24話 サイレント、おっちゃんにニック村に来た理由を訊く
これまでのあらすじ
サイレント、心は天使で顔は悪魔のサンザールと再会する。
サイレント、占い師に騙されたことを指摘される。
「何を話しているデスか?」
アリアがボク達に尋ねてきた。
おっちゃんとボクだけ耳元でこそこそと囁き合っている状況を見れば気になるのは当たり前だし、アリアにとっても気持ちのいいものではないだろう。
「あ、ごめん、アリア。何でおっちゃんがこのニック村にいるのかって聞いていたんだよ。ね、おっちゃん?」
「ああ、そうだな、サイレント」
さすがおっちゃん。
特に合図を出すまでもなく、ボクと口裏を合わせてくれるなんて。
長年の付き合いがなせる技だね。
「サンザールさんがこのニック村に来た理由なんて、訊くまでもないデス」
「アリアにはおっちゃんがニック村に来た理由が分かるの?」
長年の付き合いがあるボクでも分からないのに、アリアにはその理由が分かるとでもいうのか……
「当然デス」
「さすがはアリアちゃんだ。短い付き合いなのに、俺のことを理解してくれているんだね。ハグしていい?」
「ダメに決まっているでしょ、おっちゃん! どさくさに紛れてセクハラしようとしてるの?」
アリアに抱き着こうとするおっちゃんをボクはタックルして止める。
「おいおい、どさくさじゃないぞ、サイレント。久しぶりの再会に堂々とアリアちゃんと抱擁を交わそうとしているだけじゃないか」
「堂々としていても、アリアに抱き着くのはセクハラだから。ボクも院長先生も許さないからね。それで、アリア、おっちゃんがここに来た理由って何?」
「サンザールさんがここにきているのは、懸賞金に釣られて師匠を捕まえに来たからに決まっているデス」
アリアはおっちゃんの顔の前にびしっと人差し指をつきつけた。
「そうなの?」
ボクはタックルした体勢のまま、おっちゃんの顔を覗きこむ。
優しいフリをして、悪魔的なことを考えていたの、おっちゃん?
「そんなわけないだろ。俺はカバッカ町からお前を逃がした張本人だぞ」
「そうだよ、アリア。おっちゃんはボク達を逃がした張本人なんだよ。ボク達を捕まえにくるわけないよ」
「師匠、騙されちゃいけないデス」
「え?」
「サンザールさんが師匠に懸賞金がかかっていると知ったのは、師匠を逃がした後デス。今は懸賞金に目がくらんでいるかもしれないデス」
「そういうことなの、おっちゃん?」
今度は眉間に力を入れながらおっちゃんの方を見た。
「金が欲しいなら、お前らと会話なんかせずに、すぐに捕まえているわ!! 俺は門番だから捕縛術には長けているんだぞ!!」
「確かに、その通りだよ、アリア」
そうだよ、賞金狙いなら問答無用でボク達を捕まえればいいじゃないか。
「どうデスかね? そう言って油断させておいて、後で捕まえる気じゃないデスか?」
「そんなことないって、アリアちゃん。俺がそんなことをする顔に見える?」
「以前見た時の顔とは、だいぶ違って見えるデス。目は血走り、クマも酷く、頬はこけているデス。師匠を血眼で探していたんじゃないんデスか?」
確かに、おっちゃんの顔を見る限り、その可能性は高い。
ボクはタックルしていた手を放して、すすす……とおっちゃんと距離をとった。
「見当違いも甚だしいぜ、アリアちゃん。この顔は、カバッカ町から、このニック村までほぼほぼ寝ないで来たからだよ」
「寝ないで? どうしてそんなに急いでニック村に来たのさ? まさか、おっちゃんも出張?」
「『おっちゃんも』……って、他に誰かカバッカ町の人間がこの村に来てるのか?」
「うん、フラットさんが出張に来てるんだよ」
「フラットさんって、カバッカ町の冒険者ギルドの受付嬢だった、フラットさんか?」
「そうだよ」
ボクはコクリとうなずく。
「あのフラットさんがこのニック村にいるっていうのか!?」
「そうだよ」
ボクはもう一度コクリとうなずいた。
「まさか、俺を追って……いや、フラットさんはそういう人じゃないはずだ。出張という名の左遷か? いや、あんなに優秀なフラットさんが左遷ってことはないだろうし……」
おっちゃんは自分の世界に入り込んでしまったのか、独り言をつぶやきながら、顔を青ざめさせていく。
「フラットさんは左遷じゃないよ。フラットさんは優秀だから、ニック村の冒険者ギルドの再建をするために来ているんだよ」
ボクはおっちゃんの独り言を拾って説明してあげた。
「そうか、再建のためにか。フラットさんも左遷させられたわけではないのか……」
ほっと胸をなでおろすおっちゃん。
「サイレント、お願いだからフラットさんには俺がこの村にいることを言わないでくれ」
悪魔のような顔をしたおっちゃんはボクにお願いしてきた。
「え? あ、うん」
ボクはあまりにもおっちゃんが必死だったので、おっちゃんの頼みを断り切れずに、うなずいてしまった。
「ところで、サンザールさんはどうしてこのニック村に来たデスか?」
そうだった。
おっちゃんがこの村に来た理由を聞いていなかった。
さすがはアリアだ。
しっかりしている。
「まさかとは思うけど、もしかして、おっちゃん、左遷されたの?」
「そんなわけないだろ!!」
冗談で言ったんだから、そんなに怒らないでよね、おっちゃん。
「そうだよね。おっちゃんが左遷させられるわけないよね。ごめんね、おっちゃん」
カバッカ町の門番であるおっちゃんが、門番もいない平和なニック村に左遷させられるわけないよね。
「そうだぞ、サイレント、おっちゃんが左遷させられるわけないだろ。おっちゃんはな、おちゃんはな……門番をクビになったんだよ」
おっちゃんは周りに誰もいないことを確認してから、アリアにも聞こえないくらい小さな声で耳打ちした。
「え?」
ボクは反射的に聞き返してしまう。
「だから、クビだ。クビ」
「ええっー!!クビって、カバッカの町の門番をやめさせられたってこと?」
「バカ、声が大きい!! アリアちゃんが哀れな眼でおっちゃんを見てきているじゃないか!!」
「あ、ごめん!!」
ボクは大声で謝る。
「なるほどデス。クビになって、所持金がなくなるので、懸賞金目当てに師匠を捕まえに来たということデスね」
「だから違うってアリアちゃん。話を聞いてくれ。サイレントとアリアちゃんがカバッカ町を出た後のことだ――」
なんか、おっちゃんが語りだしたぞ。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、サイレント、おっちゃんにニック村に来た理由を訊く。
おっちゃん、仕事をクビになったことを白状する。