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23話 サイレント、昔馴染みにあう

これまでのあらすじ

 サイレント、地図を買おうとするがツケ払いができないことを知る。

 アリア、地図を買う。




 



「さて、地図も手に入ったところで、今後の計画をたてるためにも、まずは宿屋探しをしようか」

「そうデスね」


 冒険者ギルドを出たボクとアリアが歩きながら、宿屋を探す。


「サイレント」

 低い男の声がしたと思ったら、ボクはがしっと、誰かに肩をつかまれた。


 そんな。

 気配察知を使っていたのに、気づかなかった……だと。


 死人のように気配がないのか、あるいは、暗殺者並みに気配を消すのがうまいのか……

 暗殺者だったとしたら、カバッカ町からの追手かもしれないぞ。


 なんせボクは懸賞金のかかったお尋ね者だけど、こんなところで捕まるわけにはいかないんだ。


 ボクは振り返りざまに足のホルスターからダガーを抜く。


「俺だよ、俺」

 そこにはガリガリにやせて、目にクマをつくった男が軽装で立っていた。

 その姿はまるで絵本に出てくる悪魔のようだ。


「誰? 悪魔?」

「おいおい、おっちゃんの顔も声も忘れったってのか? さすがはバカなサイレントだな」


「その声は、おっちゃん?」

「そうだ、カバッカ町の門番をしていたサンザール様だ!!」


「おお、おっちゃんだ!!」

「おっちゃん!!」「サイレント!!」

 ボクとおっちゃんは強く抱擁した。


「元気にしていたか、サイレント?」

「うん、ボク神様になるんだ」


「へー、そうなのか。頑張れよ。それじゃあな」

 おっちゃんは抱擁していたボクの体をぱっと放すと、興味なさそうに、口だけでボクを励まして、お別れの挨拶をしてくる。


「リアクションが薄い上に別れの挨拶がはやすぎる!! ここはもっと驚くものじゃないの? 『神様、俺の願いをかなえてください』……って、必死に懇願してくるとかさ」

「あのな、サイレント、お前が神様になるって聞いて、驚くわけないだろ」


「なんでさ?」

「それはだな……サイレント、実は、俺も神様になるからだ」

 おっちゃんは周りに誰もいないことを確認してからボクに耳打ちをしてきた。


「は? おっちゃんが神様になる? そんなわけないじゃないか。頭、大丈夫?」

「そうだろ、サイレント。もしも、『俺は神様になる』……なんて聞かされたら、今のお前みたいな反応になるだろ、サイレント」


 おっちゃんはボクの肩を大きな手のひらでぎゅっとつかんだ。

 ごめん、おっちゃんをバカにして。


 だから、すごい力の入っている手のひらの力を抜いてください。

 みしみしと音が鳴っていて、とても痛いです。


「確かにそのとおりだけどさ。でも、ボクが神になるのは本当なんだよ、おっちゃん。良く当たる占い師に予言されたんだから」


「本当に当たるのか? その占い師は」


「当たるよ。だって、その占い師は、ホバッカ村のネークラが教祖様になるって予言して、本当に教祖様になったんだよ?」


「それは、みんなに讃えられる本物の教祖様だったのか?」

「違うよ。結局のところ、自称・教祖様だった」


「自称なら、誰でもなれるじゃないか。俺は教祖様だって言えばいいだけなんだからな。自称でいいなら俺は何だってなれるぞ。もちろん、自称・神様にもな」

「確かにその通りだ……ってことはボク、騙された?」


「いったい、その占い師にいくらつぎこんだんだ? アリアちゃんには言わないでおいてやるから正直に答えろ」


 おっちゃんはアリアに聞こえないように、小さな声で訊いてくる。


「お金は払ってない……そうだよ、お金払ってないから、ボク騙されてないよ」


 そうだよ、ボクが出会ってきた人たちはみんな高額なお金を要求してきたんだ。

 もしも、あの占い師が偽物だったとしたなら、お金を要求しなかったのはおかしいじゃないか。


「占いはタダでも何か要求されたんじゃないか?」

「そういえば、神になったら願いを融通してくれ……って言ってたな」

 あの時は占いの結果に興奮して、『いいよ』って言っちゃった気がする。


「ははーん、そういうカラクリか……」

「そういうカラクリって、どういうこと?」


「サイレント、占い師の立場になって考えてみろ。占い師は何もリスクを負ってないだろ?」

「リスクを負ってないってどういうこと?」


「もしもだ。お前が占いの通り神になったとしよう。その時はタダでお前に融通して欲しいお願いを要求できる」

「うん、そうだね」

 もしもボクが本当に神になったら、喜んで占い師のお願いを叶えちゃうだろう。


「もしも、占いが外れてお前が神にならなくて、お前に損害賠償を請求されても『占いはタダでしたものだから』……と適当に誤魔化せば特に占い師は被害を負わない」

「確かに」


 どうせタダで占ってもらったんだ。

 そもそも、占いが外れたところで、ボクはお金なんか要求しないだろうしね。


「つまりだ。占い師はリスクなしで、お前にお願いできるかもしれない権利をタダで手に入れたってわけだ。これぞ、ノーリスク、ローリターン」

「そういうことか」

 ノーリスク、ローリターンの意味は分からないけど、とりあえずうなずいておこう。


「占い師がお前以外の人にも、『神になれる』だの『教祖になれる』だの、似たような占いをタダですれば、占い師はなんのリスクもなく、高確率で自分のお願いを聞いてもらえるってわけだ」


「でも、わざわざこの村まで占いをしにきたという女の人にはお金取ってたよ?」

 そう、ボクの前にいた女の人からはきちんとお金をとっていた。


「だからお前はバカって言われるんだ。サクラに決まっているだろ」

「サクラ?」


「そうだよ、仕込みだよ、仕込み。お前に本来占いは高額なお金がかかるものだとと信じ込ませるために、占い師がしこんでいたんだよ。どうせ、その女は占い師の娘か何かだよ」

「いや、そんなはずはないよ。あれは本物のお客さんだったよ」


「そう見えるように女優でも雇ったんだろ。認めろ、サイレント。騙されたんだよ、お前」

 おっちゃんはボクの肩をポンと叩いてきた。


「そういうことか……」

 確かに、名演技をされたら、ボクならすぐに騙されるだろう。

 ……ということは、ボクが神様になる話も、女難も天難も魔難も全部ウソということか。


「少しは懲りろよ、サイレント。昔からこの手の詐欺に騙され続けて、ラカンとフラットさんにも迷惑をかけまくっていたんだろ?」


「ぐっ」

 事実なので、ボクは何も言い返せない。


「それにな、サイレント。考えても見ろ。バカなお前さんが神様になりでもしたら、7日……いや、1日でこの世界が滅びるだろうな」

「それもそうか、はっはっはっ」


 確かに、数もよく分からないボクみたいなバカが神様なんかになったら、この世界は1日で崩壊するだろう。

 いや、1時間で崩壊させる自信がある。


「いい加減、夢をみるのはやめるんだな」

「そうすることにするよ」


 おっちゃんの言うように、ボクは神にならないよ。


 それにしても、昔からおっちゃんは本当にボクに優しいな。

 まるで天使だ。

 顔は悪魔みたいだけど。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、心は天使で顔は悪魔のサンザールと再会する。

 サイレント、占い師に騙されたことを指摘される。

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