28話 サイレント、死神・ザデスについて知る
これまでのあらすじ
アリア、どうしてニック村に来たかを尋ねる。
おっちゃん、超熱病で倒れる。
「そうデス」
アリアはこくりとうなずいた。
「それなら、楽勝、楽勝」
四天王と言えば、Fランクのスライムより弱いSランクなんでしょ。
しかも最弱なら、人狼より弱いなら、問題ないよ。
「師匠が思っているような相手ではないかと思うデス。そんなに簡単に勝てる相手じゃないデスから」
「ボクが簡単に勝てないってどういうこと?」
今の言葉は聞き捨てならないぞ、アリア。
そんなにボクが弱いっていうのか?
「師匠、言い方が悪かったなら謝りますので、落ち着いて聞いてくださいデス」
「うん、聞こうじゃないか」
「死神・ザデスは、人や魔物や天使などの生き物の体内にいるデス」
「体内にいるだって? ああ、分かったぞ。きっと食べ物に擬態ができるってことだね」
食べ物に化けて、生物の体内に入って悪さする魔物に違いない。
「師匠、そうじゃないんデス。死神・ザデスは、目に見えないほどに小さくなることができるデス」
「そんな魔物がいるの?」
聞いたことないよ、そんな魔物。
「いるんデス。死神・ザデスは、ウィルスの突然変異と細菌の突然変異から産まれた魔族で、無生物のウィルスの特徴と生物の細菌の特徴を併せ持っていると言われているデスから」
「ちょっと待って。それなら、目に見えない魔物なんだよね?」
「そうデス」
こくりとうなずくアリア。
「目に見えないのに、どうして存在していることがわかるのさ? 本当はそんな魔物いないんじゃないの?」
「いいえ、いるデス。目に見えない死神・ザデスはウィルス細菌化した戦闘モードで、普段は人型ですから」
「どういうこと?」
『ウィルス細菌化した戦闘モード』って何?
「えっとデスね。死神・ザデスは、普段は人の形をしているデス」
「つまりはボクたちと同じ形なんだよね?」
「そうデス」
こくりとうなずくアリア。
よし、ここまでは頭の悪いボクでもわかるぞ。
「デスが、敵を倒すための戦闘モードに入ると、自分を分裂させて、目に見えないほどの小さな形になるデス」
はい、意味が分からない。
スライムみたいに、ぷよぷよしていて、丸い形が細長い形に変わるならまだわかる。
分裂させて、目に見えないほど小さくなるってどういうこと?
でも、さすがに、ここで分からないと言ってしまったら、アリアにバカだと思われてしまうかもしれない。
それだけは避けなければ。
「なるほど、分裂して、目に見えないほど小さくなる……ということだね」
バカと思われないために、ボクは知ったかぶりをした。
「そうデス。アリアのつたない説明でも師匠が理解してくれて良かったデス」
ホッと胸をなでおろすアリア。
うん、全然わかってないけどね。
「よし、倒そう、死神・ザデス」
とにかく、目に見えないくらいの小ささになることは分かった。
小さい敵だというなら、全然怖くないぞ!!
「さすが、師匠デス。倒す手立てがあるんデスね?」
「もちろんだよ、アリア。ボクにはこのダガーがあるからね」
ボクはアリアにご自慢のダガーをみせた。
「師匠、そのダガーで死神ザデスを倒すのは、無理があるんじゃないデスか?」
「何でさ?」
「死神・ザデスは、自らの体をウィルス細菌化して、おっちゃんの体内にいるからデス」
「おっちゃんの体内にいるなら、おっちゃんの体を目に見えないほどの細切れに切り刻めばいいんじゃないの?」
「死神・ザデスはおっちゃんの肉体を細切れにしても倒せないデスし、そもそも、サンザールさんを細切れなんかにしたら、サンザールさんは即死デス」
…………あ、そっか。
そういうことになるのか。
でも、それをそのまま伝えたら、アリアはボクのことをバカだと思うだろう。
「しまった。魔物を倒すことにこだわり過ぎていて、おっちゃんの体まで考えていなかった」
ボクは右手の拳を額に当てて、舌をぺろっと出す。
これなら、うっかりミスだとアリアも思ってくれるだろう。
「もう師匠ったら、うっかりしすぎデス。普通の武器じゃ理論上倒せないんデスから」
良かった……
バカだと思われずに済んだ。
「そうだよね、普通の武器じゃ倒せないもんね」
ボクはアリアの言葉をオウム返しする。
バカと思われないために。
「そうデス。それが、四天王の中で最弱で最凶といわれるゆえんデス」
「それなら、何かできることはないの? 普通の武器じゃ倒せないというなら特殊な武器が必要だとかさ」
「今のところ、死神・ザデスを倒すような武器は開発されていないので、基本的にできることはないデス」
「ないって、ええっ!? ないの?」
「ないんデス。サンザールさんの免疫能力がウィルス細菌化した死神・ザデスに勝たないといけないデス」
「免疫能力?」
「サンザールさんの中にある、生物的防御デスね」
「もしも、おっちゃんがウィルスに勝てなかったら?」
「その時は、残念デスが、死に至るデス」
「死に至るって、大変じゃないか!!」
「そうデスね」
アリアはこくりとうなずいた。
「本当に何もできないの? ほら、魔法で回復させるとか」
「死神・ザデスが魔素を吸収してしまうと、ウィルス細菌が活性化してしまうので、魔法は逆効果デス」
「なんてこった」
くそっ、せめて魔法で治癒できるのであれば、カバッカ町まで行って、ブリジットを連れてくることもできたのに……
「特効薬があれば良いのデスが……」
「なんだ、あるんじゃないか、薬が。よし、特効薬だね。お医者さんとか薬屋さんとか教会とかにないか訊いてくる」
なんだ、薬があるのか。
それを先に言ってよ、アリア。
ボクの脚なら、薬屋どころか、町中の人たちに訊くことだってできるんだから。
おっちゃん、待っててね、すぐ楽にしてあげるから。
「師匠、待つデス」
おっちゃんの命がかかっているんだ。
待ってなんていられないよ。
ボクはアリアの制止を振り切って、走り出した。
さて、町中を闇雲に走り回りながら、『特効薬ありませんか?』……なんて走り回ったら、きっとおかしな人だと思われる。
それは最後の手段だ。
まずは、情報を集めよう。
情報といえば酒場だけど、酒場は酔っ払いが多くて、眉唾の情報も多いから、後回しだ。
まずは、正確な情報をくれる場所からあたったほうがいだろう。
そうとなれば……冒険者ギルドだ。
今なら、フラットさんもいるし、特効薬の情報を持っている人がいるかもしれないぞ。
もしかしたら、薬屋さんを紹介してくれるかもしれない。
でも、あたりはすでに真っ暗だ。
冒険者ギルドが開いているといいんだけど……
いやいや、おっちゃんの命がかかっているんだ。
ドアを壊してでも中に入ってやる。
そう決意したボクは冒険者ギルドへと走り出した。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、ザデスはウィルス細菌化しているのでダガーでは倒せないことを知る。
サイレント、特効薬を探すために宿屋を飛び出す。