20話 サイレント、冒険者ギルドへ行く
これまでのあらすじ
サイレント、未来に女難と天難と魔難があると聞かされる。
サイレント、女難と天難と魔難の回避方法を聞く。
アリア、近くでお茶していると言っていたな。
ボクは道行く人に近くの喫茶店までの道を聞いて、教えられた道を行く。
アリアは喫茶店の軒先でお茶を飲んでいた。
アリアに声をかけようとした時、『女難は回避できない』……という占い師の言葉がよみがえる。
占い師の前では女難にかきこまれる覚悟だなんて大見得をきったけど、実際にアリアを目の前にすると、声をかけるのはためらわれるな……
ええい、女難は回避できないんだから腹をくくれ!!
「待たせたね、アリア」
居直ったボクは声をかけた。
「いいえ、全然待ってないデスよ」
ボクの声に気づいたアリアはティーカップをカチャリとソーサーに置く。
うん、いつもながら気品のある立ち居振る舞いだね。
「占いの結果はどうだったんデスか?」
「それは……秘密だよ」
「教えてくださいデス」
「後のお楽しみだよ」
神になるということは内緒にしておいて、後でびっくりさせたほうが面白そうだ。
「分かったデス。それなら、冒険者ギルドへ行くデス」
「うん、そうだね」
アリアの案内で冒険者ギルドへと向かった。
…………
……
「師匠、これは……」
アリアは冒険者ギルドのすごさを見て言葉を飲み込んだ。
「すごくボロいデスね」
「アリア、言葉を選ぼうか。ボロいは使ったらアウトな言葉だと思うよ」
確かに、こんなところに人が住んでいるとは思えないほどボロいけど。
「それなら、師匠ならどのように表現するデスか?」
「そうだな……例えば、風が吹けば壊れてしまいそうなほど、すごくボロいサーカスのテント……かな?」
「師匠もボロいと言っているデス!!」
「あはは……つい言っちゃったね」
だって、本当にボロいんだもの。
「こんにちは」
ボクは気を取り直して元気よく挨拶しながら、冒険者ギルドの中に入った。
「はーい」
中から聞覚えのある甘ったるい声が聞こえた。
「あれ? もしかして、フラットさんじゃないですか?」
ボクは自分から声をかける。
「あらー、サイレントさんー?」
そこには確かに、天使……じゃなかった、天使と見間違うくらいほんわかとした雰囲気のフラットさんがいた。
「どうしたんですか、こんなところで?」
「臨時出張ですねー」
「冒険者ギルドの事務員って、臨時出張があるんですね」
フラットさんは、いつもカバッカ町にいるから、出張があるなんて知らなかったよ。
「はいー。ここだけの話なんですけど、このニック村の冒険者ギルドは、世界の冒険者ギルドの中で利益率が一番悪く、赤字続きなんですよー」
「へー、そうなんですか」
こんなボロいテントに依頼に来たがる人もいなさそうだしな。
「冒険者ギルド業界の中では、ニック村に異動の内示が出ると、左遷されたと落ち込んで自主退職する人が出てくるくらいですー」
ちょっと待って。
フラットさんが左遷されたってこと?
「あー、もしかして、サイレントさん、私が左遷されたと思ってませんかー?」
「え? いや、そんなことないですよ」
思ったけど。
「違いますからね。私はこの冒険者ギルドを再建させるために臨時で派遣されたんですからー」
頬を膨らませながら甘ったるい声で説明するフラットさん。
「そうなんですね」
冒険者ギルドんの再建とは、さすがやり手のフラットさんだ。
……あれ?
そういえば、冒険者ギルドなのに、職員がフラットさんだけ?
いやいや、そんなはずないよな。
ボクは気配察知でギルド内の気配を探る。
人の気配があるけど、今にも息絶えそうな気配だ。
ボクはギルド内を見回すと、
「かわいい顔をして、なんてやり方で再建をするんだ……まるで悪魔の所業……」「過労死レベルの業務をこなしているはずなのに、どうしてフラットさんだけあんなに元気なの……」「本当に天使の皮をかぶった魔族なのでは?」
それぞれ遺言を残しながら、がくっと床に倒れる冒険者ギルド職員たち。
「あの、他の職員の方達が今にも死にそうなんですけど……」
「少しだけ手荒な再建案でしたので、体力がなくなっているだけですー。ポーションを飲ませるので、大丈夫ですー」
フラットさんは、床に倒れている職員一人ひとりの側にしゃがみこみ、口にポーションをねじ込んで、無理矢理中身を飲ませる。
再建案、少しじゃなくて死人が出るレベルだったのでは……
うん、深くツッコまないことにしよう。
「そういえばサイレントさん、どうして、カバッカの町で指名手配されているんですかー?」
「それには、山よりも高く、海よりも深いわけがありまして……」
「彼女がいない司祭様を怒らせたとかー、警備兵を殺害しようとしたとかー、冗談みたいな噂ばかりしか聞いてないので、本当のところを詳しく聞きたいですー」
どうしよう、冗談みたいな噂がほぼ事実なんだけど。
ここは適当にごまかすか?
いやいや、相手はカバッカ町で散々お世話になっていたフラットさんだ。
ごまかすなんてあり得ない。
「実はですね……」
ボクはカバッカの町で起こったすべてをフラットさんに包み隠さず話した。
「なるほどー。つまり、事故と誤解が生んだ悲劇だったんデスね?」
「そうなんです」
「それなら、絶対に誤解を解いたほうが良いですよー」
フラットさんは天使のような微笑みで提案をしてきた。
「そうですよね。誤解は解いた方がいいですよね」
ボクはフラットさんの提案にこくりとうなずく。
「そうですー。サイレントさんさえ宜しければ、私もお手伝いしますよー。カバッカ町での誤解と一緒に、ホバッカ村での大活躍を伝えますー?」
「え? ちょっと待ってください。どうしてボクがホバッカ村に行ったことを知っているんですか?」
フラットさんには、カバッカ村のことを話しただけで、ホバッカ村のことについては話していなかったはずだ。
「ホバッカ村に寄った時に、ムーとジュンから聞きましたよー」
「フラットさん、ムーとジュンを知っているんですか?」
「ええ、昔なじみですー」
「そうだったんですね」
世間は狭いな。
まさか、フラットさんとムーとジュンが知り合いだったとは思わなかった。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、冒険者ギルドへ行く。
サイレント、冒険者ギルドで天使のようにかわいいフラットさんと出会う。