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26話 おっちゃん、サイレントとアリアが町から追放された日を回想する(後編)

2023/12/30 後書きを一部消しました(本文に変更はありません)



これまでのあらすじ

 おっちゃん、サイレントとアリアが町から追放された日に酒場で勇者パーティーと会う

 おっちゃん、サイレントを勇者パーティーから追放した理由を尋ねる




 


「サ、サ、サイレントさんが美少女をはべらせていたんですか?」


 特にブリジットの驚きはすごかった。

 まさか、あのサイレントが美少女をはべらせるなんて夢にも思わなかったみたいだ。


「ああ、その通りだ、ブリジット。俺も夢かと思って何度も目をこすって確認したが、事実なんだよ。しかもだ、その美少女と祭りを楽しんでいたから制裁のために追いかけたらしくてよ、この町には住めないってんで、二人で駆け落ちして町から出て行きやがった」


 俺はしっかりと説明した。


 え?

『駆け落ちじゃなくて、一緒に冒険しているだけで、良い村や町があればアリアとはすぐに別れる』……って?


 そうだったのか……悪い、サイレント。

 駆け落ちだと説明しちまった。


 まあ、今度勇者パーティーにあった時にでも、お前の口から説明すれば問題ないだろ。

 話を戻そう。


「か、か、駆け落ちですか? あ、あ、あのサイレントさんがですか? か、か、駆け落ちですか? あ、あ、あのサイレントさんがですか?」


 ブリジットの動揺はすごかったぜ。

 きっと、事実を受け入れられなかったんだろうな。


 ブリジットは何度も同じことを訊いてきたので、そのたびに、俺は「ああ、そうだ」と答えたね。


「へー、この町で一番バカなあのサイレントが美少女と一緒にいるなんてね。わたくし達に内緒でそんな幸せな目にあっているなんて、許せないわ。判決は死刑でいいわね、ラカン」


 それに、アイズの怒りは相当だったぜ。


 ……って、ちょっと待って、アリアちゃん。

 どうしてそんなに怒っているの?


 え? 

『師匠は頭が良いのにバカにしたデス』……って、いやいや、サイレントはバカだよ、アリアちゃん。


『師匠をバカにするやつは骨も残さないデス』……って、怖いよ。どうしたのアリアちゃん。

『カバッカの町ではバカは褒め言葉だよ』……って、お前さんまで何を言っているんだ、サイレント。


 ウィンクまでして……

 ん? 『いいから話を合わせてくれ』……あ、そうだった、今思い出した。


 サイレントの言っているように、カバッカの町ではバカっていうのは褒め言葉なんだ。

 本当のバカって意味じゃないんだよ。


 それよりも話を戻そう。


「そうだな、アイズ。待ちで一番バカなあいつが幸せになるなんてこと、神が許したとしても、俺様達は許さないぜ」


 ラカンは拳を顎に当てて、指をパキンと鳴らしたんだ。

 その音は酒場中に響き渡り、酒場はしんと静まり返って、一触即発の雰囲気になっちまった。


 お前らがサイレントを追放するからサイレントは幸せになったんだ、ざまあみろ……と思ったが、さすがになじみの店で雰囲気を悪くしたら、俺もこの店で飲めなくなっちまう。


「まあまあ、三人とも落ち着いて。せっかく、町一番のバカのサイレントがこの町からいなくなっためでたい日だ。今日は楽しく飲み明かそう」

 俺は雰囲気を良くすることにした。


「確かにそうだな。この町で一番バカなサイレントが追放された記念日だ。今日は勇者であるこのラカン様が全員分の酒をおごるぜ」

 この一言で酒場は活気に満ち溢れ、俺たちは全員で乾杯したんだ。


 その時に一人の女が無言で酒場に入って来た。


「お嬢さん、今日はとてもめでたい日なので、一緒にのみませんか?」

 フードを目深にかぶってはいたが、立ち居振る舞いから、きっと高貴な人だと思った俺はコネをつくる……じゃなかった、一人で飲む酒は美味しくないだろうと思って、その女を誘ったんだ。


