21話 サイレント、地図を買おうとする
これまでのあらすじ
サイレント、冒険者ギルドへ行く。
サイレント、冒険者ギルドで天使のようにかわいいフラットさんと出会う。
「その後、ホバッカ村を出てからはどこへ行っていたんですかー?」
「え? その後は、このニック村に来ましたよ」
「他の町や村にも寄らず、直接ニック村にですかー?」
「そうですけど、どうしてそんなことを訊くんですか?」
「いえ、大したことではないいですけどー、カバッカ村から見ると、ホバッカ村は東で、ニック村は西ですよねー? どうしてそんな大回りをしたのかなと思いましてー。何か用でもあったんですかー?」
「それは……」
道に迷ったとはいえないな……
ここはウソをついてごまかそうとも思ったが、ホバッカ村とニック村に寄る用事なんてすぐには思いつかないし……
「あー、もしかしてー、世界エア武者震い大会のエントリーだったりしますかー?」
ははは、面白いことを言うね、フラットさんは。
世界エア武者震い大会なんて、つい先日、ボクがアリアについたウソなんだよ。
そんな競技あるわけないじゃないか。
「世界エア武者震い大会がこの村で行われるデスか?」
フラットさんの言葉に目を輝かせるアリア。
「はいー、行われますよー」
まさかのウソから出たまこと。
いや、違うな。
きっと、昔どこかで、世界エア武者震い大会の話を聞いたことがあったんだ。
それを覚えていて、とっさに口から出てきたんだ……きっと。
「なるほど、最寄りのニック村で世界エア武者震い大会が行われることを知っていたから、あえてアリアに尋ねられた時に言葉を濁したんデスね? アリアにサプライズをするために」
うん、全然違うよ、アリア。
そもそも、ニック村が近いからって、世界エア武者震い大会を隠してサプライズすることになんの意味があるの?
「もちろん、その通りさ」
悲しいかな、それでもボクはウソをつき通すしかなかった。
「やっぱり、そうだったんですねー。優勝を狙っているんですかー?」
優勝なんか狙うわけないでしょ。
そもそも、世界エア武者震い大会なんて競技にエントリーする気もないからね。
「もちろんデス。師匠は世界エア武者震い大会に出るために、Fランクの魔物相手に練習までしたんデス」
こたえたのはアリアだった。
うん、アリア、君は少し黙っていようか。
話しがややこしくなるから。
「サイレントさん、気合が入っているんですねー」
「そうなんですよ、あはは」
ボクはそう答えざるを得なかった。
「世界エア武者震い大会に出場するためにも、まずは魔物の素材を換金して、宿屋をとらないといけないんです」
ボクはなんとか話題を変える。
「なるほど、お急ぎなんですねー」
よしよし、うまく話題が変わったぞ。
「そうなんです、急いでいるんです。ですので、すぐに魔物の素材を買い取っていただけますか?」
「わかりましたー。それで買い取って欲しい魔物の素材はどこですかー? いつものように魔物の素材の香りがしないんですがー」
よし、ここは素材を取り出して……と。
あれ? 素材?
…………素材がない!!
カバッカ町を出てたくさんの魔物と戦ってきたのに、何でだ?
ちょっと思い出してみよう。
ダークドラゴン……は逃げて行った。
スケアード・スライム……はそもそも戦ってない。
人狼……とは和解して倒してないし……
人ジゴクもジツゲンゴロウ……は、素材なんて落としていないじゃないか!!
あれ?
素材、一つも回収していない。
「えっとですね……」
どうしよう、素材なんて一つもない。
「まさか、素材を一つも回収していないのにー、いつもの習慣で素材を買い取って欲しいなんて言ってないですよねー?」
アリアの前でバカにされたくなかったボクはなんとか誤魔化そうともしたが、相手はフラットさんだ。
バカにしてくるわけない。
「あはは……実はその通りなんです、フラットさん」
ボクは正直に白状した。
「……ということはー、今日は何も取っていない素材を買い取ってもらうために、冒険者ギルドに寄ったということですかー?」
ふわっとした甘ったるい声でフラットさんはボクに言う。
「そういうことになりますかね」
ボクは頭を掻きながらこたえた。
「違うデス、師匠」
アリアが話に割って入ってくる。
何が違うというのだ、アリア。
「アリア達は、地図を買いにここに来たデス」
あ、そうだった。
すっかり忘れていた。
そうだよ、地図だよ、地図を買いに来たんだよ。
……って、地図が何処に売っているか分からないから、冒険者ギルドにあるよなんて適当なことを言っちゃったけど、そもそも、冒険者ギルドに地図なんか売っているのか?
もしも、地図が売ってなければ、フラットさんの前で恥の上塗りだぞ。
ドキドキしながら、フラットさんの返答を待つ。
「どんな地図ですかー?」
ふわっとした声で尋ねてくるフラットさん。
良かった、地図は売っていた。
恥をかかなくてすんだ。
「一番安い地図をください」
ボクはここぞとばかりに、安い地図を頼む。
「一番安い地図となると、これですねー。金貨1枚になりますー」
フラットさんは、小さな紙を取り出した。
「それじゃあ、これをください」
ボクはフラットさんの勧める地図を言い値で買う。
「師匠、ちょっと待つデス。この地図はニック村周辺だけしか描かれていないデス。この村を出たら意味がないデス」
「あ、そうなの?」
地図って、みんな同じものじゃなかったのか……
「それじゃあ、一番高い地図をください」
「師匠、それは止めておいた方が良いデス」
「なんでさ?」
「高い地図はー、金粉や高価な絵の具が使われているのでー、サイレントさんの想像だにしない金額なんですー。冒険者のお給金だと一生かかって、返済できるかどうかですねー」
アリアの代わりにこたえたのはフラットさんだった。
え?
地図って、そんなに高いの?
「でもー、サイレントさんが必要だというのであればー、取り寄せますよー」
「要りません、要りません。そんな豪華な地図、頼まれても要りません」
「そうですかー? 豪華な地図を買っていただければ、利益がすこぶる出るので、ギルドとしてはとてもありがたいのですがー」
「要りません」
「それなら、どの地図にするんですかー?」
……と言われても、どの地図が良いのかなんてボクにはさっぱり分からないよ。
「師匠、白黒で必要最低限の情報が書いてある、この世界地図がおすすめデス」
「よし、それにしよう」
アリアに助け舟を出されたので、ボクはアリアが指さす地図に即断即決する。
「これで良いですかー?」
「そうです、それをください」
「お支払いはどうしますかー?」
「ツケ払いで」
ふふふ……
ツケにしておけば、冒険やギルドが立て替えてくれて、勝手にお金が引かれるから、お金を受け渡ししなくてもいいのさ。
お金の計算ができないボクでもできる唯一のお買い物方法、それがツケ払い。
ここまで、計画通りだ!!
「今のフラットさんでは、ツケ払いができないですよー」
はい、計画倒れしました。
はやっ。
「え? なんで?」
今までツケ払いで買えていたじゃないか!!
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、フラットさんと雑談をする。
サイレント、地図を買おうとする。