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12話 サイレント、話題を変えようとする







忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、話題を変えようとする。

 サイレントとアリア、村を発見する。

「時にアリア、ノドが渇いてないかい?」

「渇いているデス」


「目の前に川の水があるんだから、水飲みへとシャレこもうよ」

 さあ、アリア。

 ボクの誘いに乗るんだ。


 この誘いにアリアが乗ってさえしてくれれば、話題が人ジゴクから水飲みへと変わるのだから。


「そうデスね。水は飲めるうちに飲んでおいた方がいいデス」


 ボクの誘いに乗ったアリアは川の水を水筒で汲み始めた。

 やった、うまく話を逸らすことができたぞ。


「そうそう、また魔物が襲ってくるかもしれないんだからさ」


「時に師匠、良いニュースと悪いニュースがあるデスが、どちらから聞きたいですか?」

 川の水を汲んでいたアリアがボクに訊いてきた。


 ええっ!?

 良いニュースと悪いニュースがあるの?

 今ここで?


「それなら、悪いニュースから聞きたいな」

「今、この川の水の中に、ジツゲンゴロウがいるデス」


「何だって!?」

 ボクはダガーを抜いて身構える。


 幻覚を現実化する魔物じゃないか。


「そして、良いニュースは、すでにアリアが倒したデス」

 アリアはボクの手の中の潰れたゲンゴロウをみせてきた。


 うん、別にわざわざ見せに来なくてもいいんだよ、アリア。

 虫の死骸は見ても面白いではないのだから。


「もう、アリア、驚かさないでよ。破裂音がしなかったから、まだ生きているのかと思ったよ、ジツゲンゴロウ」

「破裂音デスか? そういえば、人ジゴクを師匠が倒した時にアリアも聞いた気がするデス、破裂音。あれは何だったんデスか?」


 人ジゴクを倒すと破裂音がするものだと思っていたけど、アリアの反応から察するに、破裂音はしないみたいだ。

 ……って、なんでまた人ジゴクの話題になっているんだよ。


 せっかく、水汲みの話題に変えたのに。


 まったく、誰だよ、人ジゴクの話題に変えたのは…………ボクだ。

 はやく話題を変えないと。


「そういえば、ボクのダガーと気配察知のコンボをすると破裂音がするんだった。はっはっはっ。さあ、水を飲もう!」

 ボクは無理矢理にでも話題を変える。


「師匠がコンボを使うと、破裂音がするんデスね。勉強になるデス。師匠は他にもコンボがあったりするデスか?」

 目を輝かせるアリア。


「他にはないよ、アリア。それよりもアリア、水を飲もう。もちろん、煮沸してからね」

「でも、アリア、師匠のことをもっと知りたいデス」

 まずい、このままだと、またウソを言ってしまいそうだ。


「アリア、ボク達は今まさに脱水症状なんだ。すぐにでも水分補給をするべきなんだ」

「分かったデス」


「今、火をつけるね」

 ボクはすぐに火種を作り、薪をくべて火を育てた。

「煮沸はアリアに任せるデス」


「任せたよ」

 ふう、これでウソはつかなくて良さそうだ。



 …………

 ……


「さて、アリア、これからどうしようか?」

 煮沸した川の水を飲み終えたボクはアリアに尋ねる。


「ご飯になりそうなものを狩るデスか? それとも、川で水浴びをするデスか? それとも……」

「それとも、何?」

 ボクはごくりと生唾を飲み込む。


「それとも、村や町を探すデスか?」

「いやいや、闇雲に探しても見つからないでしょ、村とか町なんか」


「そうでもないデスよ」

 アリアは首を横に振る。


「え?」

「騙されたと思って、アリアについてきてくださいデス」

 アリアは歩き始めた。


「まあ、行く当てもないからついていくけれども、でも、村とか町がすぐに見つかるわけないよ」


「この川沿いを下流に歩いていけば、すぐにでもどこかの村か町に着くはずデス」

 当たり前のように言うアリア。


「何でそう言い切れるのさ? もしかしてアリア、ここらへんの土地に詳しいの?」

「詳しくないデス」


 そうだよね。

 アリアはカバッカ町からでたことのない箱入り娘だもんね。


「詳しくないなら、地図もないのに、どうして近くに村か町があるってことが分かるのさ? もしかして、当てずっぽう?」


「ちゃんと根拠があるデス」

「教えてもらおうじゃないか」


「師匠、人は水無しにはいきていけないデスよね?」

「うん、確かにそうだね」


「だから、人は水を確保しやすいように、川の近くに住むものなのデス。ここは樹海の中なので望みは薄いデスが、そのうち樹海がなくなれば、村や町があるはずデス」

「川があるというだけじゃ、根拠が薄いよ」


「根拠はそれだけではないデス」

「他の根拠があるということ?」


「あるデス。それは、人ジゴクが棲んでいた……ということデス」

「人ジゴクが棲んでいると何なの?」

 確かに、人ジゴクには『人』という文字が入っているけど、それが村や町と何の関係があるのさ?


「人ジゴクは人の肉が大好物デス。でも周りに人がいなければ好物の人の肉にはありつけないはずデス」

「まあ、それは一理あるかもしれないけど。でも、人ジゴクが人の肉を食べていないだけかもよ」


「確かに、師匠の言う通り、人ジゴクが人のお肉を食べていない可能性はあるデス」

「そうだよ、こんな樹海に人なんか来ないよ」


「デスが、この樹海、人の往来はある可能性が高いデス」

「何でさ?」


「この樹海には、珍しい木の実や果物が生っているデス。これを売れば大儲けできるからデス」

 アリアは近くにあった木に生っていた赤い実を大鎌で切り取ってからこたえた。

「人ジゴクとジツゲンゴロウがいるこの樹海に来る人なんていないと思うけどな……」


「この実を食べながら、下流に下っていけば分かることデス」

「いやいや、そんな都合よく、下流に歩いているだけで村や町が見つかるわけないよ。獣道を走って来たんだ。ちょっとやそっとで村が見つかるはずがあるわけない」


「師匠、村らしき集落があるデス」


「そりゃあ、そうだよ。村なんてのはすぐに見つかるものじゃないんだから……って、村があるだって?」

 ボクは聞き返してしまった。


「はい、目の前にあるデス」

 指を指すアリア。


 確かに、アリアの指さす先には、石で造られた大きな門と村を囲う木でできた柵らしきものがあった。


「すごいね、アリアは」

 素直に感心するよ。


「そんなことないデス」


これまでのあらすじ

 サイレント、川が本物だと気づく。

 サイレント、人ジゴクが倒されていたことに気づく。

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