。
その上、職業は勇者。
報酬をちょろまかすなんて小さな不正をするはずがない。
「分かりました、これ以上は言いませんー」
「心配してくれてありがとうございます」
「いえいえ、それでは、またのごひいきをよろしくお願いいたしますー」
「こちらこそ、また利用させていただきます」
ボクはフラットさんにもう一度深々と頭を下げて、冒険者ギルドを後にした。
忙しい人のまとめ話
サイレント、ファイヤー・ウルフの毛皮をフラットさんに査定してもらう。
査定結果の振込はラカンの口座にして欲しいとお願いする。