25話 おっちゃん、サイレントとアリアが町から追放された日を回想する(前編)
これまでのあらすじ
サイレント、サイレント、おっちゃんにニック村に来た理由を訊く。
おっちゃん、仕事をクビになったことを白状する。
――お前たちが出た後、すぐに勤務交代の時間になったんだ。そこで、おっちゃんがカバッカの町の酒場で一人でハードボイルドに高級ウィスキーをロックで飲んでいるとだな――
「ちょっと待った!! おっちゃんがウィスキーをロックで飲むわけないじゃない。そんな姿一度も見たことないよ。しかもハードボイルドになんて絶対に嘘!! 実際は、酒場で一番安い葡萄酒を湯水のように飲みながら、裸踊りでもしていたんでしょ?」
そんなの、嘘発見調査官でなくても分かるんだから。
「おいおい、話の腰を折るんじゃない、サイレント。いつもは安い葡萄酒だが、その時はたまたま高級ウィスキーを頼んでいたんだ」
「おっちゃん、こっち見て話してよ。それじゃあ、ウソが丸わかりだよ」
「アリアちゃんの前だから、格好つけさせろよ、サイレント」
おっちゃんは小声で言ってくる。
そんなんだから女性にモテないんだよ、おっちゃん。
まあ、話が全然進まないのも面倒だ。
「分かったよ、変なところがあっても極力突っ込まないよ。続けておっちゃん」
――おっちゃんの回想――
改めて、勤務を交代したおっちゃんがカバッカの町の酒場で一人でハードボイルドに高級ウィスキーをロックで飲んでいると、勇者パーティーが入ってきたんだ。
「あれ? 勇者様たち? 狩りに出かけたんじゃないのかい?」
このサンザールはすぐに声をかけた。
『どうせ、おごってもらおうとしたんでしょ』……だと?
いや、違うって、サイレント。
俺は勇者パーティーからおごってもらおうと思って、ゴマすりをするために近づいたわけじゃないんだからな。
勘違いするなよな。
それより話を戻すぞ。
俺がラカンに訊くとだな、
「狩りはしたのだが、早々に戻って来たんだ。サンザールさん」
……と、少し疲れた声で俺に教えてくれたんだ。
「今日は何を狩ったんだい?」
俺は気持ちよくおごってもらう……じゃなかった、最近の調子はどうかという意味を込めて狩りの成果を尋ねた。
そしたら、勇者様は何て答えたと思う?
「何って……あれ? 何だったけな? 何か強い魔物と戦った気がしたんだけど……」
俺はびっくりしたね。
おいおい、その若さで痴呆にでもなったのかと言いたかったが、もちろん、そんなことは言わなかった。
おごってもらうために……じゃなかった、紳士として失礼なことは言えないからな。
「さすがは勇者様だ。強い魔物ということはもしかして、素材も貴重なものだったんじゃないかい?」
俺は勇者様をフォローする。
「さて、何の素材だったかな、アイズ?」
「えっと、ダークな色だったことは覚えているんだけど、何だったかしら……覚えてる、ブリジット?」
「え、え、え、えっと、何でしたっけ? トカゲのような生き物だったような気もするのですが……」
何だ、こいつら。
誰かに忘却呪文でもかけられているんじゃないか……と思ったが、勇者パーティーにそんな呪文をかけられるやつなんかカバッカの町周辺にいるはずがない。
「おいおい、勇者パーティー様よ。まだ酒も注文さえしていないのに、もう酔ってんのか?」
俺は冗談めかせて言ってやったんだ。
「確かにそうかもしれないな。ほら、かっこいい男がそこの鏡に映っているから、その容貌に酔いしれたのかもしれないぜ。もちろん、パーティーメンバーの二人もな」
……と、ラカンは鏡に写った自分の顔を指差すんだよ。
鏡に写った俺様の顔で、自分はもちろんアイズもブリジットも酔いしれたんだろう……ってな。
「ははは、確かに。言われてみれば、俺も勇者様の顔に酔いしれちまったかもな」
寒いギャグだったが、俺は財布の紐が一番緩い勇者様を必死におだてた。
「ちょっと、誰が誰の顔に酔いしれたって?」「そ、そ、そうですよ。ラカンさんの顔はタイプではないんですから」
まあ、他の二人のメンバーは、顔を膨らませて怒っていたけどな。
「ふられちまった」
わざとらしく肩を落とすラカン。
「女ってもんは、好きな人の前じゃ、口と態度がちぐはぐになるもんだぜ。お前さんの顔に酔ってしまったんなら、なおさらな」
ははは、ざまぁみろと言いたいところだったが、おごってもらいたい……じゃなかった、気の利く俺はすかさずフォローしたんだ。
女子二人は、口ではタイプじゃないと言ってはいるものの、確かに顔は赤く染まっていたしな。
「ラカンの前で、口と態度がちぐはぐになるなんてことないから」「そ、そ、そうです、そんなのありえないです」
……とそっぽ向く二人を見て、これはきっと、ラカンに気があるに違いないと思ったが、俺はラカンにこのことを言わなかった。
『サンザールさんは意地悪デス』……って、違うんだよ、アリアちゃん。
これは意地悪じゃなくて、自分の気持ちを伝えるのは本人の口から直接伝えたほうがいいと思ったからなんだよ。
勘違いしないでね。
話を戻そう。
「フラれたと言えば、サイレントがパーティーからフラれて追放されたと聞いたけど、本当なのか?」
俺は強引に話題を変えて、サイレントについて訊くことにしたんだ。
サイレントがパーティーから追放されたというのは、サイレントの勘違いの可能性もあったからな。
「ああ、そうだぜ。あいつは間違いなく追放した」
「どうしてそんなことしたんだ? あいつ、とても落ち込んでいたぞ」
理由が気になった俺はラカンに訊いたんだ。
「乱戦になったら逃げるし、大切なところでヘマをするし、臭いからだとあいつは聞いているはずだぜ」
「本当にそれだけの理由で大切な仲間を追放したのか、ラカン?」
俺はおごってもらうつもりだというのも忘れて、いつの間にかラカンの胸倉につかみかかって問い詰めていた。
「仕方なかったんだ。あいつはどうしても追放しなければならなかったんだ……」
ラカンはオレにつかみかかられても、一切抵抗はしなかった。
まるで、殴りたければ殴れと言わんばかりだった。
「かわいそうに。だから、追放されたサイレントはあんな奇行に走ったってわけか」
あまりにラカンが無抵抗だったこともあってか、俺は我に返って、つかんでいた手を放しながらつぶやいたんだ。
「おいおい、サイレントが何かしたのか?」
「知らなかったのか? 自暴自棄になったサイレントは美少女をはべらせて、司祭様を怒らせて指名手配されて、カバッカの町から追放されたんだとよ」
「「「なんだって!?」」」
三人ともサイレントが町から追放されたのを知らなかったみたいで、たいそう驚いていたよ。
忙しい人のためのまとめ話
おっちゃん、サイレントとアリアが町から追放された日に酒場で勇者パーティーと会う
おっちゃん、サイレントを勇者パーティーから追放した理由を尋ねる