14話 サイレント、ニック村への移住を決める!?
これまでのあらすじ
サイレントとアリア、ニック村に入る。
サイレントとアリア、フェス様の像をみる。
「ところであんた達、巡礼しに来たんじゃないのなら、どうして、このニック村へ? 観光かい?」
ひとしきり笑った後、おばさんは急に真面目な顔で聞いてきた。
「観光ではなく、移住をしようと考えていまして」
ボクも真面目な声でこたえる。
「移住? ああ、分かった、お嬢様の家臣の移住先の斡旋だね。あんた、何をやらかしたんだい?」
おばさんは残念な目をしながらボクを見て尋ねてきた。
「師匠は家臣じゃないデスし、何もやらかしていないデス!!」
ムキになって否定するアリア。
おっ、その否定の仕方は、お嬢様っぽくないから信じてもらえそう。
「そうかい、そうかい。隠さなくったって、私には分かるよ。その言い方からして、大方、高級な皿でも割ったんだろ?」
アリアの言うことなど意に介さずに、決めつけてくるおばさん。
「そうなんですよ、ボク、ヘマしちゃって」
「師匠!?」
アリアはびっくりした表情でボクの顔を見る。
『ここは話をあわせたほうがよさそうだから、おばさんの話に乗っかろう』という意味を込めて、アリアにウィンクで返した。
ボクのウィンクに気づいたアリアはしぶしぶうなずく。
「そうだろうよ、私は気付いていたよ。アリアちゃんが『師匠からも何か言ってください』と助けを求めた時に、あたふたしながら返事をしていたことを。あんた、師匠って呼ばれ慣れていなんだろう?」
「そうなんですよ、まだ、呼ばれ慣れていなくって」
まあ、実際、アリアに師匠と呼ばれ始めて日が浅いから、呼ばれ慣れていないのは事実だしね。
「私の目は誤魔化せないよ」
「さすがです」
ボクはおばさんを持ち上げる。
こうやっておばさんの気分を良くしておけば、色々有益な情報を聞き出せるかもしれないしね。
「……ということは、やっぱり、アリアちゃんはお嬢様ってことでいいんだね?」
「えっと、まあ、そうデスかね?」
アリア、そこは曖昧に返事しないで、素直に『そうデス』とウソついておこうよ。
どんだけ、ウソをつくのが嫌いなんだよ。
「アリアがお嬢様ってことは、もちろん他の人には秘密ですよ」
ボクは人差し指を自分の口の前に突き出した。
後でアリアがお嬢様だと知った悪者が誘拐しにきた……みたいな面倒ごとになっても大変そうだからね。
「分かってるって。私は、秘密は守るタイプの人間だからね。お口にチャック」
そのチャック、すぐに外れそうなんだよな……
本人を前にして言えないけど。
「あの、ところで、この村は移住するには良い村なんですか?」
ボクは気を取り直して質問する。
「基本的には良い村さね」
「良い村だってよ、アリア」
「ちなみに、どんなお前さんはどんな暮らしがしたいんだい?」
「どんなって、どういうこと?」
「地道にコツコツ働きたいのか、それとも、危険を顧みず、働きたいのかってことだよ!!」
「選べるんですか?」
「もちろんさ」
うなずくおばさん。
「なんてすばらしい村なんだ」
よそ者には辛い仕事しか斡旋しないカバッカ町と、仕事が少なくて選ぶことができないホバッカ村とは大違いだ。
「そうだろう、そうだろう。ニック村はとても良い村だろう」
「どんな職業があるんですか?」
「そりゃあ、色々あるさね。安全かつ地道に頑張ろうと思えば、農業や林業だね。まあ手取りは安いけどね」
「農業とか林業はボクに向いていないかもしれないな……」
昔、孤児院で育てた野菜を一日で枯らして怒られた前科があるからね。
「それなら、天然石や鉄鋼石も取れるから、採掘場で働くのもありだ。崩落の可能性があるから、少し危険は伴うがね」
「もしボクにもっと腕力があれば、採掘場を選んだでしょうね」
ボクは細い腕をみせながらこたえた。
「それなら、樹海で珍しい木の実を採集する仕事はどうだい? 最近では樹海で行方不明者になる人が増えてきたから、今じゃ一攫千金の仕事さ」
行方不明者は多分、人ジゴクのせいだ。
ふふふ、でも、その人ジゴクはさっき狩ってしまったのだよ。
つまり、行方不明になる心配はないのさ。
これなら、大儲けできそうだよ。
おっと、でも人ジゴクを狩ったことがバレれば、きっと、みんな木の実採集を始めるだろう。
そうなれば、一攫千金は夢のまた夢。
ここは人ジゴクを狩ったとバレないように言わないといけないぞ。
「行方不明!? それは大変だ。でも、ボクは冒険者だから、行方不明にならずに木の実採集できそうだな」
ボクは不自然にならないように、おばさんに言う。
「何であんた棒読みなんだい?」
明らかに怪しがるおばさん。
「そんなことないですよ。ただ、一獲千金したいな……ってだけですよ」
「でも、師匠、珍しい木の実って高価なんデスよね? 村の人はそんなに高価なものを頻繁に買わないんじゃないデスか? 一攫千金は夢のまた夢なのではないですか?」
「確かに、それもそうか……」
「そうデスよ、師匠。それなら、アリアと一緒に色々なところを旅したほうが良いデス」
旅……ね。
旅と言うのは建前で、ボクに冒険者を続けさせて、魔王を倒させることが目的だな、アリア。
「ちょっと待ちな、お嬢さん。この村に高価な木の実を買う人がいないって? そんことないよ。フェス様のおかげで観光名所になっていて、お客様は入れ代わり立ち代わりするから、販売するには困らないさね」
「聞いたか、アリア。高価な木の実を売っても、お客様には困らないらしいよ。この村に移住しても大丈夫そうだ」
残念だったね、アリア。
「仕事に困らないことは分かったデスけど、治安はどうなんデスか?」
確かに。
治安大事だね、アリア。
移住したまでいいけど、そこが犯罪者の集まりだったら大変だ。
「ここはフェス様のご加護を受けているんだよ? もしも悪いことをすればそいつにバチがあたると信じられている。だから、この村では犯罪者はまったくないと言っていいんだ」
「なるほど、だから村の入り口に門番がいなかったのか」
「その通りさ。この村は基本的には良い村だよ」
おばさんは親指を突き立てサムズアップする。
「よし、ここに住もう!!」
思い立ったが吉日。
すぐに決めたほうが良いだろう。
「師匠、ちょっと待つデス。基本的にはということは、何か問題があるはずデス」
「いやいや、そんなことないって。農業も林業も盛んで、天然石も鉄鋼石もあって、珍しい果物が高価で売れるんだよ。問題ないですよね、おばさん」
ボクはおばさんの方を振り返る。
「あるよ。問題」
「あるんかいっ!」
満面の笑みで言うおばさんにボクはツッコミを入れてしまった。
忙しい人のためのまとめ話
サイレントとアリア、おばさんにニック村に来た目的を伝える。
サイレント、ニック村に住もうとする。