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29話 サイレント、冒険者ギルドのクエストを安請け合いする

これまでのあらすじ

 サイレント、ザデスはウィルス細菌化しているのでダガーでは倒せないことを知る。

 サイレント、特効薬を探すために宿屋を飛び出す。




 確か、冒険者ギルドはこっちだったはず。

 うろ覚えながらも、ボクは先ほど来た冒険者ギルドへと走る。


 あった、あのぼろいテント間違いなく冒険者ギルドだ。

 明かりがついているということは、まだ、中に人がいるのだろう。


 もうすぐ冒険者ギルドに到着するというところで、誰かの話し声が聞こえてきた。


『この冒険者ギルドを再建させたいんですよねー? それなら、ボルケノ火山で利益率の高い火ネズミの皮衣をクエストすればいいんですー』


 これは、フラットさんの声だ。


 さすがは、ぼろいテント。

 外まで声が丸聞こえだ。


『再建させたいのはやまやまですが、Sランクの火ネズミなんて、誰も倒しませんよ。このギルドにSランク冒険者なんかいないんですから』


 フラットさんと他の職員たちが白熱した議論を交わしているようだが、今はそれよりも、特効薬だ。


「すみません、特効薬について知っている人はいませんか?」

 冒険者ギルドに入ってすぐ、ボクは息を切らせながら尋ねた。


「特効薬って、なんの特効薬ですかー?」

丸眼鏡を光らせたフラットさんがボクの質問に質問で返してくる。


「なんのって、それは、『超熱病のザデス』に効く特効薬が必要なんです」

 確かそんな名前の病気だった気がする。


「どなたか、『超熱病のザデス』に効く特効薬について知っている方はいますかー?」

 その場にいた全員に尋ねるが、誰も声を発しない。


「残念ですがー、誰も知らないみたいですー」

 ふんわりとした声でこたえてくれるフラットさん。


「そうですか、ありがとうございました」

 ボクは情報提供についてお礼を言うと、すぐさま立ち去ろうとした。


「ちょっと待ってくださいー、サイレントさんー」

「でも、ボク、はやく特効薬を探さないといけないんです」


「それはわかっていますー。でも、きっと、特効薬を買うには、たくさんのお金が必要ですよねー?」

「え? あ、はい、そうですね」


 それは薬なのだから、たくさんのお金が必要になるだろう。


「お金集めの手伝いをさせていただけないですかー?」

「え、そりゃあ、もちろん」

 お金集めを手伝ってくれるならありがたい。


「それなら、ちょっとしたクエストを受けていただきたいんですよー。報酬ははずみますから」

「ちょっと待ってください。クエストは特効薬が見つかった後からで構いませんか?」


「もちろんですー。でも、もしも特効薬を持っている人がいたとしても、大金をせびられたら、きっと、サイレントさんは、ツケ払いがきかないですよね?」

「それは……そうですね」


「もしも、特効薬を持っている人にお金がないから断られてしまったら、ぜひ、この紙を渡してあげてくださいー」

「この紙はなんですか?」


「それは、全国冒険者ギルドがお支払い料金を肩代わりする契約書ですー」

「いいんですか?」


 確か、ボクはツケ払いができないんだよね?

 それなのに、フラットさんの一存でボクの借金を肩代わりしてもいいんですか?


「もちろんですー。サイレントさんは、クエストを受けていただけるんですよねー?」

「え? あ、もちろん」


 どんなクエストかはわからないが、Fランクでソロ冒険者のボクにフラットさんが依頼するクエストならば、きっと大したクエストじゃないだろう。


「その紙は火ネズミ討伐の手付金だと思ってくださいー」

「本当にありがとうございます」


 ボクは足早に立ち去ろうとした。


「もしも、その紙を使わなかったとしても、必ずクエストは受けてくださいねー?」

 フラットさんは念を押すかのようにボクの背中越しから声をかけてくる。


「もちろんですよ。それではボク急ぎますので」

「はいー、お気をつけてー」


 ボクが出て行ったあと、すぐに、『さすがフラットさん。FランクにSランクの魔物のクエストを依頼するなんて悪魔の所業』という声が聞こえてきたけど、何を言っているんだ?


 SランクはFランクのボクでも狩れる弱い魔物なのに。


 借金の肩代わりをしてくれる紙をくれたんだから、フラットさんは天使の善行に決まっているじゃないか。


 きっと、ギルドのみんなは左遷されたショックでうまく頭が回っていないんだろう。

 かわいそうに。


 おっと、そんなことよりも、特効薬だ。

 ボクは酔っている人を避けて、町にいた素面の人に片っ端から聞いて回る。


「特効薬あなんてもんがあれば、この店は大繁盛だ。まあ、そんなに気を落とさないで。フェス様は我々ニック村を守り包み込んでくださっているのですから」


「特効薬なんてものは、この家にはないね。気を落とすなよ、兄ちゃん。フェス様は我々ニック村を守り包み込んでくださっているんだからさ」


「特効薬? そんなものなどない。だが、心配するな。フェス様は我々ニック村を守り包み込んでくださっているんだから」


 薬屋はもちろん、道行く人にも尋ねたが、特効薬に関する情報の収穫はなく、返ってきたのは、この村特有の励ましの言葉のみだった。


 なんだよ、そろいもそろって、『フェス様は我々ニック村を守り包み込んでくださる』って。

守り包み込んでくださるなら、特効薬の一つも出してほしいものだよ、フェス様。


 まあ、ボク、今日初めてフェス様のことを知ったばかりで、信仰心なんてものはないから奇跡は願わないけどね。


 でも、もしも特効薬を出してくれるなら、すぐにでも信仰するよ、フェス様。


 あと、残るは、酒場だけか……


 酒場は品の悪い酔っ払いだらけのはずだから行きたくはないけど、もしかしたらだれか情報を持っている人がいるかもしれない。

 行ってみるか……


 …………

 ……



「特効薬、なかった」


 飲み屋に行ってみたものの、からかわれることもなく、みんな知らないことと励ましの言葉のみだったボクは、アリアに残念な結果を報告する。


「それはそうデス。特効薬って言うのは、お医者さんにも薬屋さんにも教会にもないんデスから」

「それなら、どこに行けばあるの? まさか、カバッカの町?」


「カバッカの町どころか、天界にも人間界にも魔界にもどこにもないんデス。まだ、開発さえされていないんデスから」

「ええ!? 開発されてないの?」


「そうデス」

 アリアはこくりとうなずく。


「それなら、本当にできることがないじゃないか」

「そうデス。師匠、アリアの話を最後まで聞かずに、飛び出すんデスもの」

 これぞ、骨折り損のくたびれ儲けというやつだ。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、特効薬の情報を聞こうとするが、返ってくるのは励ましの言葉だけ。

 サイレント、冒険者ギルドのSランククエストを安請け合いする。


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