18話 サイレント、ケンカに巻き込まれる
これまでのあらすじ
サイレントとアリア、地図を買いに冒険者ギルドへ行こうとするが道に迷う。
サイレント、道に迷っている途中でケンカしている場面に出くわす。
「あっちに人がいるみたいデス」
気配察知を使ったのであろう、アリアは急に占いしている女性たちの前を横切って、小走りし始めた。
「ちょっと待ってよ」
アリアが占い師のところを横切ったので、ボクもアリアを小走りで追いかける。
「それでは、話すぞ。本当は占いの結果を聞かずに、お金をそのまま払えば、うぬは神になれたが、占いの結果を聞いたので、うぬは重い心の病にかかるであろう」
ボクが占い師の前に通りかかると、占い師は女性に占い結果を話していた。
「何その占いっ!! 何で、占いの結果を伝えたのよっ!!」
女性は逆ギレして、今にも殴りかかりそうだ。
うん、触らぬ神に祟りなし。
素通りしよう。
ボクは何も聞かなかったことにして女性達の前を横切る。
「だから言ったであろう、うぬに悪いことが起こるって。うぬの良い運は全て、そこを小走りしている彼に渡ったのだ」
「はぁっ!?」
女性の驚く声。
そりゃあ、そうだ。
自分の良い運が見ず知らずの通りすがりの小走りしている人に渡ってしまったら、誰でもそんな声をだしちゃうよ。
ん? 小走りしている人?
それって……
ボクはあたりを見回す。
占い師の前で小走りをしているの男はボクだけだ。
まさか……
ボクは振り返って占い師の方を見る。
占い師の指は確かにボクを指していた。
「え? ボク?」
ボクは足を止めてしまっていた。
「人の運を盗むなんて、最低ねっ!! あんたのこと、絶対に忘れないからっ!!」
ローブを目深にかぶった女性はとてつもない威圧を放った女性が、ボクに足早に近づいてきた。
え?
何で近づいてくるの?
すごい大きな足音なんですけど……
ボクの目の前で足を止めた女性は、ローブの下からボクを睨みつけてくる。
今にも手が飛び出してきそうだ。
「えっと、ボクに何か用ですか?」
目が合わせられなかったボクは女性の顔を見ずに、地面を見ながら尋ねた。
「そうね、この犯罪者!!」
バチン。
ボクはビンタをもらった。
「犯罪者って、いや、ボク何もしてないよね?」
「妾の運を奪ったのが罪よっ! 存在自体が大犯罪っ!!」
「そんな横暴な」
ただ、ここを通りかかっただけなのに……
「さあ、結果は伝えた。金を置いて帰りな」
「これでいいんでしょっ!!」
占われていたお客の女性は机の上にバンとお金をたたきつける。
「ああ、問題ない。今度からはおととい来やがれ!」
「覚えていなさいっ」
女性は言い残すと、どこかへ行ってしまった。
「さて、若い人、先ほどの女性から運をもらったついでに、占われてはみぬか?」
占い師は占っていた女性を見送りもせずにボクに話しかけてくる。
イヤだよ。
だって、ネークラを教祖様にした張本人なんでしょ?
なんとか断らないといけないぞ。
「えっと、ボク、神になるんですよね? それ以上に占うことってあるんですか?」
ボクが本当に神様になるのなら占いなど必要ないじゃないか。
「それなら問おう。うぬが神になるのはいつだ?」
「いつって……知らないよ」
「そうだ。うぬが神になるのは明日かもしれぬし、10年後かもしれぬ。それまでに占って欲しいことがあるのではないか?」
「例えば?」
「それは……明日の天気とか」
「明日の天気とか全然気にならないんですけど」
この占い師、絶対に適当に言ったな。
「それなら、冒険者ギルドの場所とか」
今度は意味深にこたえた。
「確かに、ボク、冒険者ギルドに行こうとしていたんです」
「やはりの。それでは、冒険者ギルドの場所を占ってしんぜよう……」
言いながら占い師はトランプのようなカードをきりはじめ、1枚カードを引く。
「うむ、冒険者ギルドは間違いなくあっちじゃ」
占い師はびしりと冒険者ギルドの方向を指を指した。
「さすが占い師。占いで冒険者ギルドの場所を指し示すなんて……って、いやいや、騙されないから。冒険者ギルドの場所なんて最初から知っていたんでしょ」
危ない、危ない。
冒険者ギルドの占わなくても、場所さえ知っていれば、誰でも教えることはできるじゃないか。
「師匠、冒険者ギルドの場所が分かったデス」
誰かに冒険者ギルドの場所を聞いてきたのであろうアリアが声をかけてきた。
「あ、連れを待たせているので、行きますね」
ナイスタイミングだよ、アリア。
「まあ、待て。うぬは本当に神になるかもしれないのだから、私の占いをきいておいたほうがいい」
さっきの女の人には占いの結果は聞いて行かない方がいいって言っていたのに、ずいぶんとボクには聞けといってくるな、この占い師。
わかったぞ。
「神になるとか言って、ボクからお金をたくさんぼったくる気だな!!」
ボクは先ほど占い師がしたようにびしりと指を指した。
「ふん、そんなケチな仕事をするか!! 無料でいいさ!!」
無料でも、ボク、占いとか信じないから時間のムダな気がするんだけどな……
「無料でも占わなくていいです」
ボクは立ち去ろうとする。
「ちょっと待ちな。この世には2種類の人間がいる。『運という名のめぐり合わせに命じられるままの者』と、『自らを命じて運をつかもうとする者』だ。うぬはどっちだ?」
この占い師、何か格好いいことを言っているような気がするけど、どういうことなんだろう?
意味が分からない。
こういう時は……
「……って、訊かれてるよ、アリア」
ボクは駆けつけてきたアリアに話を振った。
「アリアデスか?」
「うぬは占いをする必要はない。そこのマヌケ面したお主じゃ」
「師匠をマヌケ面するなんてどういう了見デスか!! あの占い師、ただじゃおかないデス」
アリアはすでに大鎌を取り出していた。
「アリアは静かに大鎌をしまおうか」
話しがややこしくなる。
いや、アリアに話を振ったボクに責任があるんだけどさ。
「さあ、答えろ。『運』という名のめぐり合わせに『命じられる』者と、自ら『命じる』者だ。うぬはどっちだ?」
「そりゃあ、めぐり合わせを自ら命じる者でしょ」
ちょっと意味が分からなかったけど、アリアがいる手前、バカだと思われないために当然のごとく言う。
「それなら、ここに座りな」
有無を言わさずにボクの襟をつかんで椅子に無理矢理座らせるおばあさん。
「師匠に手を出すな!!」
またもや、大鎌を取り出しているアリア。
「大丈夫、アリア。ちょっとだけ占いを聞くだけだから。だから大鎌をしまおうか」
「それならアリアも一緒に聞くデス」
「我の占いはマンツーマン制だから、うぬは聞いちゃいけない。適当に時間を潰していな」
「師匠……」
「ごめん、ちょっとだけ、時間を潰してくれるかい?」
「分かったデス。大通りの喫茶店でお茶でも飲んでいるデス。占いが終わり次第、探してくださいデス」
アリアはとぼとぼと歩き始めた。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、ケンカに巻き込まれる。
サイレント、占い師に占いされる。