「あら、どうして?」

 女は気品がある声で尋ねてきた。


「それは、カバッカ町の一番のバカが出て行ったからです」

 俺はこたえたんだ。


「へー、この町一番のバカが出てった……それなら、今、この町の中で一番のバカは誰なのですこと?」

 その女の一言で酒場がしんと一瞬だけ静まり返った。


「俺はお前よりもバカじゃないから、一番は俺じゃない」

 誰かが口火を切ったとたんに、酒場は一気に喧噪に包まれたんだ。


「いや、待てよ。お前はバカだろ。俺様よりな」「ふざけんな、俺はバカじゃない」「いや、お前の方がバカだ」

 それからバカのなすりつけあいが始まっちまった。


 このままこの酒場にいたら、俺まで巻き込まれると思った俺は、すぐさま家に逃げ帰ったんだ。


 翌日になれば、こんなしょうもない話なんか話題にすらならないだろう……そう思っていたんだが、もちろん、そうは問屋が卸さなかった。


 カバッカの町の唯一の関心ごとは、サイレント追放された今、誰が一番のバカか……ってことだったんだ。


『カバッカ町で誰が一番バカかなんて、そんなのたいした問題じゃない』だと、サイレント?

 問題おおありだよ。


 自分がサイレントの代わりになって、全町民からバカにされるかもしれないんだぞ。

 そんなの超絶に精神力が高いやつしか耐えられるわけないだろ。

 お前がいなくなって、町民は初めてお前のありがたさが分かったんだ。


『それとおっちゃんがクビになったことと何が関係あるか』だと、サイレント?

 関係なさそうに見えるだろ?

 だが、関係してくるんだよ。


 この町の一番のバカは、バカなサイレントをこの町から逃がしたやつだという結論になっちまったんだ。


 あんなバカが誰かの手助けなしに、この町を出られるわけがない。

 絶対に誰かが手助けしているはずだ。

 サイレントの逃亡を手助けしたやつが一番のバカだ……ってな。


 それからは、町中一丸となって、サイレントをカバッカ町から逃がした犯人捜しの始まりさ。

 もちろん、俺は名乗り出なかった。


 名乗り出たら、この町一番のバカだという絶対に欲しくない称号をもらっちまうからな。


 だがしかし、何日か後、とうとう俺がサイレントを逃がしたことがバレちまったんだよ。


『ウソをついて否定すれば良かった』って?

 俺だって最初はそうしたさ。


 でも、ウソをつき続けられなかったんだ。

 何故なら、滅茶苦茶怪しそうな赤いドレス姿の嘘発見調査官様がカバッカ町を観光に来たせいでな。


 なんでも、ホバッカ村に問題があって出張に来ていたんだんだけど、その問題を一気に解決した男の故郷のカバッカ町にも寄りたくなったとかでな。


 まったく、憎きホバッカ村の問題を解決したカバッカ町の男とやらのせいで、俺は正直に告白するかなくなっちまったんだ。


『へえ、そんな迷惑な男がいるんだね』……だと?

 サイレント、お前、他人事みたいに言いやがって……って、なんでお前、そんなに汗をかいて、アリアちゃんの口をふさいでいるんだ?


 え?

『ボクのことは気にせずに、話を続けろ』……だと?


 そうだった。

 ここからが、本当に大変だったんだ。


 俺は、サイレントを町から逃がした罪により、門番をクビ。


 ついでに、カバッカ町一番のバカという称号までもらっちまった上に、サイレントみたいに町を抜け出せないように、カバッカ町の永住権をもらい、護衛までつけてもらっちまった。


 耐えきれなくなった俺は、護衛の目を盗んでカバッカの町を抜け出してきて、今に至るということさ。


忙しい人のためのまとめ話

 おっちゃん、サイレントを逃がしたことがばれて、カバッカ町一番のバカになる。

 おっちゃん、カバッカ町から逃走する。


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