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第11話 サイレント、アリアを育てた両親に感謝する

これまでのあらすじ

 アリア、脱水症状になった後、川を見たので、サイレントに伝える。

 サイレント、川を見ようとしない。





 

「師匠が見ないなら、アリアがちょっと様子を見てくるデス」

「川に近づいたらダメだよ、アリア」


 きっと、船頭に化けた死神に、無理矢理にでも船に乗せられて、その後は天国についちゃうよ。



「デスが、アリア、のどがカラカラなので、水を飲みたいんデス。師匠も水を飲みたいデスよね?」

「飲みたいか飲みたくないかって言われたら、そりゃあ、飲みたいけど……」


 そりゃあ、ボクだって喉はカラカラだしね。


「それなら、そこでちょっと待っていてくださいデス」

 アリアはフラフラと歩き始めた。


「アリア、川に近づいちゃダメだ」

 ボクはアリアの腕をぎゅっとつかんで、現世に残そうと食い止める。


「大丈夫デス。飲めそうな水かどうか確かめるだけデス」

「確かめるのもダメなんだってば、アリア」


 ボクはアリアの腕をもっと強く握るが、アリアを完全に止めることはできずにずるずるとひきずられてしまった。


「師匠、川デス」

「ダメだ、アリア……って、あれ? 本当だ!!」


 目の前には、れっきとした川があった。

 ボクは目をこすってもう一度確認する。


「はっ、もしかして、ボクにも幻覚が見えだしたということか……」

「幻覚じゃないデス、師匠。これは正真正銘の川デスよ」


「本当だ」

 目の前にあるのは三途の川などではなく、正真正銘の川だ。


「どうして? さっきまで砂漠だったのに」

「師匠が人ジゴクを倒したから、幻覚が消えたんじゃないんデスか?」


「え? ボクが倒した? 人ジゴクを?」

 いやいや、そんなわけないでしょ。


「そうデス。師匠、地面にダガーを刺していたデスよね?」

「確かに刺したけれども」


 それは、人ジゴクを倒したくて地面にダガーを刺したわけじゃないんだよ、アリア。

 自分で自分が嫌になって、どうしようもなくなった気持ちを爆発させた結果として一突きしたんだよ。


「きっと、師匠の一突きが人ジゴクに当たったんデスよ」

「ええっ!?」


 マジか!?

 まさかのラッキーパンチならぬ、ラッキーダガーで倒したってこと!?


「師匠、どうしてそんなに驚いているデスか? もしかして、地面への一突きは当てずっぽうだったんデスか?」


『その通り』と言いかけて、ボクはすんでのところでその言葉を飲みこんだ。

 そんなことを言ったら、今まで積み上げてきた師匠としての面目が丸つぶれになってしまう。


 本当のことはアリアに言えないな。


「当てずっぽう? そんなわけないよ。ここに人ジゴクがいると分かったから一突きにしたんだよ。はっはっはっ」


 アリアは今、ボクが気配察知を使って人ジゴクを倒したと勘違いしているんだから、その勘違いを利用して、ボクが気配察知をして本当に倒したことにしてしまえ。


 そうすれば、ボクの師匠としての威厳も保てるってもんだ。


「もしかして、師匠、土の中の気配も分かるんデスか?」


 うわっ、話を深堀された。

 ボクのウソが矛盾しないうちに、はやくこの話題を切り上げたいのに……


「もちろんさ。ボク位になると、土の中までは難しいけど、表層の気配は分かるんだよ。はっはっはっ」

 表層の気配も分かるはずもないのに、ボクはキラキラな笑みを作りながらアリアに嘘でこたえていた。


「さすが、師匠デス」


 目を輝かせるアリア。

 ふふふ、アリアめ、勘違いしているぞ。

 ああ、ボクの良心が痛む。


「どうやったら、土の中まで気配察知できるようになるんデスか?」

「それはもちろん、企業秘密さ、はっはっはっ」

 今更できないなんていえるわけがない。


「そこを何とか教えて欲しいデス」

 こたえられるわけないでしょ。


「実はね、ボクのダガーと気配察知の『コンボ』を使えば、土の中にいる人ジゴクなんか、いとも簡単に魔物を追跡して、倒すことができるんだよ。はっはっはっ」


 偽りの回答、しちゃったね。

 仕方ないんだ。

 だって、最近覚えたばっかりの『コンボ』って言葉をどうしても使いたかったんだもの。


「土の中の魔物を倒すことができるなんて、まるでティタン製の銃から放たれる貫通魔法弾みたいデスね」

「おいおい、アリア、忘れちゃったのかい? ボクのダガーはティタン製だろ?」


「え? 師匠の武器は初心者用のダガーで、魔力が必要なティタン製ではないデスよね?」

「アリア、それなら聞くけど、それ以外の方法でどうやって倒したというんだい?」


「それは……分からないデス。どうやってデスか?」

 アリアはボクに訊いてくる。


「だから、このティタン製のダガーで倒したんだよ!! はっはっはっ」

 ボクはアリアにダガーをみせつけた。


「アリアが間違っていたデス。本当にそのダガーはティタン製だったんデスね」


 うん、違うよ。

 ボクのダガーは多分、ぼったくりにあったパチモンだよ。

 でも本物ということにしておこう。


「その通りさ、アリア。はっはっはっ」


「ところで、師匠、そんなコンボがあるなら、人ジゴクが土に戻った瞬間、すぐにそのダガーを使えば良かったのに、どうして、今の今まで何で使わなかったんデスか?」


 え?

 どうしてすぐに使わなかったか……って?


『いやいや、そんなコンボ、本当はないからね』……なんて言えるわけがない。


「それは……そう、すっごく魔力がいるから、ずっと魔力を込めていたんだよ。はっはっはっ」

「なるほど」


 良かった、ボクのウソをウソで固めた説明に納得してくれて。

 これも何もかも、アリアが素直なお嬢様だったおかげだ。


 違う性格だったら、騙しきれなかったな。

 アリアを素直に育ててくれた、アリアのお父さんとお母さんにマジで感謝だ。


忙しい人のためのまとめ話


 サイレント、川が本物だと気づく。

 サイレント、人ジゴクが倒されていたことに気づく。


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